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伝七の味の秘密
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本日、独身寮には山宮が訪れているのですが。
「イサリさんから、依頼をうけまして」
「そりゃあ、返済は終了しましたけども」
この職員は親がとんでもない人で、働いてからも金蔓にされそうだったので、各種手続きをし、それでも残った支払いを先日払いきって、おっちゃんから、よう頑張ったなとギュッ!と抱き締められました。
「それでお好きなものを注文していただけたらと思い、何がいいですか?」
「急に言われても…ああ、そうだ、あれはできますか?チャーハン、あの野菜いっぱい入ってた奴」
「それ賄いなんですが」
「あれ美味しかった、見慣れた野菜なはずなのに、こんなに旨いんだってパクパク食べたんですよ」
「わかりました」
と思いながらも、これだと予算が余っちゃうなということで、おっちゃんがレンタルした冷蔵庫、隣には前にレンタルした冷凍庫がある。
これに作った料理を保存していったのだが、空になるのに二日もかからなかった。
「俺たちは腹ペコなんや」
と職員たちは申しており…
「それでは次のショーに合わせて、土日はKCJさんのご協力もありまして、駅からバスが一時間に一本出ます」
浄水センターは郊外にあるが、ここら辺の公共機関はないんで。
「バスは、何回もあればいいねとは言っておりましたが」
「やっと炊き出しができます」
そう、炊き出しも兼ねていた。
「それでメニューの話なのですが、カツ丼を考えています」
ここはセンターの会議室、山宮の発言を浄水センターやKCJの職員、そして端にはおでんが…
「イサリ!」
「所長、このおでんは正装ですから」
「おでんは私服に入りますか?ってそんなアホな質問してくると思ったら、恥丸出しや」
(KCJさんの前なら笑って許してくれるか、向こうもなれているやろと、そこで通そうとする悪いサメや)
(川任侠ものボスみたいな顔しとる)
このおでんは『でん七』っていいます。
衣装がその名前であります。
(名前つけとる)
(この間並んで映画見てたわ)
話それましたわ。確かにKCJさんの初炊き出しで、インパクトを出したいからそのメニューにしたいというのはわかります、わかりますが、やはりカツ丼は食べる人を選んでしまいます。
「ではどういうメニューがいいと思いますか?」
カレーです。
「しかし、カレーというのは万人受けはするでしょうが、他でも提供されていると」
それでもカレーですわ、山宮さん、あんたのカレーは旨い、天下をとれる味や、ルーから手作り、はじめて食べた人はびっくり、前に食べた人たちからはあれは旨いと言われるようなメニューや、自信をもってほしい。
「イサリさん…」
「山宮さん、ええっとメニューを変えるか、変えないかはわかりませんが…」
試食用のカツ丼をワゴンで運んできた職員が困った。
えっ?そんなのあるの?
「俺らの分も用意してくれてる?」
「職員の分、全員に行き渡る数を調理してきたんですが…食べます?」
「食べます、食べます」
「配るの手伝います」
そういってキッチンカーから各部署にがらがらとカツ丼が運ばれていった。
『ここは浄水センター独身寮です』
山宮さん、ちょうど良かったわ。
「なんです?ご馳走したいって」
この寮に屋台が来るんよ、おでん。
その名前が伝七である。
「あの名前ってここから?」
そや、ただ今年で店畳むそうや。おじちゃん、おる?
「いらっしゃい、見ない顔だね、新しい職員さん?」
いや、KCJってところの、すごい料理人。
「イサリさんが美味しいからと言われて」
「はっはっ、それは嬉しいね」
確かに漂ってくる湯気から、この屋台の旨さがわかる。
「今月でお店閉めるんだよ、良かったら味を盗んでいってよ」
おじちゃん、いきなり何いうてんの。
「誰かうちの味を継ぐ奴が出るかなっては思っていたこともあるけども、そんなことなかったしな」
はい、どうぞと定番の伝七セットをトンと出してくれる。
でも、寂しくなるわ、おっちゃんが行ける店また一つ減るし。
「楽しいことは増やしていかないと」
おじちゃんは店畳んでどうするの?
「旅行を考えていたけども、このご時世じゃねえ、でも旅行できるようになったら、うちの奥さんと温泉とか回ろうかと思って、ずっと苦労かけてたから、罪滅ぼしよ」
そんな話聞きながら、山宮は大根や卵、白滝などの美味しいおでんを食べた。
「どうお兄ちゃん、隠し味わかった」
そないすぐにわからんでしょ!
