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友達だしな
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「久しぶりだな」
「ああ」
客は笑うが、蘆根は気まずそうな。
「誰だい?」
「ああ、学生時代のええっと高校の同級生ってやつですね」
「なかなかいい男じゃないか」
つまりこれは…
「近くに来たからよってみた」
「そうか」
「そうだ」
「相変わらず忙しいか?」
「忙しいよ、何しろ人の不幸がある限り仕事は無くならないし」
「皮肉か?」
「そんな所だ」
「今日は何にします?」
「毛先を揃えて、それから」
「わかりました、お客様」
「…正直」
「なんです?」
「蘆根はこだわりすぎるから、こだわりすぎて店を潰すと思ってた」
「それはみんなに言われてますね」
「やっぱり」
「ええ、もしも俺が浜薔薇じゃないところで店だしてたら、3ヶ月持つかな?って」
「家賃か?」
「お客さんが見つからないんじゃないかって」
「なるほど、選り好み激しそうだもんな」
「そんなことは…ないとは思いたいんだけももな、ちょっとお辞儀して」
そうやって頭を下げたところで髪を合わせて切る。
「ホテル勤めのままになるかと思っていたよ」
「俺もそうなると思ってた」
「あれか、フラれたからか?」
「嫌なことを、まあ、お前はそういうやつだった」
「そこは諦めろ」
櫛で整えると、何本か飛び出てきた髪を切る。
「ホテルとかは楽しかったよ、ウェディングとか、そういう仕事は個人ではできないし」
「気付けはやらなかったのか?」
「考えはしたんだよな、でも」
「金か?」
「そうだな」
衣装方面はお金がかかる。
これがまだ傑ならば、予算を守って楽しめるような辺りで済むが、耳かきとマッサージのこだわりを見ての通り、これで蘆根が衣装に行ったのならばお金はいくらあっても足りないだろう。
「後な、俺の性格的に向かない」
気に入ったなら、ずっとこれでいいんじゃないか?のタイプ。
「はっはっはっ、そうか、そうだもんな、お前はさ」
この仕事をしているからこそ、気を付けているぐらいであって、好きなものにしか興味がないタイプである。
「TPOは守るぞ、さすがに」
それこそホテル勤務は制服、ないしセミフォーマルだったので、蘆根にはそこが楽であった。
「アイロンに拘ってるとか?」
「よくわかったな」
ただホテルのクリーニング部が職人の仕事だったので、そこに任せていた。
「あそこのクリーニングに行くと、そこしか考えられないんだよ」
「へぇ、そんなにいいのか」
「何を預けても、間違いない仕事してくれるだよな、今ってさ、アウトドアブランドと毛皮とかって全部時価って知ってる?」
「そうなのか?」
「そうそう、下手なところに預けると加工失敗されたりするから、気を付けた方がいい、それこそ、アウトドアブランドに至っては、全国で10もないんじゃないか?正しく扱えるところは」
蘆根は自分のこだわりの話になると饒舌になったりする。
「ちなみに蘆根はどうやってそういうのを対処してる?」
「町のクリーニング屋さんなら、まずアウトドアブランドのリストに載ってないやつ預けているし」
「かぶらないため?」
「それもあるが、クリーニングに耐えれるコートとかなんで」
ライナーがついて、取り外して秋冬調整している。
「まあ、それかうちの傑がいるから、今は安く買えるから、ちゃんとクリーニングできるところに送料つけて頼んでも安く上がるとかな」
「いい後輩を持ったな」
「そうだな、海外のものって、買ったときの値段もそうなんだけども、メンテナンスの値段も考えないとやっぱりダメなんだと思う」
「そこは…本当な、クライアント見るとわかる」
「えっ?何々地雷踏んじゃった?」
蘆根は嬉しそうであった。
「ああ、そういうのだよ、そこら辺からこれどうやって回収するんだっていう計画書の段階で杜撰っていうのが、本当に多くてな」
「まあ、売れたら何とかなるんじゃね?はある」
「お前もそういうところあるよな」
「そうだな、技術職だから特にな」
「もう少しそういうところ考えてくれよ、叱っても、誉めてもダメなら、私は何をすればいいのかわからなくなる」
それは蘆根にいったのか、いや、頭を悩ませてくれるクライアントにだろう、これは。
「ずいぶんストレス溜まっていたんだな」
「そうだよ、からかいにきたと思ったか?」
「まあな」
「あのな、からかって人間関係台無しにする方が損じゃないか」
「それがわかっているうちはいいんじゃないか?」
「…」
「だろ?」
「お前のところで、支援活動しているって話を聞いてびっくりした」
「そうか?」
「やっぱり昔、色々あったから?」
「そうだな、あれがなかったら、支援とかしますとかをやるにしても、今じゃなかっただろうなっては思う」
「そうか、すまない、声をあらげた」
「いいって、友達だしな、クライアントや同僚、部下とかにそういう感じになるよりはいいんじゃないかって思うし」
「お前と話すと本当に毒気が抜けるな」
「そりゃあどうも、でも毒なんで溜めておかない方がいいに決まっている」
