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沼クーポン
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無力な自分を今も恥じる。
「そこまで自分を追い詰めることもないでしょうに」
「そうもいかないよ」
あの時なんで自分は気がつかなかったのだろうか、気づいていればなんとかなっていたのではないか…そう思えばそう思うほど…
「あなたには休息が必要ですよ、それにその髪」
「ああ、うちの奴にも言われたよ」
『んほっミルクを10回言ってください』
「んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク…」
「勢いよすぎて11回言ってますね、じゃあこれは?」
『んほっミルクふれっしゅスクウィーズ!』
「お客様は当店初来店なのですが、何かしてはほしくないことはありますでしょうか?」
同僚がクーポンをくれた、一回サロン無料らしい、いつものところだと、「大変でしたね」という視線に耐えれないから、全く違う店に行くというのはいいことなのかもしれない。
「特にないですね」
「それでは準備いたしますので、そちらにお掛けになってお待ちください」
このお客様が利用したクーポンは、浜薔薇ファンクラブから発行されているご招待クーポンである。
サロン無料というもののため、クーポン発行の際も会員からいろんな、それこそ賛否両論というやつだった。
「ただシャンプーラッキー!とかいうやつに使ってほしくはないので」
その意見はもっともである。
なとで代わりに招待クーポンを渡した会員が、提案書や報告書、浜薔薇のこれからについての作業をするということで話は通ることになった。
「縛りはきついんだけども、お金は出せないが、こいつにはどうしても浜薔薇を体験してもらいたいって言って、ファンクラブの運営手伝ってる人多いですかね」
一番利用しているのはシャンパーである。
理由はたくさんあるが、まずシャンプーラッシュ限定のクーポンにすると、他のメニューより会へのボランティア活動の時間が短かったりするのが大きいだろうか。
それと誘った方も、耳かきをしてもらうより、シャンプーをしてもらう方がハードルが低いし。
「退院してきた人にあげるとすんごい喜ぶ」
「わかゆ!」
目の手術などをするとお風呂禁止になるので、理美容室で洗ってもらうを選択する人が多い。
「一回2000円とか、安くないんですよ、招待したあとにへぇシャンプーラッシュ、それを知って、シャンプーラッシュの時間帯に利用するパターンもありますね」
毎日シャンプーの習慣をつけることで、闘病生活などのアクセントになるようだ。
「お酒に向かう人とか結構いるんだなって、説明聞いたら、それがシャンプーになるなら、健康的じゃないですかね」
このクーポンは会員内から沼クーポンと呼ばれているが、実際これをきっかけではまる確率が高いから、ぴったりである。
『あなたも沼へご招待』
(これはずいぶんと溜め込んでるな)
まずはシェービングからとなったが、ヒゲは剃ってはいるのだが、剃り残しを所々にみられる、この残し方はこのぐらいなら死ぬわけではないしという、諦めにも似た感情が見られた。
額から細かい泡と共に産毛を剃りあげていく、顔には緊張が見られた。
蘆根の指が頬に降り立ち、その指を軸にして瞼の上にカミソリを滑らせた。
このお客さんがどういうものを背負っているのかは知らない。
でもこの一時だけは心安らかにしてほしい。
こんなとき、自分が磨いてきた技の意義を見いだす。
シェービングが終わり、蒸しタオルで包みあげると、お客さんが深呼吸をした。
いくらかばかりでも軽くなったのならば幸いです。
ここにタキがいたのならば、蘆根の姿に自分と同じように使徒と認定された男の影を見ただろう。
福音または追風と呼ばれた男がいなくなって、もう何年だろう。
やはり使徒は新しく認定されるべき時なのだろう、この世には癒しが必要だ、悲しみにはシェービング、いや耳掃除やマッサージは絶対にいるのだから。
「そこまで自分を追い詰めることもないでしょうに」
「そうもいかないよ」
あの時なんで自分は気がつかなかったのだろうか、気づいていればなんとかなっていたのではないか…そう思えばそう思うほど…
「あなたには休息が必要ですよ、それにその髪」
「ああ、うちの奴にも言われたよ」
『んほっミルクを10回言ってください』
「んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク
んほっミルク…」
「勢いよすぎて11回言ってますね、じゃあこれは?」
『んほっミルクふれっしゅスクウィーズ!』
「お客様は当店初来店なのですが、何かしてはほしくないことはありますでしょうか?」
同僚がクーポンをくれた、一回サロン無料らしい、いつものところだと、「大変でしたね」という視線に耐えれないから、全く違う店に行くというのはいいことなのかもしれない。
「特にないですね」
「それでは準備いたしますので、そちらにお掛けになってお待ちください」
このお客様が利用したクーポンは、浜薔薇ファンクラブから発行されているご招待クーポンである。
サロン無料というもののため、クーポン発行の際も会員からいろんな、それこそ賛否両論というやつだった。
「ただシャンプーラッキー!とかいうやつに使ってほしくはないので」
その意見はもっともである。
なとで代わりに招待クーポンを渡した会員が、提案書や報告書、浜薔薇のこれからについての作業をするということで話は通ることになった。
「縛りはきついんだけども、お金は出せないが、こいつにはどうしても浜薔薇を体験してもらいたいって言って、ファンクラブの運営手伝ってる人多いですかね」
一番利用しているのはシャンパーである。
理由はたくさんあるが、まずシャンプーラッシュ限定のクーポンにすると、他のメニューより会へのボランティア活動の時間が短かったりするのが大きいだろうか。
それと誘った方も、耳かきをしてもらうより、シャンプーをしてもらう方がハードルが低いし。
「退院してきた人にあげるとすんごい喜ぶ」
「わかゆ!」
目の手術などをするとお風呂禁止になるので、理美容室で洗ってもらうを選択する人が多い。
「一回2000円とか、安くないんですよ、招待したあとにへぇシャンプーラッシュ、それを知って、シャンプーラッシュの時間帯に利用するパターンもありますね」
毎日シャンプーの習慣をつけることで、闘病生活などのアクセントになるようだ。
「お酒に向かう人とか結構いるんだなって、説明聞いたら、それがシャンプーになるなら、健康的じゃないですかね」
このクーポンは会員内から沼クーポンと呼ばれているが、実際これをきっかけではまる確率が高いから、ぴったりである。
『あなたも沼へご招待』
(これはずいぶんと溜め込んでるな)
まずはシェービングからとなったが、ヒゲは剃ってはいるのだが、剃り残しを所々にみられる、この残し方はこのぐらいなら死ぬわけではないしという、諦めにも似た感情が見られた。
額から細かい泡と共に産毛を剃りあげていく、顔には緊張が見られた。
蘆根の指が頬に降り立ち、その指を軸にして瞼の上にカミソリを滑らせた。
このお客さんがどういうものを背負っているのかは知らない。
でもこの一時だけは心安らかにしてほしい。
こんなとき、自分が磨いてきた技の意義を見いだす。
シェービングが終わり、蒸しタオルで包みあげると、お客さんが深呼吸をした。
いくらかばかりでも軽くなったのならば幸いです。
ここにタキがいたのならば、蘆根の姿に自分と同じように使徒と認定された男の影を見ただろう。
福音または追風と呼ばれた男がいなくなって、もう何年だろう。
やはり使徒は新しく認定されるべき時なのだろう、この世には癒しが必要だ、悲しみにはシェービング、いや耳掃除やマッサージは絶対にいるのだから。
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