浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

文字の大きさ
上 下
471 / 995

生きてて良かった

しおりを挟む
ああ、これは…と思う。
過労である。
ただそうなっているときの自分はそれを感じることはできない。
思い返せば疲れが溜まっていた。
いつもできることがスムーズではない。
こういうときは何をしても無駄である。
へそくりを出す。
中に入っている額は浜薔薇で使うものと決めており、事あるごとに溜め込んでいた。
確かに浜薔薇まで行けば、KCJが炊き出しなどをやってくれているが、家からの距離と、他に食べなければなりらい理由があるので、いつもお世話になれないのである。
本当はベストフレンドの湯に行ってから浜薔薇なのだが、今の感じだとお湯に浸かるよりは先に蘆根さんに任せた方がいいだろうという気分。

「いらっしゃいませ」
長らく浜薔薇に通っているお客さんなのだが、来店するときはいつも目が半目、眠そう か嫌なことがあったのかなという表情をしている。
先にお金を渡してくる。
前に疲れたときに聞くと、目覚めなかったら困るし、覚えてないのも不味いからだそうだ。
中には前に髪を切り、シェービングしたばかりの写真と、前回何をしたのかのメニューがのっていた。
椅子に座ってもらい、カットクロスを首もとで結ぶ。
このお客さんは気を付けているつもりなのだが、年に何回か自力で疲れが取れなくなるという。
この眠そうな顔も、するっと寝付けないので、ずっとこのままになってしまっていたそうだ。
髪は指示通りに切る。
写真も後のことを考えて撮影した。
シェービング、油断しているので剃り残しあり、瞼などの部分は際までしっかり。
耳掃除、硬い垢が溜まっている。
汗はしっかりかいていたからこそ、この硬さ、これからは蒸れる時期であった。
パリ
薄いものから。
カリ
厚みがあるものまで。
プチ
ピンと張っている産毛が剃られた。
しばらくぶりの耳掃除だったのだろう、白い紙の上には耳の中から取り除かれた垢がよく目立っている。
そしてシャンプーとなるが、これもまたお任せでいいので、それならばと『イツ毛』を使わせてもらうとしよう。
あなたにもケットシーのような艶、『イツ毛』は浜薔薇の王子こと、イツモを見たあのメーカーの研究員が、次の限定商品の会議のためにつけたメモにあった言葉から名付けられた。
「ただこれも、疲れていたんだと思います、メモをつけたときの記憶が…ないんで」
もしかしたら、ただそのまま『イツモ』という名前だったかもしれない。
「覚えているのは、王子の名前の由来ですね」
海藻みたいな毛並みから、あの海藻名前何て言ったかな…「イツ藻」だったら、「イツモ」で良いのではないか?だから「イツモ」で、何故に彼の名字は蘆根ではなく、浜薔薇かというと。
「KCJのケットシー戸籍っていうのがあって、それで名前がずっと残るっていう話だったから、それなら店の名前残したほうがいいんじゃないかって思ったんだけども」
タモツはお前な、そんなんしなくてもとその話を聞かされたときはそういってたんだが。
「余計なことしたかなってずっと思ってたんですけども、町内会の集まりで」
この間ね、タモツさんが久しぶりに飲んだんだけどもね、その時ね、俺はいい弟子に恵まれたんだ、店は閉めるつもりだったんだがな、名前がな、残るように、イツモの名字がな、浜薔薇になったんだよ。
「あ~生きてて良かったって、ただこれタモツさんにはいわないほうがいいから」
「わかりました」
と近所の人から言われた。
そんなことをシャンプーしてたら思い出した。
湯でたっぷりと洗ってから、イツ毛をまんべんなく塗布して、洗う。
海藻の成分が非常に細かく、それがしっかりとした髪を作り上げてくれる。
ハッ!
お客さんがこの辺りで覚醒した。
「お疲れ様でした」
「ああ、ああ~やっぱり疲れてたか、なんかふらふら浜薔薇にいかなきゃ、たどり着いたはあったけども、疲れがとれなきゃ、寝ぼけていたのと変わらないよね」
「今回も大分お疲れだったようで」
「疲れ溜め込まないようにしててもこれだよ」
「食事の制限も続けてるんですか?」
「続けてる、浜薔薇に毎日来れるお客さんたちが羨ましいよ」
そのままストレッチマッサージをして。
「今日はそのまま寝てくださいよ」
「そのつもり、またお願いするわ」
髪を切ってすぐの写真を受け取り、お客さんは帰っていった。
浜薔薇に毎日来ているお客さんはそれ以前と比べてどうですか?アンケート、感想は頻繁にとっているのだが。シャンバーの人たちは、疲れ方が違うと答えているものが多かった。
「マッサージは毎日してもらいたいですが、費用面ではむずかしいんですけども、浜薔薇はシャンプーラッシュがあるから朝夕通えるんですよ」
リーダーも仕事で画面を見ることが多いので。
「肩こりと疲れ目が減る減る軽い軽い」
それに気づいた時にはもう浜薔薇から離れられない!
浜薔薇というお店を知らない人が、朝、その前を通りすぎると、店に入りきらない人たちが、シャンプークロスを身につけ、ずらっと座ってるので、二度見もしくは目を背けたひするそうだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...