ラビリンス~悪意の迷宮~

緑ノ革

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すーちゃん

すーちゃん3

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 何もできず、空良は窓に手をついたまま膝をつく。
 また、一人が死んだのだと、絶望感に支配される。

「すーちゃんね、すーちゃん探すの」

 無邪気な声ですーちゃんが言う。
 きゃははと笑い、すーちゃんは頭を小刻みに揺らし、その場から去っていく。
 空良はその場に膝をつきながら、ゆっくりと手を下ろした。

「……ちくしょう」

 呟き、一度だけ壁に拳を叩きつける。
 固い壁に当たった手から、わずかな痛みを感じて、空良は自分の手を見た。

 壁を殴ったその手は、少しだけ赤くなっていて、震えている。
 空良は立ち上がり、もう一度外を覗いた。

 深い霧に包まれた景色は何も変わらない。
 その景色はどこか美しくて。
 空良は苛立った。

「すーちゃん……君は一体どうしたいんだ?」

 ぼそりと呟くと、空良は窓に背を向ける。
 そして来た道を戻り始めた。



 ボールと絵が置いてある場所まで戻った空良の目に、不気味な景色が映る。
 壁には何枚もすーちゃんが描いたらしき絵が貼り付けられていて、床は赤いクレヨンでぐしゃぐしゃに塗られていた。

 その光景はなんとも不気味なもので、一瞬、空良は進むのを躊躇う。
 しかし、すぐに空良は喉を鳴らしてから前に進む。

 壁の絵にはどれも三つ目の女の子が描かれていて、中には三つ目の女の子が首を吊っている絵や、首だけになった絵もある。
 三つ目の女の子が死んでいる絵が多いと感じ、空良は眉間にシワを寄せた。

(これって、すーちゃんが死んだ時の絵なのか?)

 立ち止まり、絵を一枚だけ手に取る。

 それは犬に三つ目の女の子が食べられている絵だった。
 犬は紫色で、真っ赤な目をしていて、女の子の体を食べているように見える。

(これがもしも、すーちゃんが死んだ時の絵なら……)

 そう思った空良は、自分が歩いて来た道に振り返り、壁に貼り付けられた絵たちを眺めた。
 遠くからでも分かる、残酷な絵は、数えられただけでも十枚はある。
 それは、すなわち、すーちゃんがそれだけの回数殺された事を意味していた。

「……そりゃあ、化け物にもなるよな……」

 何度も死んで、いつかは化け物になると、桜から聞いてはいたが、こんなにも何度も、しかも子どもが殺されるなど、残酷すぎると空良は思う。

「すーちゃん……すーちゃんを探すって言ってたな」

 空良は自分の手の中にある絵を見つめ、そして目を閉じ、前に見た絵に書かれていた、拙い『たすけて』の文字を思い出す。

 空良は、一度深く息をして、目を開けた。

「すーちゃんを探そう」

 新たな目標を自分に言い聞かせるように空良は言うと、絵を壁際に置いて歩き出した。



 特に何も起きないまま、空良は三つに別れた道まで戻って来た。
 次にどちらの道に進もうかと、空良は少し悩み、明らかに進む事を促している矢印は避け、四角が描かれた左の道に行くことにする。

 左の道に入ってすぐに、黄色のドアがあった。

 空良は警戒しながらドアノブに手をかけて、そっと捻る。

 かちゃん。

 軽い音がしてドアは開いた。

 その先に広がった光景に、空良は驚き、目を見開く。

 そこには、公園があった。
 ブランコにゾウの滑り台、そしてシーソーがある。
 周りには木々があり、更に濃い霧が公園をぐるりと囲んでいて、公園の外の世界は隠されていた。

「こ、ここは?」

 空良が戸惑っていると滑り台の影から何かが這い出て来る。
 その影は頭をもたげて、空良の方を見た。

「……すーちゃん」

 這い出て来た影、すーちゃんの出現に、空良の額に汗が浮かぶ。

 この公園には、すーちゃんと空良を隔てる物は何も無い。
 ということは、すーちゃんは空良に危害を加えようと思えば出来るという事だ。

 恐怖がこみ上げ、空良は歯を食いしばった。
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