ラビリンス~悪意の迷宮~

緑ノ革

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すーちゃん

すーちゃん5

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 空良は鈴を見つめ、化け物になりきっていない存在ならば、どうにかして守りたいと思った。
 これ以上、鈴が苦しまなくていいように、何とかできないかと考える。

 しかし、空良のそんな思考も、すーちゃんの「すーちゃん! ドコォ!?」というヒステリックな声に妨害された。
 空良が木の影からすーちゃんを覗くと、すーちゃんはその場から動かず、両手で地面を叩いている。
 空良達を見失ったことに、ひどく怒っているようだった。

(今はすーちゃんを何とかしなきゃ)

 空良はそう考え、この公園から出る道を探る。
 開かなくなったドアの他に、道は無いかと辺りを見回すが、それらしき物は見当たらない。

 空良は苦々しい表情で、歯をぎりっと鳴らした。

「すーちゃんたち、死んじゃうの?」

 震える声で、鈴が空良に問いかける。
 空良はできるだけ柔らかい表情を作り、鈴の方を見た。

「大丈夫、なんとかするから」

 安心させようと言ったが、実際のところ、どうしたら良いのか分からず空良は悩む。
 どうしたら、鈴と空良が生き残れるのか。

 その時だった。

 すーちゃんが動き出す。

 空良達を探すように、頭を高く持ち上げて周囲を見回し、三つの目をキョロキョロと動かした。
 口を微かに開き、匂いを探すように鼻をひくひくと動かす。

「すーちゃんどこー」

 すーちゃんはそう言いながら、開かなくなったドアに近付く。
 そして、すーちゃんはその場で腕を振り回し、耳障りな高い声を上げる。

 すると、すーちゃんが振り回した腕がドアにぶつかり、ドアに大きな穴を開けた。
 すーちゃんは穴に気付き、その穴を覗き込む。

(あれ……もしかして、元の通路に繋がってるかも?)

 実際に道が続いているかどうか、ドアの角度的に確かめようも無かったが、道は他には無い。
 あの身勝手で最低な神様も、さすがに生き延びる術を与えないような事はしないだろう。

(出口があそこだけなら……)

 そう思った空良は、鈴の方に向いて、鈴の肩に手を置く。

「いいかい? 鈴ちゃん、俺が戻るまで、ここに隠れているんだよ」

 優しく空良が言うと、鈴は不安そうに空良を見上げる。
 そして、空良の服をきゅっと握った。

「大丈夫だよ」

 安心させようと空良が言うと、鈴は涙を目にいっぱいためて、頷く。
 そして空良の服から手を離した。

 空良は笑顔を見せてから、すーちゃんの方を見て、眉間にシワを寄せる。

 もしもドアの先に道が続いていなかったら、自分もすーちゃんに殺されてしまうだろう。
 恐怖心もあるが、何もしないよりはマシだと、空良は自分に言い聞かせた。

 そして空良は、ドアの穴に集中しているすーちゃんの動きを注意深く見ながら、木の影から出る。
 足音を立てないように気を付けつつ、空良は滑り台の方へと向かった。

 すーちゃんの視覚から隠れるように、滑り台の影に入った空良は、地面から石を拾い上げる。
 そして石をシーソーの方へと投げた。

 石が小さな音を立てて地面に落ちる。

 これで注意が引けたら……と思ったが、すーちゃんは全く気付く気配がない。
 空良はもう一度、次は先ほどの石より少し大きい石を投げる。

 すると石は、曲線を描きながらシーソーにぶつかった。

 カーン、と、鉄と石がぶつかった音がした途端、すーちゃんは顔を上げてシーソーの方へと振り向く。

「すーちゃぁん」

 鈴のことを呼びながら、すーちゃんはシーソーの方に移動し始めた。
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