ラビリンス~悪意の迷宮~

緑ノ革

文字の大きさ
上 下
30 / 46
また会いましょう

また会いましょう3

しおりを挟む
 空良の声は届いていたらしく、桜は「良かったわね」と言って、ゆったりとした動きで拍手をする。

「桜さんも無事で良かった」

 ほっと息をつき、空良が言うと、桜は拍手する手を止めて、頷いた。

「有難う、希望があるから頑張れているわ」

 ノイズ混じりのその言葉に、空良の顔がほんのりと赤くなる。

(希望……って、俺のこと……だよな?)

 そう考えると、何だかむず痒いものを感じて、意味もなく体をもじもじと動かす。
 そんな空良の様子に気付いたのか、桜は口があるであろう所に手を当てて、くすりと笑った。
 そのあとすぐに、手を下ろすと、画面越しに空良の方に顔を向ける。

「必ず生きて帰って……」

 その言葉は静かだったが、強い感情が込もっているものだった。
 それに気付いた空良は、桜の言葉に照れていた自分を腹の底におさえ込み、テレビの中に映る桜の事を見る。

「はい、必ず生きて帰ります」

 真面目な眼差しを桜に向けたまま、空良が言うと、桜は無言で頷いた。

「じゃあ、また会いましょう、空良」

 桜が言い終えたのと同時に、ノイズがひどくなり、画面が砂嵐になってしまう。
 そしてブツンと音を立てて、画面は完全に消えてしまった。

 消えたテレビの前で、空良は座る。
 桜は死んでいると分かっていても、心のどこかで一緒に逃げ出す事ができるのではないかと、わずかな希望を抱いてしまう。

「桜さんと……脱出……できないのかな?」

 化け物にならず、桜の自我があるのならば……。

 そんな事を考えていると、ぽたりと、床についた手の上に何かが落ちて来た。
 一体何かと思い、手を見ると、赤い液体が空良の手の甲についている。
 瞬間的に『血だ』と思った空良は、慌てて立ち上がると、手を振り、すぐに服の裾で拭く。

 そして、恐る恐る上を見ると、天井にはヒビが入っているのが確認できた。
 そのヒビからぽたり、ぽたりと赤い液体が落ちて来ている。

(確か、最初の部屋でも赤い液体があったな……あの時は台座から出たんだよな……)

 そう考えながら床に落ちていく赤い液体を見ていると、徐々に水溜まりのようになっていく。
 さらに、床に落ちた液体は、小魚の群れが動き回るような、不自然な動きをしだした。

 さすがに不気味に感じた空良は、数歩、後ろに下がる。

 そして、五秒ほどで、液体は動きを止めた。
 結果的に出来上がった形は、丸の中にもうひとつ丸があり、中心には三角が描かれたものだった。

「なんだこれ? 魔方陣……ってやつだろうか?」

 海外のホラー映画で見たような不気味な赤色の魔方陣を見て、空良は不安を感じる。
 しかし、気になるのも確かで、空良は勇気を出して一歩、魔方陣に近付いてみた。
 すると魔方陣は突然光りだし、眩しさに空良は顔を両腕で隠しながら顔を反らす。

