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行く前はあんなに暗かったのに
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足の指を回される。
ゆっくりと右に、そして同じ回数逆にも。
ベストフレンドの湯に行ってきた後というこのお客さんは、湯の効果でつるつるとした肌になっていた。
疲れがたまっているときは、すぐに癒してほしい、回復させてほしいと思うものだが、体というのはそうではない、なので疲れているときほど丁寧に、それこそ疲れた体の代わりに動いているようなものなのだ。
このお客さんはお任せするからスッキリしたいという注文であり、お任せというのは蘆根の得意技である。
何しろツボを手早く押すと痛みがでる場合がある、これではうとうとしている場合、寝ていられない、だからこそ、こうしてまずは足の指を回したり、皮膚を擦ることから始まるのである。
クリームは特に高くはない、他のお店でも導入されているベーシックなものだ。
香りにこだわるのもいいのだが、香りには好みがある、肌を潤わせ、また伸びがいいこのクリームは、マッサージの練習中でも買えるほどの安価だが、頼もしい存在であった。
さするだけでも、ここはツボを押したらコリコリするだろうなはわかるもので、このお客さんは疲れのせいで、流れが全体的に悪いように思われる。
五感を司る部分がまず過敏になってるのではないか?
(いや、これはそれだけじゃないな)
両目というより利き目、考えすぎで胃にも来てる。
こういうお客さんは普段ならば、悪いところからツボを押し、今のは痛いよ蘆根さんなんていわれるのだが、時間があるのならば別だ。
じっくりと探れる。
トントン
こうしてトントン叩くときはストレスに効かせていた。
何故かストレスはこれで落ちるが、落ちるまで叩くことが求められるので、○○分メニューだと取り入れることが難しい。
(効くことは効くんだがな)
本当にこれは個人差である。
念入りに優しく叩く、ストレスに届いて、崩れるまでやるとなると、マッサージする側の体力も求められる。
マッサージもなかなかに面白い人たちがいて、どうしたらこれでさっぱりするのか、蘆根の目からはわからない人たちがたくさんいる。
それこそ『白狐』のマッサージという看板がない、口コミ紹介だけでお客さんがあるお店なんかでは、行く前はあんなに暗かったのに、帰ってきたら顔が明るくなって別人とか。
痩身で有名なところなんかは、まず行くと痩せるきっかけになるそうだ。
「そこは食べ物に関係する考え方が改められるから、そうだな、これを飲むとかで痩せるとか考えちゃう人は行くといいんじゃないかな」
これは蘆根にマッサージを教えた先生の一人の談。
食べて解消してきたストレスをマッサージで解消したいと思うらしい。
「ただそこはマッサージする方も疲れるけども、される方も疲れるから、そのまま仮眠するか、一泊どっかに宿をとった方がいいよ」
それこそ、疲れたときに入ったお風呂上がりぐらいの眠さになるそうだ。
「上手く自分の力では疲れや不調をなんとかできなくなっているから、代わりに私たちが頑張って、元気を取り戻してもらうって感じだね」
この先生の場合は、サラリーマンのお客さんが本当に多かった。
「やっぱり痛いよりはさっぱりするとかそういう店の方がお客さんはくると思う。痛い方が効くことは効くんだけども、なんていうの罰ゲームみたいな感じで来店されてもね、困っちゃうでしょう、だから定期的に来てくれるような仕組みの方がいいんだけども」
「このお店予約いっぱいで、定期的に訪れるのももう難しいですよね」
「そうなんだよな、これでもスタッフ増やそうかなって思ってはいたんだけども、習いに来る人たちはうちで働くというより、独立したい、蘆根くんもそうでしょ?」
「はい、それは」
「それはそれでしょうがないよ、手に職をつけるというのは大事なことだしな。個人的には先生として選ばれるということは、嬉しさもあるけども、腕を認められたんだなってことでホッとしてるよ」
「そんなもんなんですか?」
「そんなもんだね、この業界たくさんとんでもない人はいるじゃん?習うことで人生を変えたいっていう人も来てるし、そういうのには応えたいよね」
この先生は非常に熱心に学び、そしてわかりやすく教える。
「ただな、教えたら、それをマニュアルで販売した生徒はいたから」
「えっ?それは」
「売れなかったみたいだよ」
「そうなんですか?」
「ほら、理論はわかっていても、実際にマッサージしていかないとわからないことはたくさんあるし、その上でまたわかったことをメモしていったりすると、一度マニュアル作っても、永遠に改訂版がでるようなものだしな」
この先生はそういう面倒なことが苦労だと思わないタイプである。
「とりあえず蘆根くんは、疲労がきちんと取れるように、それがわかるようになるまでは卒業はないからね」
「わかりました」
そして卒業後もしっかりと学ぶように言い付けており、ある時何を今学んでいるかと聞かれたら。
「ケットシーがうちにいるんですが、ケットシーを毎日揉んでいます」
「おお、それはいいね、ケットシーや猫、犬などは、下手だとすぐに嫌がるからね」
「わかります、最初はもういいってどっかにいってしまいました」
「人間はあまり良くなくても我慢して、そのまま次は来店しなくなるということがあるから、ケットシーをそのまま揉みなさい、向こうから駆け寄って揉んでほしいと来るようになったら、一人前だと思いなさい」
「わかりました」
蘆根はその教えを守り、ケットシーのイツモどころかKCJの支部にいるワンニャンも、見かけると揉みこみはじめた。
(やっぱり感じが全部違うものだな)
未だに新しい発見がある、マッサージというのはどうやら人類が挑むには深すぎるようだ。
だがそれがいい、蘆根の性格にはぴったりであった。
ゆっくりと右に、そして同じ回数逆にも。
ベストフレンドの湯に行ってきた後というこのお客さんは、湯の効果でつるつるとした肌になっていた。
疲れがたまっているときは、すぐに癒してほしい、回復させてほしいと思うものだが、体というのはそうではない、なので疲れているときほど丁寧に、それこそ疲れた体の代わりに動いているようなものなのだ。
このお客さんはお任せするからスッキリしたいという注文であり、お任せというのは蘆根の得意技である。
何しろツボを手早く押すと痛みがでる場合がある、これではうとうとしている場合、寝ていられない、だからこそ、こうしてまずは足の指を回したり、皮膚を擦ることから始まるのである。
クリームは特に高くはない、他のお店でも導入されているベーシックなものだ。
香りにこだわるのもいいのだが、香りには好みがある、肌を潤わせ、また伸びがいいこのクリームは、マッサージの練習中でも買えるほどの安価だが、頼もしい存在であった。
さするだけでも、ここはツボを押したらコリコリするだろうなはわかるもので、このお客さんは疲れのせいで、流れが全体的に悪いように思われる。
五感を司る部分がまず過敏になってるのではないか?
