赤ずきんは童話の世界で今日も征く

柿の種

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第一章

Episode 36

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狙うべき場所が出来てからは話は早かった。
兎にも角にも腹部さえ狙えば良いのだ。
アーちゃん含め、スキニット、話の伝わったスキニット側の2人が中心に古ノ狼へと攻撃を集中させる。
流石の古ノ狼も腹部へと攻撃を集中されては防御をするしかないらしく、露骨に腹部を守るように立ち回っていた。

そんな中、私は攻撃に参加していない。
何故か。
やるべきことが他にあるからだ。

「スーちゃん!」

それは、1人暴走しているうちの子を正気に戻すこと。
流石に狙うべき場所が分かった後、彼女という戦力を遊ばせておくべきではない。
サーちゃんはそもそもこちらの話を聞かないために却下だ。

古ノ狼の攻撃が止み、近づけるようになったスーちゃんの近くへと駆け寄り声を掛ける。
しかしながら、彼女は私が【憑依】解除した時のようにこちらの言葉には反応せずに攻撃を続けている。
意味の薄い攻撃を。ダメージは通るものの、そこまで意味のない攻撃を。

(アーちゃん、登場人物ってトラウマ踏んだら皆こんなんになっちゃう感じ?)
((トラウマって……まぁ、それがどれだけ強烈かによるわね。スーの場合は相手が悪いわ。なんせ自分んを殺してるんだもの))

成程、と1つ息を吐く。
言ってしまえば、私は死んだ者の気持ちなんて想像できない。
いや、生きている者は全員分からないだろう。
幾ら『彼女は悲しんでいる』と言われた所で、それはそう言った者の想像で妄想で虚構でしかないのだから。

だからこそ、私はスーちゃんの抱えている気持ちのことは分からない。
だが、ここはゲーム内。生者と死者が互いに手を取って戦うゲームだ。
だからこそ、設定されたものではあるものの、死者と直接話し、その気持ちを汲み取ることが出来る。

「スーちゃん。正直な話、私は君の登場する話は本当に少ししか知らない。というか、他の2人に比べるとマジで情報がないレベル」
((ちょっ))
「でもさぁ、ここまで色々やってきただろう?まだまだゲーム開始してから日数は経ってないけれど……それでも君と私は一緒に頑張ってきたんだよ」
『……』

スーちゃんはこちらを見ず、無言で不可視の刃を私の足元へと1つ飛ばしてきた。
踏み込むな、そういう意味だろう。
それが分かったからこそ、私は1歩踏み込んだ。
物理ではなく、言葉で。

「おいおい、御挨拶じゃないか。いいぜ、そっちがそういう態度ならこっちも言ってやろう。――意地張って周りに迷惑かけてねぇで早く協力しろガキが」
『なっ……!』
((あー……一応言っておくわね。そろそろ来るわよ、古ノ狼))

アーちゃんの声と同時、私の視界の隅で巨大な爆発が起こったのが見えた。
恐らく古ノ狼が引き起こしたものなのだろう。
身体能力的に後衛な私には避ける術も防ぐ術もない。
つまりは、

「ほらッ!まず1個目!アレから私を守ってくれ!私は如何せん無力でね!知ってるだろう!?」
『……チッ』

スーちゃんの肩を掴み、その背へと隠れるようにして潜り込んだ。
自らガキと言った相手の背に隠れるという、非常に格好悪い絵面を披露してしまっているが、これはしかたない。
アーちゃんのスキルの中に防御に使えそうなものがないのだから、他人に頼るしかない。

瞬間、こちらへと無理矢理に突っ込んできた古ノ狼の身体を、器用にスキルを使い私達とは別の方向へと誘導し、安全を確保したスーちゃんの背中を見ながら。
私は言う。

「私はさ、ここじゃ『紡手』なんてもんをやってるけど、結局は村人と変わらないんだよね。むしろ村人よりも下かもしれない。だからさぁ……話を聞くくらいしかできないんだよ」
『……』
「今全部の話を聞くつもりはないし、それはスーちゃんも分かってるとは思う。けど、とりあえずでいいから、この場だけは最初みたいに協力してくれない?話はいくらでも後で聞くから」

そう、私がこの世界で、Fantasia Onlineで出来ることは言ってしまえば彼女たちの話を聞くくらいしかできない。
私はスキニットのように他のゲームで前衛をやっていたから戦闘が出来る、というわけでもないし……そもそも戦闘に直接関わってきていないからこそ、まともに戦う術というのは思いつかない。
だからこそ、スキルの行使を登場人物に任せ出来る限りの行動をするくらいしか出来ない。

だからこそ、力を持つ彼女の協力がなければ私は負けてしまうのだ。
もう現実側では負けたようなものなのだが。

『……すぅーはぁー』

私が言った後、唐突に深呼吸を始めたスーちゃんに少しだけ頬が緩む。

『……あとで、良い喫茶店があるので。そこで聞いてもらいましょう』
「あぁ、いいぜ。君が満足するまでずっと話を聞き続けてやろう」
『で?私はどうすればいいですか?……マスターさん』

そこにはばつが悪いようにこちらを見ず、そう言ってくる少女の姿があった。
そんな彼女の頭を乱暴に撫でながら、私は彼女にやってもらいたいことを話始める。
周りには古ノ狼とそれに攻撃加えるスキニット達が来ていたが、お構いなしだ。
ここからが本番。全員揃ってのボス戦の再開だ。
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