浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

文字の大きさ
上 下
247 / 996

プリンスアイ

しおりを挟む
浜薔薇出張所の炊き出しの責任者である山宮には、こんな話もやって来る。
「会議のためのお菓子をつくってもらえませんか?」
炊き出しで腕を知っているからこそ、こういう注文が来る。
「何を作りますか?」
「どういうのがありますか?ね」
「そうですね、今はシュークリームこだわりたい病なので、それで良ければ予算内にこだわりますよ」
ああよかった、山宮さんがシュークリームこだわりたい病を患ってて。
そしてまずこれらは検食という形で、KCJの職員に食べてもらうが。
「申請者が多数のため、抽選によって決めさせていただきます」
毎回こんな感じ。
「ヒャッハー!」
当たったら本気で嬉しがる。
「あ~あのすいません、当たったんですけども、この前にアポがありまして、辞退します」
辞退者が出た場合は、次の検食確定当選、そして今回の分はというと。
「じゃんけんしようぜ!」
その一人前を巡り、職員たちは平和的な解決方法じゃんけんを始めるのである。
「最初は殴り合いが始まるかと思ったが」
戦闘職バカじゃないのと他の課からクレームが入った。
力では確かに勝てないが、そこはKCJ、引かない精神の持ち主が多い。
カチ
スイッチを入れ、無線で繋がれる。こうしてWebカメラ前にてじゃんけんを行うことで、純粋なるじゃんけんが可能になるのだ!
「恨みっこなしで、それじゃあ行くぞ!」
最初は!
「グーは正義でした」
それでは検食のみなさまはこちらの会場に移動願います。
今回山宮に依頼がありましたのは、会議用のお菓子とうことで、最近宅配してくれるところがなかなかなくなってしまい、どうかと話が来ました。
「山宮さんが作ってくれることと、宅配は浜薔薇出張所の東司さんがということで、可能。ですから許可しました、それでは皆様の前に行き渡りましたので、検食お願い致します」
シュークリーム、拳のような皮をして、中から見えるのは白いクリームである。
(カスタードとか入ってるのかな)
(なんだろう、美味しいってわかってるから、ドキドキするね)
(山宮さんのメニューなら、きちんと砂糖の量とか計算してくれているから罪悪感ないし)
麦茶のコポコポとグラスに注ぐ音の中で、みんな食べ始めている。
「うまっ」
「本当に山宮さんは、何作っても美味しい」
「パリパリ、ペロ、パリ」
(音までいいんだよか)
外はパリ、中はふわっとした生地にミルククリームが入っているんだが。
「…」
食べ終わる頃にわかる、そして目が点になるのである。
「えっ?これ」
ただのミルクじゃないの。
「普通さ、こういうシュークリームってさ、ラム酒を隠し味に使うじゃん」
「これなんなの?」
「葡萄、ワインじゃない」
「山宮の代わりに説明させていただきますと、そのクリームは、モスト、日本では馴染みはありませんが、葡萄ジュースですね、主にワイナリーが作っていたりします、日本の葡萄ジュースとは作り方が違うので、モストと呼ばせてもらいますが、これに同じ種類の干し葡萄を漬け込み、味が濃くなったモストジュースをクリームの隠し味にしてます」
「全然隠れてないですよね」
「じゃあ、味の秘密になってます」
「それで」
「ミルクの方が濃いというか、強いんですよね、んで食べ終わると、ん?みたいな最後に葡萄が来て終わると」
「本当は山宮さんはラム酒、もしくはラムレーズンを使いたかったんだそうですが、それだとお昼の会議には出せないので」
じゃあ、どうするかなと、考えているときに。
「浜薔薇出張所のあそこら辺は夏になると、夏バテに葡萄食べたりするんですよ、その話をお客さんに聞いて、もうその葡萄は作られてなかったりしたのですが」
タモツが。
「あ~そういうときは葡萄のサイダーとかだったな、詳しくは俺より実際に店やってた、カスターニャのあいつに聞けば、たぶんまだレシピは忘れてないだろうよ」
と笑いながら教えてくれました。
「珍しいね、そんなことを聞きに来るなんて」
「もう作ってないなら、似たようなものは」
「あるよ、いや、孫にな、一回は飲んでもらいたいと思ったわけよ、でももう作ってないじゃん、そしたらうちの息子がな」
オヤジ、この間宴会したときさ、葡萄ジュース出たんだわ、海外の、それがさ、昔飲んだあれとそっくりだったわ。
「で買ってきてもらったの、そしたら、飲むと思い出すもんだな、だからまあ、この時期はうちの冷蔵庫にもあるのよ、ほら、山宮さん、飲んでみな」
「濃いですね」
「それもそうだし、ワイン以外も作ってたんだなと、こっちは逆に酒じゃなくて取れた葡萄搾ってたのを売ってたからな」
それから色々と聞いたという。
「ええっと山宮さんがなんでいないかといいますと、実は葡萄を収穫したら教えてほしいと、農家さんに頼んでおりまして」
「葡萄を炊き出しに出すんですか?」
「いえ、身の方ではなく…」
ジュ~
本日キッチンカーが貸し出しがなかったこともあり、キッチンカー側に山宮はいた。
菜箸からといた天婦羅粉が垂れる。
今だ!
「今日は誰がキッチンカーかと思ったら、なんで山宮さんが」
「けども精進揚げ定食だぞ」
「1000円でも安いと思うんだが、あれは」
フライヤーではなく、鍋で揚げるという。
「確実に旨いわ、とりあえず並ぶか」
「ああ」
精進揚げ定食、かぼちゃ、キノコ類、ナス、ピーマン、そして。
「紫蘇じゃない」
「まあ、食べるべ」
ンフ!
「これ葡萄…」
「葡萄の葉って食えるんだ」
本日、葡萄「プリンスアイ」の収穫が行われた。
その収穫した日の葡萄の葉は天婦羅にすると美味しいと聞いたので、色々と予定を調整し、キッチンカーで精進揚げを出すにいたったのである。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...