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嬉しい報告
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「ゆっくりしていってくださいよ」
そう蘆根に声をかけられたら。
(そうだよな)
と素直に思ってしまったので、理容の椅子に座り、頭を固定した状態で耳かきをはじめてもらうことにした。
凄まじい忙しさで、あれもやらなきゃ、これもやらなきゃと思っていた。
しかし、ある時…
(あれ、もうやることないや)
全部こちらの物は次の人たちに渡し、それこそ返事待ちで、全部スマホに送られてくるだろう。
…というと、何をしよう。
そんなときに自分の髪が伸びていたことに気がついた。
もうちょっとで邪魔だなと思うぐらいの伸び方、ああそれならばと浜薔薇に行こうと思ったのである。
「今日は蘆根さん一人なの?」
「ああそうですね」
ニャー
外から猫が鳴いた。
「一人と一匹ですね」
「ケットシーだっけ?」
「そうです」
「そんなのゲームでしか見たことはなかったけどもさ」
「あれとはまた違う、猫の、ミケとかシャムとかそういう感じのケットシーですね」
聞いただけでもアレルギーがないっていうのがすごいなとは思ったが。
「それでもオスの三毛猫の方が珍しいので」
オスの三毛猫が一匹いると、ケットシーは三から五匹ぐらいはいる確率だそうです。
ピョイ
窓の外にいたイツモは飛び降りたが、すぐに塀を乗り越える姿が見られた。
「あれは友達に会いに行っているんです」
今日はあたたかいので玄関先にいるフェカリス、勝手に戸をあけてイツモが入ってきて、腹の辺りでリラックスしてる。
「まあ、フェカリスもクーシーの血を引いていますし」
「クーシーって何さ」
犬版ケットシー。
また新しい単語来たよ、頭を悩ませる気満々だよ!
「それじゃあ耳かき始めますんで」
「あっ、はい」
固定された頭だと耳かきするのは容易い。
「お客さん、耳掃除はしてたんですね」
「してたね、ほら一回まったくしてなかったら、お風呂で水が入ったとき大変でさ」
その時聞こえが悪くなり、耳鼻科でとってもらうことになったが。
「あれは痛かったから、もう嫌だって思ってて」
そこから耳掃除だけはしてるけども、気持ちのいいとは別物である。
とりあえずつまらないように、頑張って掃除をするといったところなので…
パリ
やはり本職は違う、音から違う。
「おや、ちゃんと掃除はされてますね」
そんな本職から誉められるととても嬉しい。
「ちゃんと掃除されているから、コロコロしたのは出てこないんですよ」
ペリペリ
中でゆっくりと垢をはがされていくのがわかる。
(これだよ、これ)
たまらない感覚があった。
垢の色は白っぽい、よく掃除をしているためだ。
薄い垢は剥がしていくのは繊細な技術がいるが、とても気持ちがいい。
コリコリ!
(うっこれは)
素直に気持ちいいと言えないのは、理性が勝つからであるが。
その理性を耳かきの力で悶絶させるのが、浜薔薇の耳かきであり、蘆根は現在の店主でもある。
蘆根は耳かきが始まると、集中してしまうタイプなのはご存じかと思うが、久しぶりの耳かきをした蘆根の冴えは凄まじいものであった。
耳の中が手に取るようにわかる。
「先輩はそんな感じでしたね」
途中傑が店内に戻ってきたので、その時の光景を告白する。
「一欠片も耳垢が残るのは許されない」
まさしくそんな感じで(プライバシー保護のために音声を変えております)
「そんな所に垢がたまる方が悪いって感じでしたね」
そして耳をたっぷりの泡で洗われ、これでもか、これでもかと汚れを落とされた。
「蘆根さんのおかげで仕事で大変だけども、また一から頑張ろうって思えます!!!!」
「そしたらまた来てくれよ!」
店内を準備しながら。
「先輩が耳かきやマッサージをするお客さんって、みんなああいう前向きになりますよね」
「前向きの方が人生なんでもいいんじゃないか?」
「それはわかるんですが」
何しろ別人のように変わるものだから。
「何か悪いもの食べたの?」
や、浮気を疑われるらしい。
「辛いとかしんどい時に、信じられないほど気持ちよかったり、最高な気分にしてあげるのが俺の使命みたいなもんだからよ!」
確かに上司は腹立つけども、蘆根さんに耳かきで寝落ちさせられたら、明日からまた頑張る、ついでに転職エージェント頼みました。
勇気も出るようである。
「なんかこう、ちょっとは気を使っていたんでしょうね、今の仕事に、でもここまでになってて、たまたま蘆根さんのところに来て、耳かきを深いところまでされたら、なんかもうどうでもよくなったって言うか、さっさっとさ、次に行った方がよくない?って」
転職のきっかけ、浜薔薇の耳掃除をしたからは何人かいるので。
「置いてみました」
傑が自分の目から見て、これはいいと思った転職やお仕事情報を浜薔薇で待っているお客さんのために置いてみた。
「傑はそこら辺めちゃくちゃ上手いからな」
「データだけである程度はいいところ絞れますから」
本当、前の職場やめた時に、実家の会社手伝えばそれはそれで成功してたんじゃないのっていうほどの処理能力を持っていた。
「いらっしゃい」
「あっ、求人情報もらいに来たんです」
最近ではそういう人も増えたが、それはそれでいいだろう。
良いところに転職出来たお客さんが、増えれば社会貢献にもなるだろうし…
そこにまた別のお客さんだ。
「すいません」
「求人ですか?でしたら」
先日広告をもらいに来たお客さんなので、新しいのを渡そうとしたら。
