浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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自分が教えると甘えが出る

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廃盤‥
それはどれだけの名品でさえ、もう二度と手に入らなくなるということ。
「人生でこれだけでいいやって思っていたのも無くなってたことがあってな、知ってたら‥と思ったが、その時学生だったから」
「そういうのはありますよね」
「あるある、後な、歯ブラシな」
話が変わったときに、傑が何か引っ掛かったらしい。
「先輩がすごいと思うほどの歯ブラシって、なんですか?」
「なんですか?なんですかってな‥とりあえずすごい」
「もっと伝えて」
「その時飲食店のバイトしてて、悩みの一つが、歯磨きってさ、してすぐだと、口の中、味がわからなくねえ?」
「そうですね」
「それさ、歯ブラシだけで歯垢が落ちるやつで」
「あ~ありますね」
「お前が想像しているのより、もっとだぞ」
「もっと?」
「科学の力で反応させて落としているから、洗い終えた歯ブラシ見るとビックリするやつ」
歯の汚れがそのまま歯ブラシに移ったような落ち方をします。
「なんですか、それ」
「すごいんだよ、そっか‥お前には話したことなかったか」
「聞いたことありませんよ」
「でもすごいんだよ、初めてその歯ブラシを使ったときの汚さといったらな、こんなに汚れてた?毎日洗っても?みたいな、それから修行時代までぐらいか、その歯ブラシが廃盤になるまで、歯科に行かなかったな」
それまで毎年どこか悪くしてた。
「手で磨く、電動とかそんなもんじゃないぞ、歯垢を科学的にだからさ、これ知っちゃったら、もうこれでよくない?と、今はリンスとかでやってるけども、確かにリンスだと予防にはなる、予防にはなるが、歯を磨いた時の爽快感も含めて、そっちだな」
「はっはっはっはっ」
(廃盤になっているなら、うちでオリジナル作りたい)
傑はそろばんをはじいた。
正直、正直である。
基本的に蘆根がいう、すごいというものは本当にすごい。人によっては人生変わりました、ありがとうございます蘆根さんレベルのものも転がっていた。
もしも金儲けだけ考えるならばそれだけを押さえていけば、十分利益は出るだろう。
だがその帳場を預かるヶ崎 傑という男はそれだけでは終わらない。
「自前の歯を残した方が人生いいですからね」
「入れ歯とか大変なんだろう?それなら簡単ケアで自前の歯を何とかした方がよくないか?」
「そうですね、移植もできますし」
親不知などが生えてきた場合、抜歯するか、しないかを選んだ時に。
「その歯を他の歯がダメになった際に移植する方法もある」
と説明を受けた話なんかも、二人はしていた。
「早くブスッと注射でにょき!と生えてこないかな」
「それでも悪い歯が自分から抜けないんだから、痛いですよね」
「そうか」
なお、蘆根は麻酔は期間限定のフレーバーにしている。
「ないならイチゴ」
「アイスみたいですね」
「あの先生さ、絶対狙っていると思うんだよな」
フルーツ系はだいだい出揃ってきたから、そろそろ魔球が欲しいなと思っています、例えば柴漬け味とか、ネギトロ巻味とか。
「というか、それどういう需要が」
「歯科治療を楽しくするためじゃないか、俺は別に怖くはないけども、塗布すれば麻酔完了したときすごいなって思ったがな」
注射は液が辛かったりします。
「先輩、歯科好きですよね」
「好きだな、安心する」
「安心する!?」
「するよ、こう任せられる先生だからかな」
(ブルーハワイとか、柴漬け味の麻酔とかをチョイスをするけども、腕はいいんだよな)
「先生に任せておいたら、安心じゃないかな」
でもね、蘆根くんは歯科にそう縁がある人じゃないから、はい、虫歯無しね、クリーニングして終わりね。
「今の先生、こっちに引っ越してからだけども、あそこは最近学校の検診も引き受けているから、場合によっては何週間待ちになるからさ、健康でいいんじゃない」
春先の検診ともなりますと、ほぼ三週間は埋まってしまうぐらいです。
そこに来客。
「あっ、来たみたいですね」
「今度はどういうものが来るんだろうな」
ワクワクしている。
来客というのは、浜薔薇のスタイリストで使う雑貨などを頼んでいる人です。
「お疲れ様です、蘆根さん、傑の兄貴!」
どっちかっていうと、蘆根の後輩みたいな、腕っぷしが強そうに見えるタイプです。
「煽てても、負けないからね」
「わかってます」
この辺になると蘆根の出番はあまりない。
今回もいいもの選んでいるなというものから、さらに傑が絞る。
「うちはあまり流行は必要としてない」
「わかっているんですが、それでも見てください、このランクはなかなか入ってこないですから」
「タオルは良いものですね」
「ええ、毛足が違うでしょ」
「これよく手にはいったね」
「そうなんですよ、びっくりしました」
この兄さんは、家業を現在手伝っており、父親である社長が、常連で目利きであり、将来性を感じる傑の担当につけた。
「傑さんについて勉強させてもらえ」
自分が教えると甘えが出るからこそ、厳しい客である傑に鍛えてもらえという親心であったが、そこで拗ねずに。
「なるほど、これが出ると」
「もうこの時期だと日焼け防止のアイテムは出揃うけども」
「売れるものはもうないっす」
「そうなんだよね、傘は」
「良いものはもうシーズンオフを待つしか」
この話しが白熱する中を、イツモが入っていかないように蘆根は抱っこして、くすぐった。
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