ラビリンス~悪意の迷宮~

緑ノ革

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絶望

絶望2

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 鈴は空良とシトリーを交互に見て首を傾げた。

「さて、前の階層で言った通り、ここが最後の階層だよ、出口はふたつ、どちらから出るかは空良くんが決めるんだ」

 シトリーが言って、空良は眉間にシワを寄せる。
 出口がふたつあると言われても、その出口がどのような物なのか、想像ができなかった。
 しかし、この階層さえクリアすれば、自分は生き延びることができる。
 それは間違いないだろうと、空良は考えた。

「この階層には恐ろしい化け物がいるから、気を付けてね」

 シトリーはけらけら笑う。

「ボクの仕事はここまで。 じゃあ、頑張ってねー」

 緊張感のない声でシトリーは言い、その姿を消した。
 空良は「有難う、シトリー」と呟くように言って、深呼吸をする。

「お兄ちゃん?」

 少し不安そうに空良を見上げ、鈴が声を掛けた。
 空良は鈴を見てにっこり笑う。

「行こうか」

 空良が優しく言うと、鈴は頷いた。
 そして空良は部屋を見回す。
 空良達が入って来たドアの他には、ドアはひとつしか無かった。

(一本道か)

 そう思いながら、先に進む道なのであろうドアに向かって、空良は歩きだす。
 鈴はそんな空良の後ろについていく。

 空良がドアを開けて外に出ると、道は左右にのびていた。

「どっちに行こう」

 空良が悩んでいると、鈴が右側を見る。

「こっち行ってみようよ」

 鈴に言われ、空良は右に続く道の方を見た。
 なぜ右なのかとも思ったが、こういう時の小さな子どもの直感はよく当たる。
 空良は頷き「わかった、行こう」と返して、歩きだした。

 少し進むと、分かれ道につく。

「鈴ちゃん、どっちに行きたい?」

 空良が聞くと、鈴は「うーんとねぇ」と言いながら、左右に分かれている道を眺める。
 そして少しだけ悩んだあと、左を指さした。

「こっち」

 鈴が決めると、空良は「よし、行こう」と言って左の道に進む。
 少し進むと、今度はドアが三つある場所についた。

「次はドアか」

 空良は呟く。

(この階層は今までの階層に比べて、分かれ道が多いな)

 そう思いながらドアを見ていると、鈴が右のドアの方に向かう。
 そしてドアに耳をつけて、音を探ったあと、空良に手招きした。

「ここ、行こうよ」

 鈴が言う。
 その言葉に、空良は微笑んで鈴の選んだドアに向かっていく。
 一応、空良は化け物がいるかもしれないと思い、警戒しながらドアを開けた。

 幸い、ドアの先に化け物はいなかった。
 ほっと息をついてから、空良は鈴の手を引いて進む。
 落ち着いた色合いの壁に、真っ白な床が続く。
 どことなく、空良は病院を連想させる造りだと感じた。

 進んでいくと、両開きのドアが突き当たりにあるのが見える。

(もしかして、出口か?)

 そう思った空良の鼓動が早まった。

「あれ、出口かな?」

 鈴はそう言うと、するりと空良の手から自身の手を抜き、ドアに駆け寄る。

「あ、鈴ちゃん」

 ドアの向こう側がどうなっているのかわからない空良は、慌てて鈴の後を追う。
 鈴は警戒する様子も無く、ドアを開けた。

 開いたドアから風が吹き込み、鈴の体がよろける。
 危険を感じた空良は、急いで手を伸ばし、鈴の手を掴んで体を引き寄せた。

「……これって」

 ドアの向こうに広がる景色に、空良の顔が青ざめる。

 二人の視線の先には、道が続いていなかった。
 そこは目指していた外の世界だったが、下を覗いてみると、濃い霧が地面を覆い隠している。
 霧に邪魔をされ、確かな高さは分からないが、おそらく下に落ちたら死んでしまうだろう。

 空良はごくりと喉を鳴らし、一歩下がる。

(まさか、これが出口のひとつ……とか言わないよな)

 そう思っていると、鈴が三つの目に涙を浮かべて空良にしがみついた。

「鈴ちゃん……」

 空良にすがるように抱きつく鈴の背中を撫で、空良はドアを閉める。
 そしてしがみつく鈴に笑顔を見せた。

「ここはハズレみたいだから、他の道に行ってみよう」

 優しく言うと、鈴は空良を見上げて「うん」と小さく返す。
 空良は鈴に背中を向け、しゃがんだ。

「さ、おいで」

 空良の行動に、鈴は涙を拭いてから頷く。
 そして空良の背中に、鈴はくっついた。
 鈴の体が背中に触れたところで、空良は鈴をおんぶして立ち上がる。

 ドアに背を向けて、空良は来た道を戻って行った。
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