「いえ、転職成功して、初給料来たんで耳かきにきました」
それはそれは嬉しい報告であった。
そう蘆根に声をかけられたら。
(そうだよな)
と素直に思ってしまったので、理容の椅子に座り、頭を固定した状態で耳かきをはじめてもらうことにした。
凄まじい忙しさで、あれもやらなきゃ、これもやらなきゃと思っていた。
しかし、ある時…
(あれ、もうやることないや)
全部こちらの物は次の人たちに渡し、それこそ返事待ちで、全部スマホに送られてくるだろう。
…というと、何をしよう。
そんなときに自分の髪が伸びていたことに気がついた。
もうちょっとで邪魔だなと思うぐらいの伸び方、ああそれならばと浜薔薇に行こうと思ったのである。
「今日は蘆根さん一人なの?」
「ああそうですね」
ニャー
外から猫が鳴いた。
「一人と一匹ですね」
「ケットシーだっけ?」
「そうです」
「そんなのゲームでしか見たことはなかったけどもさ」
「あれとはまた違う、猫の、ミケとかシャムとかそういう感じのケットシーですね」
聞いただけでもアレルギーがないっていうのがすごいなとは思ったが。
「それでもオスの三毛猫の方が珍しいので」
オスの三毛猫が一匹いると、ケットシーは三から五匹ぐらいはいる確率だそうです。
ピョイ
窓の外にいたイツモは飛び降りたが、すぐに塀を乗り越える姿が見られた。
「あれは友達に会いに行っているんです」
今日はあたたかいので玄関先にいるフェカリス、勝手に戸をあけてイツモが入ってきて、腹の辺りでリラックスしてる。
「まあ、フェカリスもクーシーの血を引いていますし」
「クーシーって何さ」
犬版ケットシー。
また新しい単語来たよ、頭を悩ませる気満々だよ!
「それじゃあ耳かき始めますんで」
「あっ、はい」
固定された頭だと耳かきするのは容易い。
「お客さん、耳掃除はしてたんですね」
「してたね、ほら一回まったくしてなかったら、お風呂で水が入ったとき大変でさ」
その時聞こえが悪くなり、耳鼻科でとってもらうことになったが。
「あれは痛かったから、もう嫌だって思ってて」
そこから耳掃除だけはしてるけども、気持ちのいいとは別物である。
とりあえずつまらないように、頑張って掃除をするといったところなので…
パリ
やはり本職は違う、音から違う。
「おや、ちゃんと掃除はされてますね」
そんな本職から誉められるととても嬉しい。
「ちゃんと掃除されているから、コロコロしたのは出てこないんですよ」
ペリペリ
中でゆっくりと垢をはがされていくのがわかる。
(これだよ、これ)
たまらない感覚があった。
垢の色は白っぽい、よく掃除をしているためだ。
薄い垢は剥がしていくのは繊細な技術がいるが、とても気持ちがいい。
コリコリ!
(うっこれは)
素直に気持ちいいと言えないのは、理性が勝つからであるが。
その理性を耳かきの力で悶絶させるのが、浜薔薇の耳かきであり、蘆根は現在の店主でもある。
蘆根は耳かきが始まると、集中してしまうタイプなのはご存じかと思うが、久しぶりの耳かきをした蘆根の冴えは凄まじいものであった。
耳の中が手に取るようにわかる。
「先輩はそんな感じでしたね」
途中傑が店内に戻ってきたので、その時の光景を告白する。
「一欠片も耳垢が残るのは許されない」
まさしくそんな感じで(プライバシー保護のために音声を変えております)
「そんな所に垢がたまる方が悪いって感じでしたね」
そして耳をたっぷりの泡で洗われ、これでもか、これでもかと汚れを落とされた。
「蘆根さんのおかげで仕事で大変だけども、また一から頑張ろうって思えます!!!!」
「そしたらまた来てくれよ!」
店内を準備しながら。
「先輩が耳かきやマッサージをするお客さんって、みんなああいう前向きになりますよね」
「前向きの方が人生なんでもいいんじゃないか?」
「それはわかるんですが」
何しろ別人のように変わるものだから。
「何か悪いもの食べたの?」
や、浮気を疑われるらしい。
「辛いとかしんどい時に、信じられないほど気持ちよかったり、最高な気分にしてあげるのが俺の使命みたいなもんだからよ!」
確かに上司は腹立つけども、蘆根さんに耳かきで寝落ちさせられたら、明日からまた頑張る、ついでに転職エージェント頼みました。
勇気も出るようである。
「なんかこう、ちょっとは気を使っていたんでしょうね、今の仕事に、でもここまでになってて、たまたま蘆根さんのところに来て、耳かきを深いところまでされたら、なんかもうどうでもよくなったって言うか、さっさっとさ、次に行った方がよくない?って」
転職のきっかけ、浜薔薇の耳掃除をしたからは何人かいるので。
「置いてみました」
傑が自分の目から見て、これはいいと思った転職やお仕事情報を浜薔薇で待っているお客さんのために置いてみた。
「傑はそこら辺めちゃくちゃ上手いからな」
「データだけである程度はいいところ絞れますから」
本当、前の職場やめた時に、実家の会社手伝えばそれはそれで成功してたんじゃないのっていうほどの処理能力を持っていた。
「いらっしゃい」
「あっ、求人情報もらいに来たんです」
最近ではそういう人も増えたが、それはそれでいいだろう。
良いところに転職出来たお客さんが、増えれば社会貢献にもなるだろうし…
そこにまた別のお客さんだ。
「すいません」
「求人ですか?でしたら」
先日広告をもらいに来たお客さんなので、新しいのを渡そうとしたら。
「いえ、転職成功して、初給料来たんで耳かきにきました」
それはそれは嬉しい報告であった。
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