赤ずきんは童話の世界で今日も征く

柿の種

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第一章

Episode 39

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事実は小説より奇なり。
英国の詩人であるバイロンの作品内の言葉だ。
実際の世の中で起こったことは、虚構である小説の世界の出来事よりも不思議である。
そう言った意味のある言葉だ。

だが、私はそう思っていない。
世の中の出来事は必然で、不思議であることはない。
そう考えている。

だからこそ、目の前の結果は何処もおかしくはなく……むしろキチンと、あっさりと事が進んだことに安堵していた。
時間は少し前に遡る。


スーちゃんのスキルによって、不可視の刃が宙を舞う。
それの狙いは勿論、土煙の中の古ノ狼だった。
どこに当たってもいいわけではないものの、先程まで見えていた位置へと放っている辺り、彼女もきちんと分かってくれているのだと思い少しだけ笑う。

そのまま声を出さずにジョンの方を見れば、彼は彼でスーちゃんの方……正しくはその前方、スーちゃんと古ノ狼の間に位置する地面へと視線を向けていた。

「くるぞッ!」

スキニットが言った瞬間。
土煙からこちらへと飛び出してくる男の姿が見えた。
古ノ狼だ。

彼の狙いは勿論、分かりきっていたがスーちゃん。
一足一足が今までとは比べ物にならないほどに力強く、それでいて早い。
弾丸のような速度で迫ってくる古ノ狼を見ながら、苦笑いしつつ私は言う。

「やっぱり獣だねぇ」

言った瞬間に、彼は再度推進力を得るためか地に足を付け、蹴ろうとした。
が、その瞬間。
ガキン、という音と共にトラばさみが彼の足へと噛みつき、次いでと言わんばかりにそれを中心に地面が陥没し始める。

どうやって仕掛けたのかは知らないが、ジョンによる罠たちだ。
細かい指定はしていないものの、見る限り拘束用の物しか設置していないようで。
動きが一瞬ではあるもののとれなくなった古ノ狼へと、周りで待機していたメンバーが殺到する。
驚くべきは、一緒に大人しくサーちゃんが待機していたことだろうか。

動けない古ノ狼には避ける術も、防ぐ術も存在はしなかった。
腹部へと攻撃が集中する。
弱点である腹部へと。

私も私で、その隙を逃さないように狙いも程々にマスケット銃を構え、引き金を引いた。
その一射がトドメとなったのかはわからない。
しかしながら、私の一射が当たったと思った瞬間。
古ノ狼のHPゲージが底を尽いた。

『……オォ……俺はまた、間違ったのか……?』

膝をつき、空を見上げる彼はそういった。
その顔はどこか憑き物がとれたように、それでいて悲しそうな顔をしていた。
そんな彼に近づこうとして、頭を振ってその場へと留まったスーちゃんを横目で見ながら、スキニットへと近づいた。

「お疲れ」
「おう、お疲れ。なんとかなるもんだな」
「速さと、キチンと受けられるタンクさえいれば、だけどね」
「ぶっつけ本番でやってくれて助かった助かった」

そんな会話をしながら、私達は周囲を見渡した。
古ノ狼へと変わった瞬間に展開していたボス空間は卵の殻が割れるように、パラパラと割れていき元のルプス森林へと戻っていく。

パァ、という光と共に私への【憑依】を解いたアーちゃんが、近くにいるサーちゃんを抱き上げ、ジョン、スーちゃんと共に古ノ狼へと近づき、何やら話をしているのが見えた。
彼が消えるまでの僅かな時間ではあるものの、積もる話もあるのだろう。
そっとしておくことにした。

<【餓狼】古ノ狼を討伐しました>
<以降、ルプス森林の深層を探索可能となります>
<討伐MVPを決定します……MVP決定しました>
<MVP:プレイヤー名【赤ずきん】>
<MVP特典アイテムを付与しました>
<<全プレイヤーに対してアナウンスです。ルプス森林のボスが討伐されました。以降、ルプス森林浅層・中層のエネミーが弱体化します。ボスが討伐された際に何が起こるかはヘルプをご確認ください。では、良き童話世界を>>

一気に流れたログは許容量オーバーではあるものの。
これで全て終わった事が分かり、ほっとして座り込む。

「終わったぁー……!」

息を吐きだす。
何やら私がMVPになっていたりだとか、色々と言いたいこともあるのだが……今は少しでもドッと身体を襲ってきている疲れを癒したいと思ったのだ。

「スキニットくんはこの後どうするぅー……?」
「あー……どうせ嬢ちゃんはこの後ログアウトするんだろ?」
「そうだねぇ」
「なら俺は残ってある程度もみくちゃにされてきてやる。あんま前には出たくないんだろう?」

彼の問いかけに、苦笑いしつつ頷いた。
今更ではあるだろうが、私はあまり前へと出るタイプではないのだ。
そもそもが戦闘があまり得意ではないプレイヤー。だからこそ、戦闘……というか狙われる程有名になりそうな事は他に任せたい

「ごめんね、ありがと。後で埋め合わせはするぜ」
「おう。どうする?ここでログアウトするのか?」
「うん、そうする。一応セーフティエリアみたいな扱いみたいだしね、ここ」

ボス戦の場所となったからか何なのか。
今現在私達が休んでいる場所は、森の中であるのにも関わらず敵が寄ってこないセーフティエリアと化しているようだった。

その後、私の赤ずきん達へ声を掛け、その場をスキニットへと任せてログアウトした。
その瞬間、私は現実の状態を思い出し嬉しいはずなのにその夜は枕を濡らしたのであった。
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