(いや、これはそれだけじゃないな)
両目というより利き目、考えすぎで胃にも来てる。
こういうお客さんは普段ならば、悪いところからツボを押し、今のは痛いよ蘆根さんなんていわれるのだが、時間があるのならば別だ。
じっくりと探れる。
トントン
こうしてトントン叩くときはストレスに効かせていた。
何故かストレスはこれで落ちるが、落ちるまで叩くことが求められるので、○○分メニューだと取り入れることが難しい。
(効くことは効くんだがな)
本当にこれは個人差である。
念入りに優しく叩く、ストレスに届いて、崩れるまでやるとなると、マッサージする側の体力も求められる。
マッサージもなかなかに面白い人たちがいて、どうしたらこれでさっぱりするのか、蘆根の目からはわからない人たちがたくさんいる。
それこそ『白狐』のマッサージという看板がない、口コミ紹介だけでお客さんがあるお店なんかでは、行く前はあんなに暗かったのに、帰ってきたら顔が明るくなって別人とか。
痩身で有名なところなんかは、まず行くと痩せるきっかけになるそうだ。
「そこは食べ物に関係する考え方が改められるから、そうだな、これを飲むとかで痩せるとか考えちゃう人は行くといいんじゃないかな」
これは蘆根にマッサージを教えた先生の一人の談。
食べて解消してきたストレスをマッサージで解消したいと思うらしい。
「ただそこはマッサージする方も疲れるけども、される方も疲れるから、そのまま仮眠するか、一泊どっかに宿をとった方がいいよ」
それこそ、疲れたときに入ったお風呂上がりぐらいの眠さになるそうだ。
「上手く自分の力では疲れや不調をなんとかできなくなっているから、代わりに私たちが頑張って、元気を取り戻してもらうって感じだね」
この先生の場合は、サラリーマンのお客さんが本当に多かった。
「やっぱり痛いよりはさっぱりするとかそういう店の方がお客さんはくると思う。痛い方が効くことは効くんだけども、なんていうの罰ゲームみたいな感じで来店されてもね、困っちゃうでしょう、だから定期的に来てくれるような仕組みの方がいいんだけども」
「このお店予約いっぱいで、定期的に訪れるのももう難しいですよね」
「そうなんだよな、これでもスタッフ増やそうかなって思ってはいたんだけども、習いに来る人たちはうちで働くというより、独立したい、蘆根くんもそうでしょ?」
「はい、それは」
「それはそれでしょうがないよ、手に職をつけるというのは大事なことだしな。個人的には先生として選ばれるということは、嬉しさもあるけども、腕を認められたんだなってことでホッとしてるよ」
「そんなもんなんですか?」
「そんなもんだね、この業界たくさんとんでもない人はいるじゃん?習うことで人生を変えたいっていう人も来てるし、そういうのには応えたいよね」
この先生は非常に熱心に学び、そしてわかりやすく教える。
「ただな、教えたら、それをマニュアルで販売した生徒はいたから」
「えっ?それは」
「売れなかったみたいだよ」
「そうなんですか?」
「ほら、理論はわかっていても、実際にマッサージしていかないとわからないことはたくさんあるし、その上でまたわかったことをメモしていったりすると、一度マニュアル作っても、永遠に改訂版がでるようなものだしな」
この先生はそういう面倒なことが苦労だと思わないタイプである。
「とりあえず蘆根くんは、疲労がきちんと取れるように、それがわかるようになるまでは卒業はないからね」
「わかりました」
そして卒業後もしっかりと学ぶように言い付けており、ある時何を今学んでいるかと聞かれたら。
「ケットシーがうちにいるんですが、ケットシーを毎日揉んでいます」
「おお、それはいいね、ケットシーや猫、犬などは、下手だとすぐに嫌がるからね」
「わかります、最初はもういいってどっかにいってしまいました」
「人間はあまり良くなくても我慢して、そのまま次は来店しなくなるということがあるから、ケットシーをそのまま揉みなさい、向こうから駆け寄って揉んでほしいと来るようになったら、一人前だと思いなさい」
「わかりました」
蘆根はその教えを守り、ケットシーのイツモどころかKCJの支部にいるワンニャンも、見かけると揉みこみはじめた。
(やっぱり感じが全部違うものだな)
未だに新しい発見がある、マッサージというのはどうやら人類が挑むには深すぎるようだ。
だがそれがいい、蘆根の性格にはぴったりであった。
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