ラビリンス~悪意の迷宮~

緑ノ革

文字の大きさ
上 下
1 / 40
目覚め

目覚め1

しおりを挟む
 白い部屋に、黒い穴がぽっかりと口を開いた。
 その穴の中から、人間が落ちて来る。

 その人間は男で、黒い短い髪をしていて、白いティーシャツに緑色の上着という身軽な服を纏っていた。
 目を閉じているが、その顔にはまだ幼さが残っており、年齢は十六程度だろう。

 彼を吐き出した穴は白い空間の中に溶けて消え、それから数秒もかからない内に少年は目を開けた。

「う……ん、ここは?」

 少年が体を起こそうとすると、ずきりと頭が痛む。
 その痛みに顔を歪め、少年は頭に手を当ててうめき声を漏らした。

 頭が割れそうな感覚を抱きながらも、目を開いて周囲を見回す。
 白い壁に白い柱……天井はパッと見には白に見えるが、淡く緑色がかかっている。

 この場所自体はそんなに広く無い部屋のようだが、少年が普段過ごしている自分の部屋よりは広いと感じた。

 何かの台座のような物が部屋の真ん中にぽつんと置かれ、白い格子が守る窓がある。
 少年は頭痛を感じながらも、ここが何処なのかを知りたくて立ち上がった。

 集中力の欠けた頭で部屋の出口を探すが、出口らしき物は見当たらない。
 そこで格子で塞がれた窓に近付くと、空に浮かぶ月が見えた。
 まるまるとしていて、白く輝く月は、まるで黒い画用紙に白の絵の具を落としたように浮かんでいる。

 少年は格子を掴み、外を覗く。

 すると右の方に白い建物らしき物がある事に気付いた。
『建物らしき物』と感じたのは、その建物は形が歪で、今にも崩れてしまいそうな形に見えたからだ。

 そして、その歪な建物にも、窓らしき物があるのが確認できる。
 同時に、少年は歪な建物の様子から、自分がいる場所が高い階層なのだと気付いた。

「……なんだよ、ここ」

 眉間にシワを寄せて、呟く。

 その時だった。

「目が覚めたかい? 空良そらくん?」

 小さな子供のような声に名を呼ばれ、少年、空良は振り向く。

 声がした方にあるのは、台座だ。
 台座の上に、光を纏ってふわふわと浮かぶ存在がいた。
 それは、クリオネのような姿をしていて、透き通った体には、絵に描いたような赤いハートが浮いている。

 得体の知れない存在の出現に、空良が戸惑っていると、クリオネのようなそれは、空中で宙返りをするように、くるんと回った。

「ようこそ、空良くん、ボクはシトリー、よろしくね」

 クリオネのような存在は『シトリー』と名乗り、空良は口を半開きにしてシトリーを見つめた。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

声と戦うサトシくん

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

女騎士が王子を守って悪いですか?!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:10

復縁なんか致しませんよ?婚約破棄をしたではないですか。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

狩女のクローズ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

明日、彼女は僕を振る

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

アンドロイドクオリア ~機械人形は小さな幸せを祈る~

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:2

処理中です...