浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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迷っている暇があったら愛してあげなよ

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「今日はどうしますか?」
「シェービングで」
「ようやく皮膚が良くなりましたね」
このお客さんは蘆根が長く担当しているお客さんである。
「そうなんだよね、もうあんなのこりごりだよ」
この方は市販のトリートメントを変えたところ、肌荒れを起こし、しばらくシェービングができなかったのである。
「あれが問題起こしているって気づかなくてさ、それで悪化してから、あれ?おかしいなって思ったわけさ」
「でも、すぐに原因かって慣れているものじゃないとわからないですよ」
「とりあえず、怖いよ、前までだったら、新しいもの出たら試したくなるタイプだったけどもね、今はそういうのはないね」
そこから恐る恐る、自分の合うものを探した。
「アレルギーの人の気持ちがよくわかった、しかしさ、不思議と浜薔薇のは特に問題なく来ているから、安心する」
「アレルギーの人はいますね、うちのお客さんにも」
「そうなの?」
「美容院がダメになった人がいたりします」
「何が原因なの?」
「バーマ液ですね、あれでむせるって、今までむせたことがないのに、むせて、咳が止まらなくなって、その人もなんでそれなのかわからなくて、今まで咳が止まらなくなったことがないから、驚いたと」
「私さ、髪を切るの好きなんだよね、今回は市販のものだったけども、店がダメになった人はきついな」
「その人はうちにも来たりしますけども、やっぱり怖いときが、なんかもう出そうみたいなのがわかるようになったので、浜薔薇には行きたいけどもさって、出張か、それか今だとカット専門店ってあるじゃないですか、そういうところにいってるって」
「ああ、なるほど、そういうのがないから」
「ただ最近、空間、除菌なんたらでいける店がまた限られてきたと」
むせはしないが、これは同類の喉の違和感。
「アレルギー!!!!」
「本当ですよね」
「本当、飲んでいる間はバリア張れるやつとかないかな」
「それはいいですね」 
そこでふと気がついた。

イツモちゃんのチュメ!

(あの人ってもしかして猫アレルギー持っているのかな)
猫と違ってケットシーは猫アレルギーが発生しないのであるが、まあ、ここで答えは発表はしないということにしよう。


浜薔薇の駐車場から、「福猫1号」が走り出した。
基本的には浜薔薇の駐車場で営業できるような体制にはしているが、追加料金を払うとこのように他の場所でも営業できた。
そして保険の類もKCJが管理部門が代理店として手続きしてくれるので、自分のキッチンカーを所有した後も、そちらを利用することを考える人もいるようだ。
「さすがうちの管理部門、手堅い」
ここら辺は出張所の二人は後で説明を受けました。
「そのぐらいじゃないとお金なんていくらあっても足りないだろ?」
「そりゃあそうですね」
「ただ保険だと…」
「掛け金の三割ぐらいかな、代理店側に入るの、ただお得な掛け金とかになっているから、そこが売りだな」
「抜け目がないというか、なんというか」
「うちの管理部門だぞ」
資金と管理はこういうところがしっかりとしている、整備のような我が道をいくタイプの方が、KCJでは珍しいのかもしれない。
「整備はね」
「整備だからな」
破損したものを手に入れて、それを修復してえらいことになったりもしている。
「車買うときとか、整備の人間に頼むと、店もそうだが、その後のメンテナンスもしっかりやってくれているからな」
「東司は免許の関係で、整備とは縁深いですからね」
「まあ、細かくいうよりはいいよ」
「ですね」

スッ
来週結婚式を控えるお客さんに、首のマッサージをする。
来店時には鎖骨が見えるような格好をしてもらうが、それはオイルを塗るためであった。
このお客さんは、蘆根が前に勤めていたホテル関係の、今回はフリーになったメイクさんから紹介されて訪れてくれた。
「蘆根くんなら、浜薔薇なら安心して紹介できるから

こういうのは大変にうれしい、やはり同業者やその腕を知るものに認められた感じがする。
お客さんの体は老廃物が溜まり、鎖骨を円を描くようなタッチでマッサージすると、気持ち良さそうな顔をした。
「肩こりすごい方ですか?」
「なんかさ、結婚式って準備大変でさ、パンフレットとか資料とか、仕事終わってなら見るのしんどい、まあ、でもそう一生にはないというか、ないといいな、何回も」
自分で言ってて悲しくなったのか、首が項垂れたので、蘆根がツボを押す。
ピッ
すると首の位置が戻る。
「マリッジブルーとか自分はならないと思ったんだけどもさ、失敗したらどうしよう、なんか家に帰ってきたら、さようならとか書き置きとかあったら、どうすればいいんだい?」
「それはその時でなければわからないのでは…」
「そうだよね」
「それとも、何か思い当たる節が?」
「ないけども、こういうのってさ、実は向こうが我慢してて、もう我慢の限界で!さようならから始まる場合もあるじゃない?」
「なるほど」
「まあ、こんなに後ろ向きじゃダメなのかもしれないけども、もっといい人出来たのとか言われそうで、何て言うのかな、なんで自分と付き合ったのかなって、結婚したいなとは思ったけども、果たしてそれと幸せはイコールなのかと」
「迷っている暇あったら愛してあげなよ、別れなんてないきなり来るもんさ」
「タモツ先生」
「おやっさん」
目の前で倒れたとき、何が起きたのかわからなくなった。
だってさっきまで楽しそうに話していたのに、さようならは突然に来るのだ。
タモツがそのまま店の奥に消えた。
「ベス湯のさ、先週の記事読んだの思い出した」
お客さんは泣いていた。
「タモツ先生の、奥さんとの結婚のやつ」
元カメラ屋のオヤジが、浜薔薇で行われた結婚式の写真を持っていた。
若いタモツはお嫁に来てくれた女将さんと幸せそうな笑顔で並んでいる。
「浜薔薇は女将さんが倒れる前に、閉める話は出てたんですよ」
「えっ?そうなの?」
「店で苦労させたから、店を閉めたら、後は旅行でも二人でしていこうって…」
物好きが店を継ぐことにしたから、まだ店は閉められねえな。
蘆根がそう言い出したあと、タモツは仏壇の前で報告した。
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