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また会いましょう
また会いましょう3
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空良の声は届いていたらしく、桜は「良かったわね」と言って、ゆったりとした動きで拍手をする。
「桜さんも無事で良かった」
ほっと息をつき、空良が言うと、桜は拍手する手を止めて、頷いた。
「有難う、希望があるから頑張れているわ」
ノイズ混じりのその言葉に、空良の顔がほんのりと赤くなる。
(希望……って、俺のこと……だよな?)
そう考えると、何だかむず痒いものを感じて、意味もなく体をもじもじと動かす。
そんな空良の様子に気付いたのか、桜は口があるであろう所に手を当てて、くすりと笑った。
そのあとすぐに、手を下ろすと、画面越しに空良の方に顔を向ける。
「必ず生きて帰って……」
その言葉は静かだったが、強い感情が込もっているものだった。
それに気付いた空良は、桜の言葉に照れていた自分を腹の底におさえ込み、テレビの中に映る桜の事を見る。
「はい、必ず生きて帰ります」
真面目な眼差しを桜に向けたまま、空良が言うと、桜は無言で頷いた。
「じゃあ、また会いましょう、空良」
桜が言い終えたのと同時に、ノイズがひどくなり、画面が砂嵐になってしまう。
そしてブツンと音を立てて、画面は完全に消えてしまった。
消えたテレビの前で、空良は座る。
桜は死んでいると分かっていても、心のどこかで一緒に逃げ出す事ができるのではないかと、わずかな希望を抱いてしまう。
「桜さんと……脱出……できないのかな?」
化け物にならず、桜の自我があるのならば……。
そんな事を考えていると、ぽたりと、床についた手の上に何かが落ちて来た。
一体何かと思い、手を見ると、赤い液体が空良の手の甲についている。
瞬間的に『血だ』と思った空良は、慌てて立ち上がると、手を振り、すぐに服の裾で拭く。
そして、恐る恐る上を見ると、天井にはヒビが入っているのが確認できた。
そのヒビからぽたり、ぽたりと赤い液体が落ちて来ている。
(確か、最初の部屋でも赤い液体があったな……あの時は台座から出たんだよな……)
そう考えながら床に落ちていく赤い液体を見ていると、徐々に水溜まりのようになっていく。
さらに、床に落ちた液体は、小魚の群れが動き回るような、不自然な動きをしだした。
さすがに不気味に感じた空良は、数歩、後ろに下がる。
そして、五秒ほどで、液体は動きを止めた。
結果的に出来上がった形は、丸の中にもうひとつ丸があり、中心には三角が描かれたものだった。
「なんだこれ? 魔方陣……ってやつだろうか?」
海外のホラー映画で見たような不気味な赤色の魔方陣を見て、空良は不安を感じる。
しかし、気になるのも確かで、空良は勇気を出して一歩、魔方陣に近付いてみた。
すると魔方陣は突然光りだし、眩しさに空良は顔を両腕で隠しながら顔を反らす。
目を閉じていても眩しいと感じるほどに、光は強かった。
すぐに光はおさまり、空良はそっと目を開ける。
両腕の位置をずらし、隙間から魔方陣の方を確認すると、魔方陣の上に浮かんでいる子供の姿があった。
和服のような雰囲気のある服を纏い、髪は長い赤色をしている。
長い髪は、まるで水の中を漂っているかのように、ゆらゆらと揺れていた。
人が浮いている事実に驚き、空良は目を丸くする。
「子供? 浮いてる……」
空良が目を白黒させていると、子供は空中で座るような姿勢になり、驚く空良を紫色の瞳で見た。
年齢はまだ小学生の低学年くらいだろう。
少年にも、少女にも見える。
子供は、ぱぁっと笑顔を輝かせると、突然空良の方に飛び込み、勢いよく空良に抱きつく。
「うわぁ?!」
勢いよく抱きつかれた空良は、バランスを崩してしりもちをついた。
子供は足をぱたぱたと動かしながら、空良の目の前に顔を出す。
「よくここまで来たね、空良! あともうひと踏ん張りだよ!」
幼い声で、子供が言う。
どうしたらいいのかが分からず、空良はただ子供の事を見つめた。
相手は幼い子供だというのに、言い知れない圧を感じて、空良は言葉に詰まる。
緊張からか、口が乾くような感覚がした。
「き、君は、一体……?」
空良がやっとの思いで吐き出した言葉はそれだった。
子供は、歳に似合わない妖艶な笑みを浮かべて、空良の顔に両手をそえる。
「ワタシはね、神様だよ」
子供は、そう言った。
「桜さんも無事で良かった」
ほっと息をつき、空良が言うと、桜は拍手する手を止めて、頷いた。
「有難う、希望があるから頑張れているわ」
ノイズ混じりのその言葉に、空良の顔がほんのりと赤くなる。
(希望……って、俺のこと……だよな?)
