ラビリンス~悪意の迷宮~

緑ノ革

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すーちゃん

すーちゃん6

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 すーちゃんの意識が完全にシーソーの方に向いたのを確認した空良は、走ってドアに近付く。
 ドアに空いた穴を覗くと、その先には空良が歩いて来た通路が見えた。

(ここから戻れる!)

 確信した空良は、穴に手を突っ込み、ドアの向こう側のノブを回す。
 するとドアは軽い音を立て、開いた。

(よし、あとは鈴ちゃんを連れてくるだけだ!)

 そう思った直後、ゆらりと黒い影が空良に被さる。
 目を見開いて、空良が上を見ると、そこにはすーちゃんがいた。

 鋭い歯を覗かせて、三つの目で空良を見下ろしている。

 瞬間、空良は死を覚悟した。
 これで全て終わってしまうと、絶望に心が支配される。

 しかし。

 すーちゃんは空良に対して興味が失せた様子で、視線を反らした。

「すーちゃぁん、どこぉ??」

 呼びながら、すーちゃんは空良から離れて行く。
 空良は呆然としながら、滑り台へと近付いていくすーちゃんを見つめた。

「な、なんで……?」

 てっきり、自分は殺されてしまうと思っていた空良は、体の力が抜けていくのを感じる。
 その場に膝をつきそうになって、ふらつきながらも何とか耐えた。
 なんにせよ、これはチャンスだと、空良は思う。

 すーちゃんは、近くにいるハズの鈴を探すことで頭がいっぱいなのだろう。
 ならば、自分は自由に動くことができる。

 空良はすーちゃんがこちらを見ていない事を確認しつつ、鈴が隠れている木の方へと向かう。
 何とかすーちゃんに気付かれることなく空良は木の影に滑り込んだ。
 待っていた鈴が、すぐに空良に抱きつく。

「鈴ちゃん」

 少し驚きながら、小さな声で空良が呼びかけると、鈴は空良を見上げた。

「もう、寂しいのはいや」

 鈴は震える声で言う。
 きっと、さっきドアの前ですーちゃんに覗き込まれた様子を見ていたのだろうと、空良は思った。

 空良は鈴を抱き上げる。

「ごめんね鈴ちゃん、もう一人にしないから」

 空良は言って、鈴の背中を優しく撫でた。
 鈴は数回浅く頷き、空良にしがみつく。

「鈴ちゃん、そのまま俺に掴まっていて」

 空良がそう伝えると、鈴は「うん」と小さな声で言って、空良に掴まる手に力を込めた。
 その感覚を確かめた空良は、木の影からすーちゃんの様子を覗く。

 すーちゃんは滑り台の近くに立ち止まり、イライラしている様子で、地面を引っ掻いている。

(何とか、もう一度すーちゃんの意識を反らさせないと……同じ手は使えるか?)

 そう思いながら、空良は一応石を拾う。
 小さな音では上手く誘導できない事は分かっている。
 どこかに石を強くぶつけて、音を立てるしかない。

 空良はとにかく、できるだけドアに近付くことにする。
 上手く行けば、すーちゃんに気付かれる事無くドアまでたどり着けるだろう。
 鈴を抱きながら、空良は木の影から影へと進んでいく。

「すーちゃーん!」

 すーちゃんが声を上げ、地面に八つ当たりをしている。
 このまますーちゃんが空良達の方に振り向かずにいれくれたら、と、思っていたが、空良の足下から『パキッ』と弾けるような音がした。

 足の下には折れた木の枝がある。
 すーちゃんを気にするあまり、自分の足下など確認していなかった。

 空良の顔色が変わる。

「すーちゃん?? すーちゃんいるのぉ?」

 すーちゃんはそう言いながら、音の発生源を探して周囲を見回した。
 空良は必死に姿勢を低くして、鈴を隠すようにすーちゃんに背を向ける。

(見つかるな、見つかるな、頼む!)

 空良は心の中で叫び、目をぎゅっと閉じた。
 鈴の事が見つからなければ、またすーちゃんは興味を無くすだろう。

 空良は目を開き、一か八か、鈴を一旦地面に下ろすと、木の影に隠す。

「お兄ちゃん」

「しー、大丈夫だから」

 空良が人差し指を口に当てながら鈴に言うと、鈴は頷く。
 そして空良は立ち上がり、すーちゃんの方を見る。

「ごめんごめん、びっくりさせたかな?」

 大きめな声で空良が言うと、すーちゃんは空良の方を見て首を傾げた。
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