浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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復唱するのも躊躇うやつ

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『ここは浜薔薇の耳掃除です』

「やあ、お疲れ様、休憩中のところ悪いね」
カイムのところに、理事長から電話がかかってきた。
「お疲れだと思うのならば…」
「そちらが区切りがついたのは報告でもらっているし、これは明日以降の空いているときにやってくれたら嬉しいなってやつ、実はさ」
サメが逃げたのだという。
「はっ?」
「もちろんうちのサメではないよ、そしてそのサメはすいすいと地上を行き来するんだけども」
「映画ですね」
「そうだね、でもまあ、研究しているところから逃げたところなので」
「それは…」
「無害、間違いもなく、ただ捕獲は無傷が望ましいっていう要請が来てる、もちろんお金とかはその分いいんだけどもさ」
「はぁ」
「その名もロングヘアーシャーク」
「復唱するのも躊躇うやつですね」
「これがさ、研究者が長年ストレスに悩んでて、ストレス性の脱毛症になってしまって、髪が欲しいと、それで再生力がある動物に目をつけたわけ、ロングヘアーダチョウはすぐに見つかったんだけども、サメがね」
「わかりました、ベストは尽くします」
「まあ、これはこちらが捕獲したら嬉しいけども、他のところなんかは大金はもらえるかもしれないが、どうするんだこれ?案件だからね」
ただカイムは知っている、そういうのでもない限り、無名の者は名をあげる機会はないし、また有名どころと知り合うことがないことも。


『ここは浜薔薇の耳掃除です』


「すいません、予約したものなんですけども」
「はい、お待ちしておりました」
夜間に新規のお客さんがやってくる。
「知り合いにね、ここは腕がいいって言われて、ちょうど仕事で煮詰まったものだからね、それじゃあってことで来てみたの」
「ありがとうございます」
浜薔薇は挨拶が気持ちがいい店でもある。
「今日はどうしましょうか?」
「ベタベタしてきているから、そういうのなんとかならない」
「ではシャンプーとシェービングを対応したものにしましょう」
「そういうのあるんだ」
「やはり時期だけに、この時期ってあったかくなると、べたっとしてくるのがわからるから、べたっとしてくるのに慣れ来た時期じゃなくて、やっぱり人間だからかな、気になる時に予約が入る感じですね」
「へぇ」
お肌や頭皮の健康をチェックする。
「一度皮脂をここでさっぱりさせますから、そしたらローションで補います」
「洗うだけじゃだめなの」
「洗うだけだと、失われたものが、皮脂って洗ったりしたときに水分がなくなるんで、その保護のために出るから、こうしたケアをするだけで違いますよ 
「へぇ、あんまりさ、こういうのに詳しくはないから一回一回驚いてしまうよ」
「こっちは年がら年中、お客さんに店に来てもらって良かったって思ってるんで」
「はっはっはっは、それは確かにいい店になるよね」
「でしょ?」
「うん」
そしてシャンプー台に向かうと、まずお湯で洗うのだが、ツボを押してくる。
「頭皮が固いですね、ご自宅でもお風呂の時なんかにマッサージしてくださいね」
ただお湯で洗う時に、蘆根はせっかくだからとツボを押す。
キュ
首の後ろそばの目のツボを押すと、お客さんがビックリした。
「目も大分つかれてますね、ここわかります、ここが目の縁で」
目から少しばかり離れているはずなのに、しっかりと目に反応がくる。これをずっとやってほしいし、毎日やったら疲れ目とは縁がなくなるような、蘆根の頭のツボ押しは軽くで終わった。
「すいません」
「どうしましたか?」
「これってメニューあるんですか?頭のマッサージとか」
「うちにはそういうのはありませんね」
「ええ!」
値段によってはそれも追加してもいいかもしれないと、明らかに涙の出が違う。
「ヘッドスパメニューはその名前ではやってなくて、ほらうちは三人だから、日中は三人ともこなせるメニューにしてますから」
できなくもないが、正式なものではないヘッドスパはあるという。
「だいたいいくらぐらいなの?」
値段を聞くと、えっ?それならそれもお願いするよ価格だったので。
「じゃあ、久しぶりにですかね、前はホテルに勤めていたんめ、その時のヘッドスパになりますけども」
「気持ちいいのを期待している」
先程のツボ押しという形ではなく、今度はマッサージに変わる。
場所が場所だけに力を入れず、三本の指が撫であけて、不思議なことにそのマッサージをされると、肩も変わってくる。
(作業用の椅子があってないからな)
自宅で仕事するつもりはなかったので、ダイニングテーブルで仕事をしたところ疲れがいつもより溜まってきた。
(来客用にダイニングテーブルのセットを買ったけども、こんなことならちゃんとこだわれば良かった)
体への後悔とこれからの展望が不思議とマッサージ中はよぎるのだという。
(いや、まずは椅子だ、このままだと他も悪くなるかもしれない)
そこで意識がふと消えた。
リラックスで寝落ちしたらしい。
「ありがとうございました、自分が疲れているのがよくわかりましたよ」
「疲れないのが一番なんですけどもね」
「本当にそれはそうです」
ロングヘアーシャークの研究者は、後に語る。
ストレスがある状態で髪を生やそうとしても、先にストレスや疲れを取らなければ、意味はないと。


「先輩、この辺に妖怪出るって知ってます?」
「妖怪?」
「なんか毛むくじゃらっていうんですかね、汚い髪をした大きい奴、あきらかに人より大きくて、びっくりして声をあげたら逃げたとかで」
「それは洗ってみたくなるな」
「ダメですよ、店内に入れたら」
「でもよ、洗ってないなら洗いたくならないか?」
「ダメです」
妖怪の噂はすぐにたち消えたが、あれはなんだったのだろうか?まさか熊が?ということで、見回りをしたのだが、ついぞ発見出来なかったという。
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