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いい感じでカルシウムが取れてます
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「あっ…」
蘆根と目があった。
「もう水くさいじゃないですか」
「う…」
ここは病院で、入院しているこの人がお客さんである。
その入院は長く、理由はストレス性のものであり、まだ完治までは遠いそうだ。
「お、お願いしようと思っていただけども」
「はい」
「なんか体調がね」
「そうでしたか」
「うん、ごめんね」
「なんで謝るんですか」
「だって私、髪がボサボサだし汚いもの」
「ちゃんと綺麗にしているじゃないですか、でも髪を切るんで、みんなさっぱりさせちゃいましょうね」
「わ、わかった」
「髪は短く」
「おかっぱは、嫌よ」
「前みたいな感じでいいですかね、髪を軽くして、自然な感じで」
「あれは好き、鏡で見たときに、まるで自分じゃないみたいなの」
このお客さんは蘆根でなければ、髪を切らせてくれないため、こうして出張にやってくる。
「あ~ごめん、ちゃっとしゃべるの疲れた」
「無理しちゃダメですよ」
「蘆根さんが来る前に先生と話すから、疲れちゃった」
「じゃあ、準備しますね」
カチカチと準備をするのをジー~と見つめる。
こういう視線は慣れている、最近だとイツモの縄張りで生れた子猫たちがこんな風に、何をやっているのだろうと見つめてくるのだ。
「はい、それでは髪を切ります」
「うん」
少し緊張してる。
「あんまりしゃべらなくなったから、しばらくぶりにしゃべるとね、声って出なくなるもんなんだなって」
「二週間に一度でしたっけ診察」
「うん、そう、だからこれから次の診察で何をしゃべるのかまとめなきゃいけないの、もうね、そういうのも準備しないとね、言葉がすぐに思い付かなくなっちゃうんだよ」
「…」
「蘆根さんは前の私を知っているけどもさ、本当、やれないことばかりで別人だよ、お金を支払うときに、多目に渡しているんだよね、それが続いたの、今まで行っていたお店で、そんなことなかったのに、あれ?って」
「髪はどうですか?」
「あ~落ちている髪の量がすごいことになってる、髪はそれでいいよ」
「これからのシーズン蒸れちゃいますからね、そういえばうちのお店、今、シャンプーブームなのは知ってますか?」
「知らない、えっ、何、冷たいシャンプーとか」
「いえ、ベタベタの毛穴とかもスッキリするやつなんですが、洗うときにマッサージもするので、仕事行く前にやってきて、仕事終わりにもまた来るみたいな」
「それって髪がパサパサにならないの?」
「ならないですね、まず仕事に行く前に日焼け止めも使いますから、それだときちんと落とさないといけませんし」
「日焼け止めは落ちない、シミになるから日焼け止め使うことになって、いつもの分量で洗っても全然泡立たなくて、あれは驚いたよ、今は窓に紫外線のカットのシールをはってもらっているからいいけどもさ、ああいうケアは、健康じゃないととてもじゃないけどもできないよ、ある時さ、そういうのができなくなった、それよりも横になりたくなったのよね、そこからすぅにパニック起こして、その時わかったわ、私はもう限界なんだって、診断して、手続きして、今に至るけども、できればそうなる前になんとかしたかった、こうなってしまうと、本当に、何をするにしても不安がよぎってしょうがないわ」
「うちの店にもね、ストレス抱えたお客さんが来ますけどもね、出来るだけ落としてあげたいと思ってるんです、でも落としすぎちゃダメ」
「どうして?」
「どうでもよくなっちゃうから、そうじゃなくて、こうなんて言うのかな、今の大変さを頑張ろうって思えるようにしたいっていうのかな、それが俺のイメージ、なんで俺のライバルは温泉」
「温泉?」
「そう温泉、シャンプー一つにしても真水よりも、美肌の温泉の方が毛穴がきれいなんで、それが悔しい、だから俺のライバルは温泉」
「人類ですらない、相変わらず蘆根さんはそういうところあるわね」
「俺はけっこう真面目に言うんですけども、聞く人はポカーンとするか、えっ?何いってるの?って顔しますね」
「だってアルカリ性単純泉をライバルにしても、何かを一緒に競い会うじゃあるまいし」
「やっぱりですね、『なかなかやるな』『お前もな!』っていう関係になりたいんですよ」
腹を抱えて笑っている。
「じゃあ、爪切りますよ」
「…あっ、うん」
そういって、彼女の指先を見て、割れて変色した爪をどう整えるか、考えたのちに。
パチン
爪を切りだした。
「パニック、起こしたんだよ、それでね、あれがない、どこにおいたか覚えてないで、全部荷物をひっくり返して、薬のんで、落ち着いて、そっからもう一度探したらあったの、でもね、爪がね、割れちゃってたのよね、それも見るのも嫌なんだ、色が戻らないし、割れたまま生えてきちゃうさ」
「厚い爪なので、いい感じでカルシウム取れてます、ヨーグルトなども今の時期おすすめですが、海老も美味しいです、海老好きですか?」
「はいはい、蘆根さんと話していると本当に面白くて、悩みが少し軽くなるわ」