そう考えると、何だかむず痒いものを感じて、意味もなく体をもじもじと動かす。
そんな空良の様子に気付いたのか、桜は口があるであろう所に手を当てて、くすりと笑った。
そのあとすぐに、手を下ろすと、画面越しに空良の方に顔を向ける。
「必ず生きて帰って……」
その言葉は静かだったが、強い感情が込もっているものだった。
それに気付いた空良は、桜の言葉に照れていた自分を腹の底におさえ込み、テレビの中に映る桜の事を見る。
「はい、必ず生きて帰ります」
真面目な眼差しを桜に向けたまま、空良が言うと、桜は無言で頷いた。
「じゃあ、また会いましょう、空良」
桜が言い終えたのと同時に、ノイズがひどくなり、画面が砂嵐になってしまう。
そしてブツンと音を立てて、画面は完全に消えてしまった。
消えたテレビの前で、空良は座る。
桜は死んでいると分かっていても、心のどこかで一緒に逃げ出す事ができるのではないかと、わずかな希望を抱いてしまう。
「桜さんと……脱出……できないのかな?」
化け物にならず、桜の自我があるのならば……。
そんな事を考えていると、ぽたりと、床についた手の上に何かが落ちて来た。
一体何かと思い、手を見ると、赤い液体が空良の手の甲についている。
瞬間的に『血だ』と思った空良は、慌てて立ち上がると、手を振り、すぐに服の裾で拭く。
そして、恐る恐る上を見ると、天井にはヒビが入っているのが確認できた。
そのヒビからぽたり、ぽたりと赤い液体が落ちて来ている。
(確か、最初の部屋でも赤い液体があったな……あの時は台座から出たんだよな……)
そう考えながら床に落ちていく赤い液体を見ていると、徐々に水溜まりのようになっていく。
さらに、床に落ちた液体は、小魚の群れが動き回るような、不自然な動きをしだした。
さすがに不気味に感じた空良は、数歩、後ろに下がる。
そして、五秒ほどで、液体は動きを止めた。
結果的に出来上がった形は、丸の中にもうひとつ丸があり、中心には三角が描かれたものだった。
「なんだこれ? 魔方陣……ってやつだろうか?」
海外のホラー映画で見たような不気味な赤色の魔方陣を見て、空良は不安を感じる。
しかし、気になるのも確かで、空良は勇気を出して一歩、魔方陣に近付いてみた。
すると魔方陣は突然光りだし、眩しさに空良は顔を両腕で隠しながら顔を反らす。
目を閉じていても眩しいと感じるほどに、光は強かった。
すぐに光はおさまり、空良はそっと目を開ける。
両腕の位置をずらし、隙間から魔方陣の方を確認すると、魔方陣の上に浮かんでいる子供の姿があった。
和服のような雰囲気のある服を纏い、髪は長い赤色をしている。
長い髪は、まるで水の中を漂っているかのように、ゆらゆらと揺れていた。
人が浮いている事実に驚き、空良は目を丸くする。
「子供? 浮いてる……」
空良が目を白黒させていると、子供は空中で座るような姿勢になり、驚く空良を紫色の瞳で見た。
年齢はまだ小学生の低学年くらいだろう。
少年にも、少女にも見える。
子供は、ぱぁっと笑顔を輝かせると、突然空良の方に飛び込み、勢いよく空良に抱きつく。
「うわぁ?!」
勢いよく抱きつかれた空良は、バランスを崩してしりもちをついた。
子供は足をぱたぱたと動かしながら、空良の目の前に顔を出す。
「よくここまで来たね、空良! あともうひと踏ん張りだよ!」
幼い声で、子供が言う。
どうしたらいいのかが分からず、空良はただ子供の事を見つめた。
相手は幼い子供だというのに、言い知れない圧を感じて、空良は言葉に詰まる。
緊張からか、口が乾くような感覚がした。
「き、君は、一体……?」
空良がやっとの思いで吐き出した言葉はそれだった。
子供は、歳に似合わない妖艶な笑みを浮かべて、空良の顔に両手をそえる。
「ワタシはね、神様だよ」
子供は、そう言った。
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