「そやな、わかったら、おっちゃん店やってられんわ、何しようか、焼き芋かな」
焼き芋はええな、最近のお芋さんは美味しいものがたくさんあったな。
「この間よ、紅がついたさつまいも食べたんだけども、食べたことがないぐらい旨かったな」
紅のついたさつまいもなんてたくさんあるやーん、どれやねん!
なお、ノー飲酒でお届けします。
そして宴も終わりを迎え。
おじちゃんも元気でな。
「たまにショー見に行くわ」
本当やで。
おっちゃんは先に寮に戻るのだが。
「どうした?兄ちゃん」
「味の秘密は刻んだかまぼことですか?」
「おうてるよ~でもさすがにどこまでかはわからん…いや、いじわるせんわ、そこんところは、うちの味そのまんま出すなら」
と宮城の仕入れ先を教えてくれた。
「そこまでわかっとるなら、最後のもわかっとるよな」
「梅干し」
「やっぱな、兄ちゃん、花持たせるために言わんかったのかもしれんけども、まっ、それで正解か、なんかホッとした、店畳むって決めたからホッとしたんやろな、カミさんもまさか最後の最後にいじわるなもんやな、こないな形で、味の跡継ぎできるなんて」
「では失礼します」
「ほなな、風邪引かんと帰りぃ」
そんなことがあった次の日、炊き出しにあのおでんの店主がならびに来た。
「兄ちゃんが旨いもの作るって聞いてな、来てしもうたわ」
このおでんのおっちゃん、顔が広く、また旨いものを知っていたので。
(あのおっちゃんが言うなら、KCJさんとんでもなく旨いもの食わせてくれるんちゃうか)
配られていくカレー、黙食推奨にしなくても。
(そりゃあ、山宮さんのメシ、はじめて食べたら、黙っちゃうよな)
この名物屋台のオヤジがあそこのは旨いぞぉと、店を閉めるまでずっと言ってくれた。
「実はKCJさんに頼まれていってたとか?」
「それはあるかもしれんが、かなり旨かったよ、KCJさんまたやってくれへんかな」
店が終わる日、閉店の日にKCJの職員が訪ねていく予定ではある、山宮が一度自分のを料理をしっかりと食べてもらいたいと、奥さんと二人分の席を用意してという招待状を携えて…
「イサリさんから、依頼をうけまして」
「そりゃあ、返済は終了しましたけども」
この職員は親がとんでもない人で、働いてからも金蔓にされそうだったので、各種手続きをし、それでも残った支払いを先日払いきって、おっちゃんから、よう頑張ったなとギュッ!と抱き締められました。
「それでお好きなものを注文していただけたらと思い、何がいいですか?」
「急に言われても…ああ、そうだ、あれはできますか?チャーハン、あの野菜いっぱい入ってた奴」
「それ賄いなんですが」
「あれ美味しかった、見慣れた野菜なはずなのに、こんなに旨いんだってパクパク食べたんですよ」
「わかりました」
と思いながらも、これだと予算が余っちゃうなということで、おっちゃんがレンタルした冷蔵庫、隣には前にレンタルした冷凍庫がある。
これに作った料理を保存していったのだが、空になるのに二日もかからなかった。
「俺たちは腹ペコなんや」
と職員たちは申しており…
「それでは次のショーに合わせて、土日はKCJさんのご協力もありまして、駅からバスが一時間に一本出ます」
浄水センターは郊外にあるが、ここら辺の公共機関はないんで。
「バスは、何回もあればいいねとは言っておりましたが」
「やっと炊き出しができます」
そう、炊き出しも兼ねていた。
「それでメニューの話なのですが、カツ丼を考えています」
ここはセンターの会議室、山宮の発言を浄水センターやKCJの職員、そして端にはおでんが…
「イサリ!」
「所長、このおでんは正装ですから」
「おでんは私服に入りますか?ってそんなアホな質問してくると思ったら、恥丸出しや」
(KCJさんの前なら笑って許してくれるか、向こうもなれているやろと、そこで通そうとする悪いサメや)
(川任侠ものボスみたいな顔しとる)
このおでんは『でん七』っていいます。
衣装がその名前であります。
(名前つけとる)
(この間並んで映画見てたわ)
話それましたわ。確かにKCJさんの初炊き出しで、インパクトを出したいからそのメニューにしたいというのはわかります、わかりますが、やはりカツ丼は食べる人を選んでしまいます。
「ではどういうメニューがいいと思いますか?」
カレーです。
「しかし、カレーというのは万人受けはするでしょうが、他でも提供されていると」
それでもカレーですわ、山宮さん、あんたのカレーは旨い、天下をとれる味や、ルーから手作り、はじめて食べた人はびっくり、前に食べた人たちからはあれは旨いと言われるようなメニューや、自信をもってほしい。
「イサリさん…」
「山宮さん、ええっとメニューを変えるか、変えないかはわかりませんが…」
試食用のカツ丼をワゴンで運んできた職員が困った。
えっ?そんなのあるの?
