浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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本当に懲りないよね

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支部に理容室ができたところ…
「春隣ちゃん、シェービングお願いできる!」
横着ものの職員たちが利用し始めた。
「なんかさ、消毒しすぎたら、お手々がさがさになっちゃってさ」
すると河川ザメの理容師である春隣が、メニュー表にある潤いシェービング、ハンドマッサージ付きというのを指、いや、ヒレ指した。
「おお、こんなものが、素敵だね、じゃあお願いします」
この職員は管理部門の人間である。
というか、管理部門の職員の利用率がとんでもなく高いのは、彼ら彼女らはこの敷地内からほとんどでないからである。
「出る人もいるんだけどもね、だいたいはお仕事ばかりだからね」
KCJの土台である、金銭面を支える本名を伏せられたスタッフたち。
「基本的に~サバイバーが多いから」
バフ!
話している途中に蒸しタオルがのった。
「………」
しばらくお待ちください。
「何を話そうか忘れちゃうよね」
この空気を読まない接客も受けている。
最初はサメちゃんだからかなとは思っていた職員たち、だが情報部から。
「いえ、ご家族がそういうタイプの職人でした」
なので技は家族譲りなのである。
タオルをはずしてクリームを塗ってから、シェービング、自分でも剃ってはいるようだが、剃り残しを春隣は見逃すはずがない。  刃が黒い髭やよく見なければ逃してしまうであろう、色の薄い産毛を剃りあげてくれた。
「おおおおお」
思わず触りたくなる肌である。
「自分でやるとここまでにはならないんだよね」
その後にハンドマッサージである。
こちらのマッサージには美容液成分を配合したクリームが使われていた。
それをすりこむのだが…
「ヒレでどうやってんのかな?」
すると、ギュとした感触が。
「え?えっ?今なんか握られたような」
これだけではわからないので、わかりやすく西のサメの話をしよう。
「おっちゃんってさ、どうやってペン持ってるの」
ヒレにくっついているように持っている、こちらからはそう見えた。
気になるか?
「タコみたいに吸盤なのかな?って」
そこでヒレを差し出してきたので、手を乗せてみると。
ギュ
「わぁぁぁぁ」
(おっちゃんの中に、誰かおる)
このヒレが握る感触は一言で言うと、中に人間がいて、握手されているに近いのである。
「すごい器用だね」
ただ河川ザメをはじめとする幻想種と近い関係にあるKCJの職員はその程度、おそらく狼狽するものもいないだろう。
「僕ね、あんまり外に出ないからね、身なり本当に気にしなくなってきたから、ちょっと危ないかなって思ってるんだよね」
管理部門にはこういう人がとても多い。
「今のご時世になる前から、ずっとこもっていたりするんでさ、たまたま食堂かな、行ったときに、昔はきちんと食べていたんだけども、今は食べられればいいかっていうような、適当な食べ方を人前でしちゃったときに、直さないと、埋もれて死ぬなって思ったよ」
ハンドマッサージが終わりましたが。
ジッ
腕を見てます。
「ん?何か?」
ツン
「ひゃい!」
痛みが走りました。
春隣が図を持ってきた。
「えっ?これ、腰に負担がかかっているから、腕に来てるの」
イラスト図解で教えてくれた。
「腰全然痛くないんだけども」
ツン
「あっ、それやめて、響く」
すると春隣はメモ帳に何か書いている。
ピッ
管理部門へ椅子類の変更依頼であった。
腰に負担がかからない椅子または、今の椅子を使う場合は、低反発やゲル、バランスディスクなどを使うこと。
「あれ、これだと一番安いので、1000円ぐらいか、まあ、それなら…」
するとそのまま春隣は、支部の近辺で売ってるこれをおすすめと、プリントアウトしてくれた。
「ホームセンターのフィットネスコーナー、今年になってから敷地内から出てないのに、でも値段がこれだと購買担当に頼めばすぐかな」
スッ
春隣はトレーと領収書を出してきた。
「はいはい、お会計ね」
もうこの職員は面倒だからお風呂入ったらすぐにここに来て、髭とか髪をやってもらおうか何て思っていた。
「あっちょうどいいところでした」
理容室から出たところで情報部の職員に呼び止められる。
「どうしたの?」
「またご家族が…」
「またかよ、何?借金?」
「支払いを押し付けようとしたので、事後承諾になりますが、こちらが動かせていただきました」
「本当に懲りないよね、まっ、僕という金蔓がいなくなったら、贅沢できないから、逃したくないのかもしれないけども、懲りろよ!」
「しばらくの間は敷地内から出ませんように」
「言われなくても出ないよ、あいつらのために金を稼ぐよりかは、KCJを稼がせた方が世の中のためだしね、あ~くそ、嫌な気分だ」
「お食事はされましたか?」
「まだだよ、そういう気分になれそうにない」
「でしたらホットミルクはいかがでしょう」
「山宮さんが珈琲いいのありますよっていってたよね?」
「はい、スペシャリティをご用意してあります」
「僕と君と、あと春隣ちゃんに用意して、支払いは僕がするから」
「いいのですか?」
「いいよ、いいよ、気分が絶賛悪いから、誰かに幸せになってもらいたいんだよね」
そういって農園指定のチョコレートもありますよと言われたので、それもつけたものが春隣にも届けられた。
「?」
何でだと首をかしげたが。
パリ!
そのチョコレートは甘いだけではなく、豆の風味を活かしたもの、味覚が鋭い河川ザメの舌には今までにない喜びが広がったという。

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