浜薔薇の耳掃除

なんか豚肉が厚いんだよ

「ふぅん」
男は話を聞いて。
「何個かやりかた、解決の方法はあるけども、どれにしますか？」
そう微笑むと、悩みを抱えた相談者は、「えっ？」か「は？」な顔をするという。
(そんなに不思議なんですかね？)
(ここに来るってことは、みんなもうあちこちいって疲れているから、それで簡単ですよって言われると、ああなるんだって)
(ああ、そういえば)
こそこそ話の相手である同僚は、皆無 優に解決してもらい、そこから皆無さんのようになりたいですということで、志願して入所したことを思い出した。
(さすがは皆無さん)
そんな同僚は、その日の夜に言い渡されたのは。
「温泉にいって、休みをとるように」
「なんでですか、まだ働けますよ」
「じゃあ、こうしよう、温泉には行ってこい、無事に帰ってきたら出社してくれ」
「骨抜きになんかされないっすよ」
勝敗は言わなくてもわかる展開である。
温泉、疲れを抱え、ハイテンションになりつつ仕事をしている人間には決して勝てぬ存在。
そしてその中でもだ、皆無が勧めた温泉というのは…
「お客さん、うちの温泉初めてだね」
「そうですけど」
あれかな？一見さんお断りとかそういう感じなのかな。
「はい、あんたはここに寝るんだ」
入浴する場所を指定された。
するとそこは湯のなかに台があって、寝転がれと言う。
「洗濯物にでもなった気分だ」
「はい、後で見に来るからね」
(この温泉、サービス悪いな)
でもまあ、皆無の命令でもあるしなんて思っていたら。
(あれ？)
体がおかしい、例えるならばプールが終わった後の睡魔。
(まだ５分も経過していない)
でなきゃ、ここで寝たら危ない。
「やっぱり疲れてたか」
見回りに来た温泉の人が爆睡している男を見つけた。
この台というのは、その爆睡しても沈まないように、呼吸ができるようにするためのものであった。
「兄ちゃん、兄ちゃん、起きて」
「えっ？」
「自分で上がれるか？」
「手を貸してください」
足なんかプルプルであった。
そのまま脱衣場につれていってもらって、まだ手は動いたから、タオルで体を拭いて、浴衣着て、畳の場所で横になると。
「腹冷やすといけないから」
そういって腹にタオルケットをかけてごろんと寝た。
(この温泉なんなんですか！)
問いたい気持ちも、睡魔には勝てなかった。

温泉はある真面目な僧侶との逸話が残っている。
「なんかもうどうでもよくなった」
僧侶は各地を旅し、平和の祈願や病人に対して治療を行っていたとされるが、山奥にあったこの温泉に入ったところ、どうでもよくなったといって、そのまま余生をこの近くで過ごしたと言う。
そのエピソードがあるぐらいなもんだから、疲労を抱えている人ほどまず勝てない。
浜薔薇と提携しているベストフレンドの湯は、疲労を抱えていても手加減して疲れを落としてくれるが、この孔雀温泉はそんな手加減は一切なしである。
皆無のところで働く男は、夢から覚めた後に。
「頑張っても、限界があるんで、それなら一回固執しない方がいいな」
なんていきなり言い出した。
普段を知っている同僚たちからは。
「はっ？」
である。
「いや、そのぐらいでいい」
皆無はフォローに入った。
「こいつは頑張りすぎて体を壊しそうなことばかりしていたから、この辺でブレーキ踏まないと壊れるところだった」
しかしやめろといってもやめるタイプではない。
「何事にもほどほどなんだが、わかるぞ、いきなりひゃっほーっていってそのままずっと走り続けるタイプがいるのは」
(浜薔薇の)
(ああ、蘆根さんのことだな)
「普通は体壊すの、あいつはそういうのを秘伝とか教えてもらい、それを守っているから、その範囲内なら、どこまで範囲かは知らないけども、やりすぎているように見えるんだよ」
(確実に蘆根さんだ)
(でもそのおかげで予約がすぐ入るんだよね)

『誰か、浜薔薇の噂してない？本日も営業しているので、みんな待ってるよ！』


「なるほど自由にしていいと」
「ええ」
浜薔薇にはＫＣＪの職員二人と、地域の研究し、所蔵品を集めている館長がいる。
「こちらの展示にＫＣＪが協賛など、存続に力を貸すことになりました、それで身なりなどを浜薔薇にお願いしたいと」
「身なりでそんなに変わるのかね」
まったく興味がないままここまで来ました。
後、今、イツモのところにもお客人、狐が一匹やってきてるが、あれは館長の関係者のようで、縄張りに入るためにお許しとこれからよろしくお願いします、手土産にダンジョン内のネズミを差し上げますという話を持ってきたところ。
イツモ含む、縄張りにいる猫たちは、パーティー会場に向かっていった。
「服のほうは傑が見るとして、イメージとしては偏屈な感じで、私がいないとダメかもでいいか？」
「やれるんでしたら、そういうのでお願いします」
(蘆根さん、自分にもそういうスタイリングすれば彼女とかすぐ出来るんじゃ…)
東司、いけない、そこに気づいては！
髪と髭と耳掃除とファッションは浜薔薇に。
「要望がありまして、もう自炊とかする時間も研究に使いたいとのことなので」
ＫＣＪと提携しているサービスと契約しました。
「うちの単身赴任している地方の幹部ぐらいの待遇と同じ」
「なんか豚肉が厚いんだよ、そして柔らかい」
「そちらはブランド豚のしょうが焼きです」
そしてスタイリングの効果はというと。
「最近常連の女性の方々が、食べ物を差し入れてくれることが多くなったんだけども、そんなに食べれないよ」
盛況。
クンクン
そしてＫＣＪから通いのケットシーがやってきて、差し入れのチェックをする。
「これは食べちゃダメだって判断してくれるんだ、いや、私は前に卵でえらいめにあったから助かるよ」
(ちなみに今回はなにか？ああ、手作りクッキーの生焼け、それはお腹壊しますね)
そして多すぎる差し入れは出張所の食料支援に使われた。
「子供さんいる家庭にお菓子が人気ですぐに消えていきますね」
館長は差し入れの代わりに、バイトで培った達筆でお手紙を書くが、その便箋と封筒もＫＣＪが手配したもので。
「手漉きの紙を今もお作りになっているところ、特製のものにいたしました」
季節の花のデザインに、ファンの女性たちはキャーと喜ぶのであるが、館長には女心がわからないので。
なんで喜んでいるのか、不思議な顔で見ていた。