蘆根宇迦のトークショー付きの出張は、現在新規は受付しておりませんが、キャンセルがありましたら、ご案内できますので、一度ご連絡ください。
蘆根と目があった。
「もう水くさいじゃないですか」
「う…」
ここは病院で、入院しているこの人がお客さんである。
その入院は長く、理由はストレス性のものであり、まだ完治までは遠いそうだ。
「お、お願いしようと思っていただけども」
「はい」
「なんか体調がね」
「そうでしたか」
「うん、ごめんね」
「なんで謝るんですか」
「だって私、髪がボサボサだし汚いもの」
「ちゃんと綺麗にしているじゃないですか、でも髪を切るんで、みんなさっぱりさせちゃいましょうね」
「わ、わかった」
「髪は短く」
「おかっぱは、嫌よ」
「前みたいな感じでいいですかね、髪を軽くして、自然な感じで」
「あれは好き、鏡で見たときに、まるで自分じゃないみたいなの」
このお客さんは蘆根でなければ、髪を切らせてくれないため、こうして出張にやってくる。
「あ~ごめん、ちゃっとしゃべるの疲れた」
「無理しちゃダメですよ」
「蘆根さんが来る前に先生と話すから、疲れちゃった」
「じゃあ、準備しますね」
カチカチと準備をするのをジー~と見つめる。
こういう視線は慣れている、最近だとイツモの縄張りで生れた子猫たちがこんな風に、何をやっているのだろうと見つめてくるのだ。
「はい、それでは髪を切ります」
「うん」
少し緊張してる。
「あんまりしゃべらなくなったから、しばらくぶりにしゃべるとね、声って出なくなるもんなんだなって」
「二週間に一度でしたっけ診察」
「うん、そう、だからこれから次の診察で何をしゃべるのかまとめなきゃいけないの、もうね、そういうのも準備しないとね、言葉がすぐに思い付かなくなっちゃうんだよ」
「…」
「蘆根さんは前の私を知っているけどもさ、本当、やれないことばかりで別人だよ、お金を支払うときに、多目に渡しているんだよね、それが続いたの、今まで行っていたお店で、そんなことなかったのに、あれ?って」
「髪はどうですか?」
「あ~落ちている髪の量がすごいことになってる、髪はそれでいいよ」
「これからのシーズン蒸れちゃいますからね、そういえばうちのお店、今、シャンプーブームなのは知ってますか?」
「知らない、えっ、何、冷たいシャンプーとか」
「いえ、ベタベタの毛穴とかもスッキリするやつなんですが、洗うときにマッサージもするので、仕事行く前にやってきて、仕事終わりにもまた来るみたいな」
「それって髪がパサパサにならないの?」
「ならないですね、まず仕事に行く前に日焼け止めも使いますから、それだときちんと落とさないといけませんし」
「日焼け止めは落ちない、シミになるから日焼け止め使うことになって、いつもの分量で洗っても全然泡立たなくて、あれは驚いたよ、今は窓に紫外線のカットのシールをはってもらっているからいいけどもさ、ああいうケアは、健康じゃないととてもじゃないけどもできないよ、ある時さ、そういうのができなくなった、それよりも横になりたくなったのよね、そこからすぅにパニック起こして、その時わかったわ、私はもう限界なんだって、診断して、手続きして、今に至るけども、できればそうなる前になんとかしたかった、こうなってしまうと、本当に、何をするにしても不安がよぎってしょうがないわ」
「うちの店にもね、ストレス抱えたお客さんが来ますけどもね、出来るだけ落としてあげたいと思ってるんです、でも落としすぎちゃダメ」
「どうして?」
「どうでもよくなっちゃうから、そうじゃなくて、こうなんて言うのかな、今の大変さを頑張ろうって思えるようにしたいっていうのかな、それが俺のイメージ、なんで俺のライバルは温泉」
「温泉?」
「そう温泉、シャンプー一つにしても真水よりも、美肌の温泉の方が毛穴がきれいなんで、それが悔しい、だから俺のライバルは温泉」
「人類ですらない、相変わらず蘆根さんはそういうところあるわね」
「俺はけっこう真面目に言うんですけども、聞く人はポカーンとするか、えっ?何いってるの?って顔しますね」
「だってアルカリ性単純泉をライバルにしても、何かを一緒に競い会うじゃあるまいし」
「やっぱりですね、『なかなかやるな』『お前もな!』っていう関係になりたいんですよ」
腹を抱えて笑っている。
「じゃあ、爪切りますよ」
「…あっ、うん」
そういって、彼女の指先を見て、割れて変色した爪をどう整えるか、考えたのちに。
パチン
爪を切りだした。
「パニック、起こしたんだよ、それでね、あれがない、どこにおいたか覚えてないで、全部荷物をひっくり返して、薬のんで、落ち着いて、そっからもう一度探したらあったの、でもね、爪がね、割れちゃってたのよね、それも見るのも嫌なんだ、色が戻らないし、割れたまま生えてきちゃうさ」
「厚い爪なので、いい感じでカルシウム取れてます、ヨーグルトなども今の時期おすすめですが、海老も美味しいです、海老好きですか?」
「はいはい、蘆根さんと話していると本当に面白くて、悩みが少し軽くなるわ」
蘆根宇迦のトークショー付きの出張は、現在新規は受付しておりませんが、キャンセルがありましたら、ご案内できますので、一度ご連絡ください。
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