浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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次も絶対にうちの店を選んでもらう

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カラスが多くなるのは寒いからである。
この辺のカラスはある程度寒くなると街中で過ごすらしく、今日寒いなと思う日はズラッと電線に止まっていく。
今日は寒いのか…と蘆根(ろこん)が思っていると、飼い猫のイツモが塀の上に乗って…
「カッカッカッ」
猫ってそんな声出せんの?と驚いた。
そしてピョンと蘆根のそばにやってきた、抱っこすると。
カラスが一匹塀に向かって急降下、何をするのかと思ったら、塀の下からネズミを捕まえた。
そして大空と思ったが、重かったらしく、とりあえず小屋の屋根の上に。
「おい、そこで食事するな」
確実に食べ残しを屋根に置いていくので追い払うと、バサバサと飛んでいった。
この辺は古い家屋が多いせいか、ネズミが住んでいる、カラス達はそれを狙ってるのだろう。
「イツモもネズミは取るからな」
そういってイツモを撫でた。
ピョン!
一度跳び跳ねていた丸々と太ったネズミがいた、確実に人間を舐めていると思われる。
でなければ、あんなに臆病なネズミが人の姿を見ても逃げるどころか、活発にはしゃぐものではない。
しかしだ。
ガシ!
弱肉強食、飛んだところをイツモが取った。
ちゅううううう
先程までとは違う、弱々しい声。
そしてイツモはどこかに去っていく。
(あれ、女の子にプレゼントしたりもしているようだから、薬剤も使えないんだよな)
蘆根はイツモがネズミ持って、振られて、その猫にキレられて、塀から落ちたところも見たことがあった。


「蘆根さん、お願いします」
平日の休みを利用して耳掃除とシェービングしにきた女性のお客さんである。
「自分でもやるんだけども、定期的にプロに根こそぎやってもらいたくて」
とのこと。
「最近はちゃんと食べてますね」
「前に肌荒れの話言われてから、めっちゃ気を付けている」
この店に来る女性客は化粧をしてない方か多い。
シェービングなどのために一度化粧を落とさなければならない、気になるかたは女性スタッフがいるところで、個室で行う。
(うちは女性客はパーティション仕切りだな)
これも講習を受けたときに、いるんじゃないかな?と思って用意したものである。
お客さんは手慣れた様子で、店にはパーカーで着ており、一枚脱ぐと、襟足が剃りやすい格好になった。
うなじにブラシで泡を伸ばしていくと、びくっとなる。
「肩凝りもひどいみたいですね」
「そうなんだよ」
このピクッが起きると、固さが落ちたりもする。
ショリショリ…
カミソリがうなじに走る。
シェービングは気を使う工程が数多いが、やはり首は慣れるまでは怖かったし、慣れても緊張感は抜けることはない。
「ここのシェービングフォームっていうの、普通に売っているの?」
「ああ、ご自宅で使うなら…」
このメーカーのこれ使うと同じぐらい潤いますよという話をする。
「普段から使うと、カミソリがよく乗るんですよね」
「そういうものなんだ」
「こういうのって最近ですかね、昔は洗った後に保湿が、それこそ高いものじゃないと潤いキープ出来なかったのに、今は毎日使うならこういう保湿いらないタイプの洗浄にして、気になってきたらパックとか、そういうのでいいんじゃないかな?って思いました、顔と体用色々と出始めたので試したんですが、俺が個人的にはこれですね、香料が強いと顔も洗うと匂いが気になるんで、今って香らないものって見つけるのって難しくて」
「それはわかるかも」
「その常連客さんはうちに来る前の日にそれ使って、肌の調子を整えてきますね」
「毎日は使えないの?」
「人によるとしか、その人は今まで使ったものと交互に使っているみたいですよ」
今まで使っていたものは、乾燥はしやすいが洗浄力が強いためさっぱりすると、連続して使うとそのまま乾燥しすぎるので、三日に一回は浜薔薇に教えてもらったものを。
そしてシェービングをしてもらう前後はこの潤いで洗って、肌の調子をキープしているそうだ。
「マメじゃないとできないよね」
「そうですね、肌とか強いなら、そこまで悩まなくてもいいですけど、うちのお客さんはアレルギーのお客さん多いんですよ」
「あれ?猫はいるんじゃ?」
「うちの猫は猫であって、猫でないみたいなものですけども、店にはつれてきませんし、そのアレルギーのお客さんはパーマなどの薬品らしいです」
咳が止まらなくなる。
「ああ、それは…」
「事前に言ってくれれば、そういうのはみんな対応しますよっていうスタンスですね、下手すると庭先にテント貼ってやりますし」
「それはそれで面白そう」
「実はバザーとかお話しいただいて、学校なんかでもやったりするんですよ」
前髪切りますよなのだが、忙しいお母さんたちには結構好評で、地域の組合で切りにいったりする。
「うちは朝早くても対応、何しろ隣に住んでますからしてます、それこそ予約してくれれば」
朝一で出張決まったから、頼むのお客さんが来たりします。
「寝る暇ないんじゃない?」
「でも向こうさんも困ってますし、毎日っていうわけではないから」
そんな話をしながら、耳掻きの準備をして行く。
男性が女性のシェービングや耳かきをすると痛かったりするが、おそらくこのお客さんはそういうものだと感じてはいないだろう。
それこそ、蘆根は猫のイツモで力加減を学んでいるので、猫を扱うようなタッチで向き合う。
竹の耳かきを取り出して、耳かきを始めると、梵天がくるくると忙しそうに動いている。
目は真剣そのもの。
カリカリカリ
耳にへばりついている垢を剥ぎ取っている。
ポロ!
いいのが取れた、そんな音がした。
毎日、毎日耳かきをして飽きないのか?なんて知り合いに言われたりするが、もしもそうならこの仕事は務まらないだろう。
訪れたお客さんに、こんな気持ちいいことがあるだなんて!と思わせたい。
次もうちを絶対に選んでもらう、そういうのが蘆根のモチベーションである。
スッ
耳かきが奥に入っていった。
お客さんがリラックスしたのもあるだろう、体の力みが取れている。
ポリ!
いい音だ。
ポリポリ…
固くなった耳垢が出ると、ニヤリとしてしまう。
よく見ると、その周囲は微妙に色が違う、これは膜となって表面を覆っているからだ。
バリバリバリ
その音は心地よく、また耳かきにずるずると枯れ葉のようなものが巻き付いていた。
(溝が気になるな)
ここはおそらく自分ではできないだろう溝、そこに匙をそ~といれて、ペリ、ペリと細かくはずしていった。
綿棒をかけて終わり。
反対の耳、こちらは綺麗そうに見える。
ただ…
(奥の取って終わりだろう)
と思っていた。
手前がきれいなのは、奥側がつまりかけているから。
これはいけないと、ピンセット、ここかな?と思うのが取れてから、崩れるよう散らばって。
「今すごい音が」
「全部きれいにしますから」
崩れたものを片付けるだけというが、転がらないようにするのは結構大変である。
「お疲れ様でした」
「どのぐらいとれました?」
と見せてみると。
「すごいですね、これ…耳の中に」
「このままだと詰まってましたよ」
「そしたら耳鼻科か」
「あまりいい思い出はないようですが?」
「結構怖い先生いるから…」
この辺には検診する前に耳がきれいじゃないと診ない先生が昔いたらしく、そのせいでみな耳鼻科怖いというらしい。
だからこそ、逆に気持ちのいい耳掃除に弱いのかもしれない。
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