「俺らの分も用意してくれてる?」
「職員の分、全員に行き渡る数を調理してきたんですが…食べます?」
「食べます、食べます」
「配るの手伝います」
そういってキッチンカーから各部署にがらがらとカツ丼が運ばれていった。
『ここは浄水センター独身寮です』
山宮さん、ちょうど良かったわ。
「なんです?ご馳走したいって」
この寮に屋台が来るんよ、おでん。
その名前が伝七である。
「あの名前ってここから?」
そや、ただ今年で店畳むそうや。おじちゃん、おる?
「いらっしゃい、見ない顔だね、新しい職員さん?」
いや、KCJってところの、すごい料理人。
「イサリさんが美味しいからと言われて」
「はっはっ、それは嬉しいね」
確かに漂ってくる湯気から、この屋台の旨さがわかる。
「今月でお店閉めるんだよ、良かったら味を盗んでいってよ」
おじちゃん、いきなり何いうてんの。
「誰かうちの味を継ぐ奴が出るかなっては思っていたこともあるけども、そんなことなかったしな」
はい、どうぞと定番の伝七セットをトンと出してくれる。
でも、寂しくなるわ、おっちゃんが行ける店また一つ減るし。
「楽しいことは増やしていかないと」
おじちゃんは店畳んでどうするの?
「旅行を考えていたけども、このご時世じゃねえ、でも旅行できるようになったら、うちの奥さんと温泉とか回ろうかと思って、ずっと苦労かけてたから、罪滅ぼしよ」
そんな話聞きながら、山宮は大根や卵、白滝などの美味しいおでんを食べた。
「どうお兄ちゃん、隠し味わかった」
そないすぐにわからんでしょ!
「そやな、わかったら、おっちゃん店やってられんわ、何しようか、焼き芋かな」
焼き芋はええな、最近のお芋さんは美味しいものがたくさんあったな。
「この間よ、紅がついたさつまいも食べたんだけども、食べたことがないぐらい旨かったな」
紅のついたさつまいもなんてたくさんあるやーん、どれやねん!
なお、ノー飲酒でお届けします。
そして宴も終わりを迎え。
おじちゃんも元気でな。
「たまにショー見に行くわ」
本当やで。
おっちゃんは先に寮に戻るのだが。
「どうした?兄ちゃん」
「味の秘密は刻んだかまぼことですか?」
「おうてるよ~でもさすがにどこまでかはわからん…いや、いじわるせんわ、そこんところは、うちの味そのまんま出すなら」
と宮城の仕入れ先を教えてくれた。
「そこまでわかっとるなら、最後のもわかっとるよな」
「梅干し」
「やっぱな、兄ちゃん、花持たせるために言わんかったのかもしれんけども、まっ、それで正解か、なんかホッとした、店畳むって決めたからホッとしたんやろな、カミさんもまさか最後の最後にいじわるなもんやな、こないな形で、味の跡継ぎできるなんて」
「では失礼します」
「ほなな、風邪引かんと帰りぃ」
そんなことがあった次の日、炊き出しにあのおでんの店主がならびに来た。
「兄ちゃんが旨いもの作るって聞いてな、来てしもうたわ」
このおでんのおっちゃん、顔が広く、また旨いものを知っていたので。
(あのおっちゃんが言うなら、KCJさんとんでもなく旨いもの食わせてくれるんちゃうか)
配られていくカレー、黙食推奨にしなくても。
(そりゃあ、山宮さんのメシ、はじめて食べたら、黙っちゃうよな)
この名物屋台のオヤジがあそこのは旨いぞぉと、店を閉めるまでずっと言ってくれた。
「実はKCJさんに頼まれていってたとか?」
「それはあるかもしれんが、かなり旨かったよ、KCJさんまたやってくれへんかな」
店が終わる日、閉店の日にKCJの職員が訪ねていく予定ではある、山宮が一度自分のを料理をしっかりと食べてもらいたいと、奥さんと二人分の席を用意してという招待状を携えて…
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