 目を閉じていても眩しいと感じるほどに、光は強かった。

 すぐに光はおさまり、空良はそっと目を開ける。
 両腕の位置をずらし、隙間から魔方陣の方を確認すると、魔方陣の上に浮かんでいる子供の姿があった。

 和服のような雰囲気のある服を纏い、髪は長い赤色をしている。
 長い髪は、まるで水の中を漂っているかのように、ゆらゆらと揺れていた。

 人が浮いている事実に驚き、空良は目を丸くする。

「子供? 浮いてる……」

 空良が目を白黒させていると、子供は空中で座るような姿勢になり、驚く空良を紫色の瞳で見た。
 年齢はまだ小学生の低学年くらいだろう。
 少年にも、少女にも見える。

 子供は、ぱぁっと笑顔を輝かせると、突然空良の方に飛び込み、勢いよく空良に抱きつく。

「うわぁ?!」

 勢いよく抱きつかれた空良は、バランスを崩してしりもちをついた。
 子供は足をぱたぱたと動かしながら、空良の目の前に顔を出す。

「よくここまで来たね、空良! あともうひと踏ん張りだよ!」

 幼い声で、子供が言う。
 どうしたらいいのかが分からず、空良はただ子供の事を見つめた。
 相手は幼い子供だというのに、言い知れない圧を感じて、空良は言葉に詰まる。

 緊張からか、口が乾くような感覚がした。

「き、君は、一体……?」

 空良がやっとの思いで吐き出した言葉はそれだった。
 子供は、歳に似合わない妖艶な笑みを浮かべて、空良の顔に両手をそえる。

「ワタシはね、神様だよ」

 子供は、そう言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

ちょっと奇妙な小部屋 ホラー短編集

景綱
ホラー
ちょっとだけ怖いかなというホラー短編集です。 妖怪あり、心霊あり、人の怖さあり。私の綴る創作物語をお楽しみください。 1話完結です。 1号室「氷の心臓」  2号室「永遠とつづく課題」  3号室「新手のやり方」 4号室「猫の鈴」  5号室「思考停止まで秒読み開始」  6号室「月影の扉」 7号室「無色透明の虚無」  8号室「囚われた魂」  9号室「不可思議なる日常」 10号室「手紙」 11号室「夜雀が死を招く」 12号室「猫の川」  13号室「ぼくは誰なの」  14号室「君は僕で、僕は君」 15号室「心ここにあらず」 16号室「転落人生」  17号室「ブックウィルス」 18号室「運命の歯車」 19号室「家に憑く者」 20号室「午前二時に光る瞳」 21号室「雨宿り」 22号室「神様だって地下鉄に乗る」 23号室「根小成学園」 24号室「思い出の地に現れた闇人」 25号室「極楽おんぼろ屋敷」

生きている壺

川喜多アンヌ
ホラー
買い取り専門店に勤める大輔に、ある老婦人が壺を置いて行った。どう見てもただの壺。誰も欲しがらない。どうせ売れないからと倉庫に追いやられていたその壺。台風の日、その倉庫で店長が死んだ……。倉庫で大輔が見たものは。

たとえ“愛“だと呼ばれなくとも

朽葉
ホラー
 日々繰り返す刺激のない生活に辟易としていた愛斗は部活からの帰宅中──人気のない路地で『誘拐』されてしまう。  愛斗のことを愛していると名乗る、見覚えのないストーカー兼誘拐犯の彼。  しかし、彼の歩んできた過去や誘拐した訳を知り、愛斗の気持ちに形容しがたい『愛』が芽生えはじめる──。  一方で、世間では行方不明の愛斗の捜索が行われていた。  東京都で愛斗の行方を捜索する二人の刑事に、誘拐犯に恋する女性教員。  更には、行方不明になった女性教員の親友に、山口県警の刑事三人や誘拐犯の隣人、そして、かつて愛斗の心に傷を負わせた先輩とその恋人。  彼らもまた、歪んだ愛情を抱き、世間に苛まれながらも、心憂い過去を経てきていた。  さまざまな視点を交え、事件の真実と個々に隠された過去、更には彼らの『繋がり』が解き明かされていく──。  この事件、そして、各登場人物の恋路の行き着く運命とは──?  大量の伏線を張り詰めた、ミステリー風、サスペンス&青春ホラー。 ※本作はBLを主に3L要素が含まれます。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ホラー短編集

Chaako
ホラー
実体験や人から聞いた話を書いています。 かなり時間がかかりましたが、「暗部」で第一章は終わりです。 第二章は気が向いたらまた書き始めます。

風見星治
ホラー
心が、喉が、渇く

処理中です...