浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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ああ、ヒッシーよ。

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「ヒッシー!!!!!!!!!」
あるパック民の絶叫は響き渡った。
「どうした?」
「どうした?えっ?何?」
「ええっと、私の皮脂は頑張ってるんだっていうところを、洗顔でオフられてしまって…」
「人は悲しみの数だけ、角栓の喜びを知るんだぜ」
つきものの悲しみに慰めの言葉をかけるのだが。
「大事に、大事に育てていたんです、時が来たら、ちゅ~と吸出してもらうか、それともパックを塗って、きちんと取れるかなってワクワクするとか、それなのに、それなのに」
面白いから合いの手をいれずに語らせて見るとしよう。
「パックを塗ると、チューブ式だから、このぐらいでって思ったら、ちょっと足りなかったり、塗っていくとムラが出来て、上手くならくちゃ、今は無理かもしれないけども、次は頑張ろうとか思うじゃないですか、それでパックが乾くまでの間、それこそ心を落ち着けて待つんですけども、私はドキドキするんです、このパックが私にドキドキをもたらしてくれるんじゃないかと、何度も期待して、がっかりして。もう無理じゃないかの時に、小鼻から生まれる大きな角栓、ああ君はどこに隠れていたんだい?そんなに大きいのならば、もっと下に潜んでいるんじゃないかい?って、まっ、そして爪で押して赤くなるんですけどもね。でもね、それもまたパックなんですよ、わかります?私がパックにはまったのは、姉がいるんですよ、姉がパックをしていたら、遊びで一緒に塗ってもらって、固まるまで触っちゃダメだよって、たぶん姉も触らせないようにってことで、待ってる間ゲームしましたから、その時だけですよ、待っている間も取れたあとのことを考えないの。『もうそろそろだね』って言われて剥がしてくれて、裏見たら、世界が変わってしまった、姉は興味がなく、そのまま夕御飯の手伝いしたんですけども、その時一人になってしまったせいか、私はそのままパックの裏をずっと見てしまった。子供の頃にパックの虜になったんですけども、みなさんもご存じの『レインベイビー(商品名)』で落ちました。今も何度かリニューアルされて、売っている場所は少なくなりましたが、根強い角栓の愛好家からは支持されているのが、レインベイビーですね。何しろ昨今のパックは優しすぎる、確かにお肌に優しいということはいいのかもしれない、ただ私は角栓がみたい、尖ってるくせに抜けやすい産毛がみたい、わかりますか!わかる人はパック民です、おめでとう、君たちはこの世に祝福を受けて生まれてきた、おめでとうございます、例えどんな波乱に満ちて、生きるのが苦しくても私はあなたたちを愛する!いいか、よく聞け」
グビグビ
と手元のドリンクを飲みほした。
「今すぐパックをするんだ!この話を聞かなくてもいいのはパックをするための行動のみだ、今夜はこれからパックをしろ、してください!ドラッグストアに行け!浜薔薇近隣のレインベイビーの取扱店はもう営業さんに聞いてるから、地図を参考にすること、今の時間からドラッグストアに行くと発見もある、日替わりセールでこれも安いの?じゃあちょっと買っちゃうもあるし、俺はこの間そうやっていつもよりもいいシャンプーとコンディショナーのセットを買ってしまった、シャンパーではないが買うだろう?地肌に優しいアミノ酸系洗浄剤、サロン専売となってもおかしくはない、その話を聞いたシャンパーが悔しがる逸品だぜ!俺もそれを聞いたらもうワンセット買っておくべきだったと後悔した、他の店舗で見かけたら、いつもは買わない価格のラインだったからだ、おおっと話はそれたな、レインベイビーでなくてもいい、パックデビューしたまえ、初心者おすすめのパックももちろん、パック民ガイドとして用意してある、今年の春夏の新製品もそりゃあ意気揚々と試した!パック民は浜薔薇ファンクラブ内でもどちらかといえば地味な方である、それはしょうがない、むしろ現世ではこのしゃべり、思考の持ち主は忌避されている、俺はようやくここに居場所を見つけたのだ、だが地味なだけではない、S席やシャンパー、王国の住人の古参や、最近は名優(スタイルコーディネート派)も明るい話題が多いが、今こそパック民の力も見せつけてやろうではないか!こんな時代だからこそ、我々は楽しみを維持し、また、この楽しみを知らないみなさんに対し、そっと目の前で繰り広げ続けなければならない。ああ、ヒッシーよ、君ならば、不意に見たものをこちらの世界に誘ってくれるだけの力があると、俺は思った、さようならヒッシー、俺は君の分まで頑張ってこのパック文化を後世に伝えよう!」
そこでしばらく沈黙が続き、ああ終わったのかと気づいた一人が拍手をすると、その場にいる全員が拍手し、花道を飾るのである。
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