ラビリンス~悪意の迷宮~

緑ノ革

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目覚め

目覚め3

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 突然の事に、空良は後ろに下がっていく。
 壁に背中がついたところで、空良は動きを止めた。

 赤い液体は溢れ続け、徐々に白い床を侵食していっている。
 その広がった液体の上を何かが動いているのが感じとれ、空良はごくりと喉を鳴らした。

「だ……誰か、いるのか?」

 震える声で、姿の無い何者かを目で探し、空良は壁にぐっと体を押し付ける。
 これ以上逃げ場など無いというのに、体は動かない壁に力を掛けた。
 壁に張り付く空良の視線の先で、何者かがパシャリパシャリと液体を跳ねさせている。

 だんだんと広がる液体の速度が下がってきたことに空良は気付く。
 台座から溢れ落ちていた液体が少なくなり、今はもうポツリと落ちる程度になっていた。

 同時にそれまで液体の上を移動していたのであろう姿の無い存在は、広がりを止めた液体の際に移動する。
 そして、液体が侵食していない白い床に、ペタンと小さな赤い足跡がついた。

 空良の方には寄ってくること無く足跡は空良とは正反対の壁に向かって歩いていく。
 空良が震えながら見ていると、足跡は壁の前で途切れる。

 空良が戸惑っていると、足跡が途切れた場所の壁が、ずず、と音を立てて動いた。
 そして、人間一人がやっと通れるであろう幅の出口が現れる。

「あれは……出口?」

 空良は足跡に近付くのは避けたかったが、この部屋から出られるのならば……と、張り付いていた壁から背中を離した。

 シトリーが言っていた、生きてこの迷宮から出るという言葉を思いだし、出口へと向かっていた空良の足が止まる。
 この部屋から出たならば、一体何が待っているのか。
 死ぬかも知れないのなら、ずっと部屋に隠れていた方が良いのではないかと。

「……でも、死ぬことってそんなに恐ろしいことだろうか」

 ふと、そんな言葉が自分の口から溢れ出す。

(俺なんて……死んだって誰も悲しまないだろうな……)

 そう思い、空良の表情は暗く沈んだ。

 そして、赤い液体で床を彩った部屋を見回してから、ゆっくりと空良は出口へと向かう。

 死んだのなら、それまでだと。

 そう思いながら空良は何者かの気配が完全に消えた部屋を出た。
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