ラビリンス~悪意の迷宮~

緑ノ革

文字の大きさ
上 下
31 / 40
また会いましょう

また会いましょう4

しおりを挟む
 子供の言葉に、空良の表情が凍りつく。

(神様? 神様って……この、子供が?)

 目の前にいる、自身を神だと名乗った存在に視線を固定させ、空良の体に力が入る。

「驚いた? いやぁ、驚いてくれたならとっても嬉しいよ!」

 子供は空良から離れ、空中を漂う。
 けらけら笑い、ぱたぱたと足を動かした。

「かみ、さまって……」

 空良の口から、信じられないという思考と共に、言葉が漏れだす。
 子供は微笑んで、空中で胡座あぐらをかいた。
 そして、両手を少しだけ横に開く。

「君が悪趣味だと思っている、神様さ」

 そう言った子供に、空良は戸惑ってしまう。
 こんな子供が、こんな悪趣味なゲームをやりながら、こちらを見て楽しんでいるのかと思うと、不快な気持ちになった。

「神様がこんな子供なんて」

 吐き捨てるように空良が言うと、子供は空良の目を真っ直ぐに見ながら、口を開く。

「子供の方が威圧感が無くていいだろう? なにより、子供は純白の存在だからね、純粋なワタシにぴったりだ」

 そう言われた瞬間、空良の頭がかっと熱くなる。
 怒りがこみ上げ、空良は思わず子供を睨み付けた。

「おっと、そんなに怖い顔をしないでよ、空良」

 茶化すように子供が言う。
 空良は視線を子供から反らし、下を向いた。

「純粋? 自分にぴったり?」

 言いながら空良は、ゆっくり立ち上がり、まるで何でも受け入れようとしているかのようなポーズをとっている子供に一歩近付く。
 そして、顔を上げると、今にも殴りかかりそうな怒りに燃える目を子供に向けた。

「ふざけるな……こんな悪趣味で馬鹿げたゲームをする奴が、純粋なわけが無いだろ!!」

 後先など考えず、空良は怒鳴る。
 子供は、怒りを露にする空良を見て、面白い物でも見ているかのように、笑顔になった。

「ワタシは純粋だ、だからこそ、このゲームを楽しんで見れる」

 そう言った子供を睨み、空良は歯をぎりっと鳴らす。

「こんな血生臭いゲームを楽しむのが純粋? どうかしてる!」

 声を荒らげる空良に、子供は穏やかな笑みを見せる。
 その笑みはとても優しく、空良はゾッとした。

「そうだね、空良はここまで来たのだから、教えてあげようか」

 子供が言った言葉に、空良の眉がぴくりと動く。

「教える? 何を?」

 怒りを抑えながら、空良が聞くと、子供は腕を組む。
 そして優しい眼差しを空良に向けて喋りだした。

「このゲームは悪魔王あくまおうとワタシでやっているゲームで、悪魔王が作ったこの迷宮を、誰かがクリアしたらワタシの勝ち、誰もクリアできなかったら悪魔王の勝ちなんだ」

 そう言われ、空良は眉間に寄せたシワを深くする。

「悪魔王?」

 初めて聞いた言葉に空良が問い掛けると、子供は頷く。

「悪魔王はそのまんま悪魔の王様……悪魔にとっての神様だよ」

 そう返され、空良は戸惑う。

(神様の次は悪魔? 信じられない、これは現実なのか?)

 心の中では多少混乱していたが、それは表に出さずに、空良は子供を見つめた。
 子供は空良の視線など気にもせず、更に言葉を続ける。

「実は、この迷宮に招待できる人間の数は五十人なんだ、もしも五十人全てが死んだら、ワタシは悪魔王に喰われて、人間が住む世界は悪魔に蹂躙される」

 それを聞いた空良は、驚きに目を大きく見開いた。

「どういうことだ?」

 理解が追い付かず、更に混乱した空良は冷静になろうと必死になりながら問い掛ける。
 子供は胡座をかいていた足を伸ばして、椅子に座るような体勢になった。

「このゲームはね、我ら神々と悪魔達の戦争の代わりの物なんだよ、悪魔は人間界にんげんかいを手に入れたい、我ら神々は人間界を守りたい、戦争なんてしたら人間界も神界しんかい魔界まかいも、めちゃくちゃになるからね、ゲームで決めようって話しになったのさ」

 子供の言葉に、空良は唖然とする。
 人間界を守るために、このゲームをやっていると、子供はそう言っているのだが、納得できるハズが無い。

「実はワタシも結構追い詰められていてね、空良、君こそが最後の駒なんだよ」

「え?」

 子供の言葉に、空良は声を漏らす。
 人間界を守りたいなどと言っているのに、人間を"駒"と言った事も引っ掛かったが、それ以上に自分が最後というのが気になった。

「それって、もしかして……」

 空良の声が震える。

「そう、空良が死んだら、人間界は悪魔の物になっちゃうんだ、沢山の人が殺されるだろうね、生き残った人類は家畜にされる……かもしれない」

 子供はまるで絵本でも読み聞かせるかのように、穏やかな声色でそう答えた。
しおりを挟む

処理中です...