ラビリンス~悪意の迷宮~

緑ノ革

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また会いましょう

また会いましょう5

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 子供の言葉を聞き、空良の体に力が入る。
 口が乾き、視線が泳ぐ。

(俺が最後? 俺がもしも死んだら……)

 考えた瞬間、空良の手が震えだした。

「頑張ってね、空良、人類の未来は君の頑張りしだいだよ」

 子供は優しい微笑みを浮かべながら空良を見つめる。
 その言葉は重たく空良の体にのしかかった。
 凍てついた表情で立ち尽くす空良を見て、子供は空良に近付く。
 そして空良の頭に小さな手をぽんと置いた。

「そんなに緊張しないで、大丈夫、君ならできるよ」

 小さな子供に言い聞かせるように、子供は言う。
 その言葉がどれだけ重く、そして無責任なものなのか。
 空良は聞きながら歯を喰い縛った。

「な……んで」

 空良は言葉を絞り出す。
 うまく言葉が繋がらず、言葉が途切れたが、子供は理解しているように頷き、空良の頬に手を当てた。

「なんでワタシが空良を選んだのか……だよね?」

 穏やかな声で、子供が言う。
 空良は無言で子供の目を真っ直ぐに見つめた。

「空良はまだ未熟だ、でも、そんな君だからワタシは可能性を感じたんだよ」

 そう言われ、空良は凍てついた表情のままごくりと喉を鳴らした。
 子供は空良から離れ、そしてにっこりと笑う。

「じゃあ空良、ワタシは帰るよ、また会えるといいね」

 手をひらひらと動かして、子供は光りに包まれて消えた。
 空良はしゃがみこみ、顔を両手で覆う。

「……重たすぎる……」

 子供の言葉を信じるのなら、自分が失敗することは許されない。
 ただ、生き残って、両親にお礼を言いたいだけだった空良にとって、あまりにも辛い現実だった。

 一分ほどしゃがんでいた空良だったが、立ち上がり、顔を上げる。

(……俺が……やらないと……神様だとか、悪魔王だとか……関係ない! この馬鹿げたゲームを終わらせてやる!)

 険しい表情をしながら、空良は歩きだし、部屋を出た。



 扉を抜け、廊下に出ると、空良はまだ行ったことの無い方へと歩いていく。
 少し行くと、道が三つに分かれていた。

 その三つの道を暫し眺めてみる。
 何か正しい道のヒントが無いかと探してみたが、特に壁や床には何も無い。

(どうするか……)

 顎に手をあて、考えながら、ふと空良は視線を上に向ける。
 当然、天井があるのだが、天井に何やら描かれている事に気付いた。

「なんだあれ?」

 呟きながら、空良は描かれている絵をまじまじと見つめる。
 右側に丸、左側に四角、そして真ん中には進むことを後押しするように矢印が描かれていた。

 何かの意味があるのだろうと思った空良は、とりあえず丸の描かれた右側の道へと進んでみようかと前を見る。
 そしてゆっくりと歩きだした。
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