浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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ゾンビ注意報

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「お願いします」
とリーダーが浜薔薇にやってきた。
仕事が終わってから、すぐに来たというが、残業があったのだろう。
「ではシャンプーの準備をしますのでお待ちください」
他にお客さんもいないので、上着と荷物は待合のソファーに置いた。
「今日は『私はレモンちゃんを信じる』ですか?」
「七草の方でお願いします」
七草は七草ドロップという、このメーカーの定番のラインなのだが、リーダーが蘆根に渡したのは何やらデザインが違うような。
「これ新製品なんですか?」
「トリートメント成分が濃いとかで」
七草ドロップまではあってる、しかしその後にキックがついている。
「キックは余計!」
もし傑がいたら、そんなツッコミが入っていただろうか。
「お湯熱くないですか?」
「大丈夫です」
シャワーのお湯が髪を濡らしていく、ここでしっかりと流すことが大事なことなのだ。
シャンプーで皮脂を洗い落としていく。
(本当に浜薔薇のおかげで、匂いを気にしなくてもいいのは大きいな)
皮脂というのは時間が経過すると独特の臭いがしてくるものだ、あたたかくなるこの時期だとよくわかってくる。
リーダーもそりゃあ人間なので、このままお風呂に入らず寝てしまいたいと思うことはあった。
(身なりをきちんとしないわけにはいかないんですよね)
格好つけ野郎とか一度言われたことはある、しかし取引先の人にはこう言われる。
「君はいつでもきちんとしようという姿勢はとても素晴らしいと思うよ」
その方は一代で事業を大きくした人であった、その人から誉められて、取引も上手いことまとめることが出来たし。
そこからその人が信頼している人たちを紹介された。
「はい、トリートメントが馴染むまで、少々お待ちください」
そこで一旦イスが元の角度に戻された。
蘆根はパタパタと奥に向かう、リーダーは傑のスタイルコーディネートの常連でもあるので、そのアイテムが入った袋を取りに行ったのだ。
「こちらになりますが、中は?」
「傑さんを信用してますので、家に帰ってなら開けます」
「わかりました」
予算と好みは伝えてある、だから毎回福袋を楽しんでいるようなものだ。
(傑さんは必ず予想をはずしてくる)
それはもちろんいい方で。
(この開けるまでの、何が入っているんだろうなっていうのを考えるのも楽しいんですよね)
もうそろそろこれが寿命を迎えて、新しいものが欲しいと付け加えない限り、傑のセンスで選んでくれる。
(植物タンニン染めも良かった)
これは財布のことである。
(使えば使うほど味が出るっていうのは本当に良い)
時を重ねれるほどの耐久度というやつである。
こうした持ち物はリーダーの趣味ではあるが、その趣味が取引先の、正確にはそのご家族の目を引くことがあり。
「あなた、それ素敵ね、どこのものなの」
目の肥えた人がそういってくれるのは嬉しいものである。
「浜薔薇というお店の方に選んでもらいました」
「それはどちらにあるのかしら?」
という話をした奥様、どうもその足で浜薔薇に来たようで。
「とても良いものを扱っているとお話を聞きましたの、私にも見せていただけるかしら」
ということで、ご来店の際に、浜薔薇の店の奥、タモツの住居の間に、ウォークインクローゼットのような、スタイルコーディネートのためのアイテムを収納している場所がある。
そこをショーケースのように陳列しながら、傑はアイテムの説明をしていったらしい。
「この傘素敵ね」
「うちでは、傘はボタンの物を扱っています」
テープで止めるものはどうしてもそこから毛先が荒れて。
「せっかく地のいいものでも、長く使えなくなってしまいます、それでもいいという方もおられるのですが、うちではボタン、またはスナップのものですね」
「雨の日でも華やかになるわ」
「こちらは日傘としても使えるものです、晴れた日がメインならば、こういうものどうでしょうか」
暑い中で傘をさすのか、それとも青空の下なのか、傑としてはそこも考えて、アイテムを選んでいるようだ。
「あなたは…本当にいい目をしているわ」
リーダーは男性なので、傑の得意なものは男性向けのアイテムだと思ったが、実際にこうして並んでいるものを見ていると、女性向けのもの方が得意なのではないかと思ったという。
「一目で、これは他のと違うわねとわかるということは、素晴らしいことなのよ」
「ありがとうございます」

「そうなんですよ、傑さんのスタイルコーディネートは楽しいんですよね」
ヘビーユーザーであるKCJの波里は熱く語る。
「結構雑誌とか見て、これいいなって思っていたりするんですけども、こういうのが好きなら、これもどうでしょうか!って攻めてくるんですよ」
それを見ると。
「いいんですか、いいんですか!本当にいいんですか!これで!になるから、スタイルコーディネートは尊い!」
波里が騒ぐのを東司は静観しているが、それは何故かというと。
「これでお気に入りのがダメになる!っていって、ゾンビが出ても何もしないならまだしも、ゾンビが来たら、自分のお気に入りがダメになるとか考えないで、きちんと行動できるから、特に注意することもないかなって」
ただだいたいゾンビ汁によって、着用しているものなどが廃棄、焼却処分になるので。
「あなたと一緒にいた時間はとても楽しかった、守れなくてごめんなさい」
別れの挨拶をそのたびにしているのを見たら、寛容になるというものだ。
「しかし、今年はまだゾンビ注意報でないな」
「寒かったからでしょうかね」
花粉がバフーン!と飛ぶ頃に、どこかでお亡くなりになった人が、ゾンビになって彷徨い始めるのだが。
「山間部では逆にいつもより多いだろうし、対応出来る人が少ないからって話だった」
鹿などがゾンビになります。
モグモグモグモグ
「いたぞ!」
生前の行動、食べなくてもいいが食事をしようとするので、早めに駆除しないと、植物が荒らされる。
「チッ、気づかれた」
そしてピョンピョン跳ねて腐敗臭を撒き散らすので、猟犬では追えなくなるのだ。
ポツポツ
山の天気は変わりやすいのか、そこに雨が降る。
ブッ!
雨垂れが鹿を貫き、その体を地面に釘付けにした。
「まさか…アクアドロップ…」
そう呼ばれる魔法の使い手は、麓から山中の鹿を狙い撃ちした。
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