浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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出た!蘆根の同業者目線

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「あなた!」
いきなり知らないご婦人から話しかけられた。
「あなた、その傘、どこで手にいれましたの?」
深い緑色の傘が、上品に見えたらしい。
「これは贈り物なんですが、扱っているお店は…」


【浜薔薇の耳掃除】



何を頼むにしても凄腕がいい。
今回はそれを本当に思い知らされた、そしてたどり着いたのがこの人である。
「カイムさんには本当にお世話になって」
「仕事ですから、気にしないでくださいよ。あっ」
この「あっ」は心臓に悪い、ドキッとする。
「髪」
「髪?」
「切りません?よろしければ、私の友人がやっている店でよければサービスで」
色んなものを節約し、全てはこの問題を解決するために、正直その申し出はありがたい。
「いらっしゃいませ」
予約を入れたところ、時間外の貸し切りとなった。
「よろしくお願いします」
「気にしないでくださいよ」
店の人は気さくだ。
「で、どうします?」
「そうね…」
「こういうときだから、色々と試してみちゃいます?」
「そういうのもおもしろいかもれないわね」
自分の髪を一撫でしてから。
「じゃあ、短くしてもらおうかな
「はい、わかりました」
カットクロスを結ばれる間にも、自分の心に浮かぶのは、ここに来るまでの色んなことだ。そしてまたしばらくこれは続くのだろうが、一息といった感じかな。
「じゃあ、パックエステとかもしちゃいます?」
「えっ?」
「どうせ込みなんで、何やっても一緒だから、せっかくだし」
おそらくここに優がいたら、「お前な」と呆れるだろうが。
(こういうときはな、いい気分にならないとダメなんだよ!)
自信をもってどこからか聞こえてきそうな声に返事した。
「本当ね、髪もね、いつもならばもう切っていたのよね」
一ヶ月に一回通っていたお店にはいけなくなり、それでもとは思ったのだが、今では我慢して何ヵ月に一度、安いところを見つけて切るぐらいである。
「こういうところに来るのも久しぶりよ」
 私はなんでこんな生活をしているんだろうか。
「前に住んでいたところじゃあね、仕事の帰りにマッサージが好きでよく行ってたの」
「腕いいんですか?」
出た!蘆根の同業者目線。
「いいわよ、タイで勉強してきたところで、そこに通って、足のむくみとかスッキリして、また通いたいわ」
「案内してください」
「えっ?」
そのマッサージ屋を知らなかったらしく、蘆根は気になったらしい。
「大丈夫、あいつが、優のお客さんなら、ある程度以上解決してくれますから、そういうマッサージ屋にもいけるようになりますよ」
「そうだといいわね」
「あいつはランチャーとか呼ばれる凄腕ですし」
残念、ランチャーじゃなくてラーチャー、意味としては主人に忠実なミックスという、本人はあまり呼ばれたくはない名前である。
「でもカイムさんって、凄腕過ぎて、えっ?ってなりません?」
「なりますね、悩んで相談しにいって、特に他では解決しなくてたらい回しにされてから、行くと、みんな不思議な顔してますね」
「そう!本当にそれ!ここでもうまく行かないんだろうなって思って話していくと」
それならまずこれしましたか?
いえ、その説明を今までされたことありません。
じゃあ、しましょうか。
「って感じで、あれ?やることってまだたくさんあったの?って、今までってなんだったの?そんな気分だし、カイムさんと話した後、なんだかお腹空いちゃって、いつもは食べないものまで食べましたからね」
ピザワンカット行けそう、ペロリ!


「はい?あっ、お電話ありがとうございます、理事長様」
「カイムも元気そうで」
「そういう挨拶はいいですから」
「また頼みたい人がいるんだけども、今のスケジュールはどうかな?」
「構いませんよ、今のお客さんは終盤で、浜薔薇に行ってもらってますから」
「いいね、さすがに仕事が早い」
「そうじゃないと、あなたは仕事を紹介してくれないじゃないですか」
「そうだよ、だって一秒でも早く解決してほしい人達を任せる 
わけじゃない?仕事できない人を紹介されても困ると思わない?」
「そうですね」
「でもね、君に頼めそうなのがあればガンガンいれていくから、そのつもりでね」
「いつでも引き受けますよ、あなたが持ってくる仕事はいつも美味しい」
「だって美味しくなければ、何をモチベーションで引き受けてくれるんだい?そこが見えない人には逆に怖くて頼めないでしょ」
「出来れば電話はやめてくださいよ」
「いや、だってさ、こっちはこっちで仕事が忙しくてさ、外に出れないんだよね、あ~やだやだ、まだまだえらくなるつもりはなかったんだよ、こっちは」
「理事長の周囲で、代わり勤めれる人はいますけども」
「本当ね、帰ってきてほしいよ、本音としてはね、でもそれは無理なわけよ、それはカイムもわかっているでしょう?」
「わかってはいますが、そこは緊急ってことで」
「う~ん」
「なんです?」
「この立場と、僕の大好きな人間関係どちらを選ぶかっていったら、人間関係なんだよね、それなら立場いらないかも」
コホン
電話の向こうから咳払いが聞こえた。
「じゃあ、秘書が来たみたいだからまたね!」
皆無 優の仕事は、この理事長と知り合ったことからどんどん変わった。
手になり、足になることで、生活も安定していったが…彼が人生で歩む場所も狭くなった。 
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