こういう店主がいる店なので、気分転換したくなったら、浜薔薇に行こうかなんてお客さんたちは思い浮かべたりするのである。
「ああ」
客は笑うが、蘆根は気まずそうな。
「誰だい?」
「ああ、学生時代のええっと高校の同級生ってやつですね」
「なかなかいい男じゃないか」
つまりこれは…
「近くに来たからよってみた」
「そうか」
「そうだ」
「相変わらず忙しいか?」
「忙しいよ、何しろ人の不幸がある限り仕事は無くならないし」
「皮肉か?」
「そんな所だ」
「今日は何にします?」
「毛先を揃えて、それから」
「わかりました、お客様」
「…正直」
「なんです?」
「蘆根はこだわりすぎるから、こだわりすぎて店を潰すと思ってた」
「それはみんなに言われてますね」
「やっぱり」
「ええ、もしも俺が浜薔薇じゃないところで店だしてたら、3ヶ月持つかな?って」
「家賃か?」
「お客さんが見つからないんじゃないかって」
「なるほど、選り好み激しそうだもんな」
「そんなことは…ないとは思いたいんだけももな、ちょっとお辞儀して」
そうやって頭を下げたところで髪を合わせて切る。
「ホテル勤めのままになるかと思っていたよ」
「俺もそうなると思ってた」
「あれか、フラれたからか?」
「嫌なことを、まあ、お前はそういうやつだった」
「そこは諦めろ」
櫛で整えると、何本か飛び出てきた髪を切る。
「ホテルとかは楽しかったよ、ウェディングとか、そういう仕事は個人ではできないし」
「気付けはやらなかったのか?」
「考えはしたんだよな、でも」
「金か?」
「そうだな」
衣装方面はお金がかかる。
これがまだ傑ならば、予算を守って楽しめるような辺りで済むが、耳かきとマッサージのこだわりを見ての通り、これで蘆根が衣装に行ったのならばお金はいくらあっても足りないだろう。
「後な、俺の性格的に向かない」
気に入ったなら、ずっとこれでいいんじゃないか?のタイプ。
「はっはっはっ、そうか、そうだもんな、お前はさ」
この仕事をしているからこそ、気を付けているぐらいであって、好きなものにしか興味がないタイプである。
「TPOは守るぞ、さすがに」
それこそホテル勤務は制服、ないしセミフォーマルだったので、蘆根にはそこが楽であった。
「アイロンに拘ってるとか?」
「よくわかったな」
ただホテルのクリーニング部が職人の仕事だったので、そこに任せていた。
「あそこのクリーニングに行くと、そこしか考えられないんだよ」
「へぇ、そんなにいいのか」
「何を預けても、間違いない仕事してくれるだよな、今ってさ、アウトドアブランドと毛皮とかって全部時価って知ってる?」
「そうなのか?」
「そうそう、下手なところに預けると加工失敗されたりするから、気を付けた方がいい、それこそ、アウトドアブランドに至っては、全国で10もないんじゃないか?正しく扱えるところは」
蘆根は自分のこだわりの話になると饒舌になったりする。
「ちなみに蘆根はどうやってそういうのを対処してる?」
「町のクリーニング屋さんなら、まずアウトドアブランドのリストに載ってないやつ預けているし」
「かぶらないため?」
「それもあるが、クリーニングに耐えれるコートとかなんで」
ライナーがついて、取り外して秋冬調整している。
「まあ、それかうちの傑がいるから、今は安く買えるから、ちゃんとクリーニングできるところに送料つけて頼んでも安く上がるとかな」
「いい後輩を持ったな」
「そうだな、海外のものって、買ったときの値段もそうなんだけども、メンテナンスの値段も考えないとやっぱりダメなんだと思う」
「そこは…本当な、クライアント見るとわかる」
「えっ?何々地雷踏んじゃった?」
蘆根は嬉しそうであった。
「ああ、そういうのだよ、そこら辺からこれどうやって回収するんだっていう計画書の段階で杜撰っていうのが、本当に多くてな」
「まあ、売れたら何とかなるんじゃね?はある」
「お前もそういうところあるよな」
「そうだな、技術職だから特にな」
「もう少しそういうところ考えてくれよ、叱っても、誉めてもダメなら、私は何をすればいいのかわからなくなる」
それは蘆根にいったのか、いや、頭を悩ませてくれるクライアントにだろう、これは。
「ずいぶんストレス溜まっていたんだな」
「そうだよ、からかいにきたと思ったか?」
「まあな」
「あのな、からかって人間関係台無しにする方が損じゃないか」
「それがわかっているうちはいいんじゃないか?」
「…」
「だろ?」
「お前のところで、支援活動しているって話を聞いてびっくりした」
「そうか?」
「やっぱり昔、色々あったから?」
「そうだな、あれがなかったら、支援とかしますとかをやるにしても、今じゃなかっただろうなっては思う」
「そうか、すまない、声をあらげた」
「いいって、友達だしな、クライアントや同僚、部下とかにそういう感じになるよりはいいんじゃないかって思うし」
「お前と話すと本当に毒気が抜けるな」
「そりゃあどうも、でも毒なんで溜めておかない方がいいに決まっている」
こういう店主がいる店なので、気分転換したくなったら、浜薔薇に行こうかなんてお客さんたちは思い浮かべたりするのである。
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