浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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プリンスアイ

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浜薔薇出張所の炊き出しの責任者である山宮には、こんな話もやって来る。
「会議のためのお菓子をつくってもらえませんか?」
炊き出しで腕を知っているからこそ、こういう注文が来る。
「何を作りますか?」
「どういうのがありますか?ね」
「そうですね、今はシュークリームこだわりたい病なので、それで良ければ予算内にこだわりますよ」
ああよかった、山宮さんがシュークリームこだわりたい病を患ってて。
そしてまずこれらは検食という形で、KCJの職員に食べてもらうが。
「申請者が多数のため、抽選によって決めさせていただきます」
毎回こんな感じ。
「ヒャッハー!」
当たったら本気で嬉しがる。
「あ~あのすいません、当たったんですけども、この前にアポがありまして、辞退します」
辞退者が出た場合は、次の検食確定当選、そして今回の分はというと。
「じゃんけんしようぜ!」
その一人前を巡り、職員たちは平和的な解決方法じゃんけんを始めるのである。
「最初は殴り合いが始まるかと思ったが」
戦闘職バカじゃないのと他の課からクレームが入った。
力では確かに勝てないが、そこはKCJ、引かない精神の持ち主が多い。
カチ
スイッチを入れ、無線で繋がれる。こうしてWebカメラ前にてじゃんけんを行うことで、純粋なるじゃんけんが可能になるのだ!
「恨みっこなしで、それじゃあ行くぞ!」
最初は!
「グーは正義でした」
それでは検食のみなさまはこちらの会場に移動願います。
今回山宮に依頼がありましたのは、会議用のお菓子とうことで、最近宅配してくれるところがなかなかなくなってしまい、どうかと話が来ました。
「山宮さんが作ってくれることと、宅配は浜薔薇出張所の東司さんがということで、可能。ですから許可しました、それでは皆様の前に行き渡りましたので、検食お願い致します」
シュークリーム、拳のような皮をして、中から見えるのは白いクリームである。
(カスタードとか入ってるのかな)
(なんだろう、美味しいってわかってるから、ドキドキするね)
(山宮さんのメニューなら、きちんと砂糖の量とか計算してくれているから罪悪感ないし)
麦茶のコポコポとグラスに注ぐ音の中で、みんな食べ始めている。
「うまっ」
「本当に山宮さんは、何作っても美味しい」
「パリパリ、ペロ、パリ」
(音までいいんだよか)
外はパリ、中はふわっとした生地にミルククリームが入っているんだが。
「…」
食べ終わる頃にわかる、そして目が点になるのである。
「えっ?これ」
ただのミルクじゃないの。
「普通さ、こういうシュークリームってさ、ラム酒を隠し味に使うじゃん」
「これなんなの?」
「葡萄、ワインじゃない」
「山宮の代わりに説明させていただきますと、そのクリームは、モスト、日本では馴染みはありませんが、葡萄ジュースですね、主にワイナリーが作っていたりします、日本の葡萄ジュースとは作り方が違うので、モストと呼ばせてもらいますが、これに同じ種類の干し葡萄を漬け込み、味が濃くなったモストジュースをクリームの隠し味にしてます」
「全然隠れてないですよね」
「じゃあ、味の秘密になってます」
「それで」
「ミルクの方が濃いというか、強いんですよね、んで食べ終わると、ん?みたいな最後に葡萄が来て終わると」
「本当は山宮さんはラム酒、もしくはラムレーズンを使いたかったんだそうですが、それだとお昼の会議には出せないので」
じゃあ、どうするかなと、考えているときに。
「浜薔薇出張所のあそこら辺は夏になると、夏バテに葡萄食べたりするんですよ、その話をお客さんに聞いて、もうその葡萄は作られてなかったりしたのですが」
タモツが。
「あ~そういうときは葡萄のサイダーとかだったな、詳しくは俺より実際に店やってた、カスターニャのあいつに聞けば、たぶんまだレシピは忘れてないだろうよ」
と笑いながら教えてくれました。
「珍しいね、そんなことを聞きに来るなんて」
「もう作ってないなら、似たようなものは」
「あるよ、いや、孫にな、一回は飲んでもらいたいと思ったわけよ、でももう作ってないじゃん、そしたらうちの息子がな」
オヤジ、この間宴会したときさ、葡萄ジュース出たんだわ、海外の、それがさ、昔飲んだあれとそっくりだったわ。
「で買ってきてもらったの、そしたら、飲むと思い出すもんだな、だからまあ、この時期はうちの冷蔵庫にもあるのよ、ほら、山宮さん、飲んでみな」
「濃いですね」
「それもそうだし、ワイン以外も作ってたんだなと、こっちは逆に酒じゃなくて取れた葡萄搾ってたのを売ってたからな」
それから色々と聞いたという。
「ええっと山宮さんがなんでいないかといいますと、実は葡萄を収穫したら教えてほしいと、農家さんに頼んでおりまして」
「葡萄を炊き出しに出すんですか?」
「いえ、身の方ではなく…」
ジュ~
本日キッチンカーが貸し出しがなかったこともあり、キッチンカー側に山宮はいた。
菜箸からといた天婦羅粉が垂れる。
今だ!
「今日は誰がキッチンカーかと思ったら、なんで山宮さんが」
「けども精進揚げ定食だぞ」
「1000円でも安いと思うんだが、あれは」
フライヤーではなく、鍋で揚げるという。
「確実に旨いわ、とりあえず並ぶか」
「ああ」
精進揚げ定食、かぼちゃ、キノコ類、ナス、ピーマン、そして。
「紫蘇じゃない」
「まあ、食べるべ」
ンフ!
「これ葡萄…」
「葡萄の葉って食えるんだ」
本日、葡萄「プリンスアイ」の収穫が行われた。
その収穫した日の葡萄の葉は天婦羅にすると美味しいと聞いたので、色々と予定を調整し、キッチンカーで精進揚げを出すにいたったのである。
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