赤ずきんは童話の世界で今日も征く

柿の種

文字の大きさ
上 下
32 / 45
第一章

Episode 29

しおりを挟む

「スキニットくん!こいつ多分、タイマンに特化したスキル持ってる!」
「は?……チッ、そういうことか!全員!語り部の援護に切り替えろ!」

スーちゃんと相談し、推測した内容全てを伝えられるわけではないが。
それでも伝えたい事を簡潔に伝え、スキニット達の動きを変えてもらう。

恐らく、コートードが持っているスキルは私が言った通りタイマン……1対1に特化した性能のものだろう。
それも、対象を選択しそれ以外の相手からのダメージを減少させるおまけ付き。
この分だと、対象に選択している相手に対してのダメージ増加辺りもついていそうな雰囲気がある。

「厄介だなぁ……こういうのはもっとゲームが進んでから登場するタイプのボスだろう」

救いとしては、私と【憑依】しているからか、スーちゃんが発動し操作しているスキルが、私の攻撃として判定されていることだろう。
ありがたい、そう思いつつ私は攻撃を避けることに徹する。
こうして指示を出したり、ぼやいている間にもコートードは止まっていないのだから。

爪による薙ぎ払い、噛みつき、回し蹴りに蹴り上げ。
それらを全て余裕をもって避けていく。
一部、変に伸びた・・・攻撃があったため【浮遊霊の恋慕】を使い、強制的に自分の体を移動させた場面もあったが、想定内。
相手も仮想のモノとはいえ生物だ。未知のモノ、攻撃範囲のブレはある程度許容しなければ始まらないだろう。

「スーちゃん」
((分かってます。攻撃後拘束、もしくは拘束するための攻撃ですよね))
「話が早いね、ありがたい」
((こうやって一体化してるんですから。ある程度は考えを読めますよ))

そう言って、スーちゃんは現状彼女と私にしか見えない刃を操っていく。
よくよく見てみれば、刃に新たに反しのようなものが足されており。
突き刺せば簡単には外れないだろう。

「はい、薙ぎ払い、蹴り蹴り、殴り、掴みーの、今!」
((はいッ!))

避け、避け、避け。
所謂避けタンクのような立ち回りをしつつ、コートードが私に対して噛みついてこようとした時、掛け声をかけた。

『ッ!?』

瞬間、口、両肩、両の太腿に不可視の刃が突き刺さった。
叫び声をあげようにも、上から顎にかけて串刺しになっているためかそもそも口を開けることすらままならないようで、声にならない唸り声のようなものを出してこちらを睨みつけてきた。
……うわぁ、面倒。

HPは相応に減っている。
それこそ、今の同時5点攻撃によって1本目のHPゲージは残り2割ほどとなった。
しかし、一度にそこまで減ったにも関わらず発狂モード……所謂、行動パターンの変化や激怒状態など、特殊行動の類の仕草すら見せていないのが気がかりだった。
視線を少しだけスキニットの方へと移せば、彼も同じことを思っているのか困惑気味の表情を浮かべていた。

「……大人しいねぇ」
((知性もそれなりにある、と考えた方がいいですか?))
「それなりってレベルじゃないと思うけどね、アレ」

痛みによって我に返ったのかなんなのか。
今までのコートードのようにこちらへと苛烈に攻撃を加えてくる素振りを見せず、冷静に見えていない肩や太腿に刺さっている刃を握り潰していた。
ガラスの割れるような音が響いているものの、今現状は好機でもある……が。
誰も動こうとはしなかった。

否、動こうとしなかったのではなく。
動きたくてもコートードの出している異様な雰囲気に、足が動かなかったのだ。
人狼は今も自身に刺さっている刃を砕き。
力任せに砕いているからか、そのままHPバーがじりじりと削れていっている。
このまま下手に攻撃せずとも1本目はじきに底を尽くだろう。

……攻撃、するべきか?いや……ゲージがもう……。
治療とも、自傷ともとれる行動の末、私達が静かに見守る中コートードのHPゲージ1本目が底を尽き、2本目へと突入した。
瞬間、変化が訪れる。

『―――ッ!!!』

声にならない音を上げ、コートードは天に吠えた。
それと同時、人狼の身体の色が変わる……否、毛皮の色が変わっていく。
今までは白銀に見えていたその毛皮は、まるでメッキが落ちたかのように……もしくは錆びてしまったかのように、その毛色を赤毛へと変えていく。

それと同時、今まで人狼という名の通り、人のように2足歩行していたはずの身体が変化していく。
腕は通常の狼のように四足歩行へ。
そして、大きさは更に大きく……通常の狼の4、5倍ほどの大きさへと変化した。

その変化に伴い、先程突き刺し傷を付けたはずの肩や太腿に当たる部位の傷は塞がっている。
傷があったと思われる部分には毛がなく、禿げているように見えるものの。
これ以上血が流れないため、HPを継続的に削ることは願わないだろう。

『GRAッGAAAAAAA!!!!』
「クッソ、姿が変わってもこっちに来るのかよ君は!?」

そうして傷を一時的にでも治したコートードの咆哮と共に、ボス戦の第二ステージと言うべき状況が開始した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

続・歴史改変戦記「北のまほろば」

高木一優
SF
この物語は『歴史改変戦記「信長、中国を攻めるってよ」』の続編になります。正編のあらすじは序章で説明されますので、続編から読み始めても問題ありません。 タイム・マシンが実用化された近未来、歴史学者である私の論文が中国政府に採用され歴史改変実験「碧海作戦」が発動される。私の秘書官・戸部典子は歴女の知識を活用して戦国武将たちを支援する。歴史改変により織田信長は中国本土に攻め入り中華帝国を築き上げたのだが、日本国は帝国に飲み込まれて消滅してしまった。信長の中華帝国は殷賑を極め、世界の富を集める経済大国へと成長する。やがて西欧の勢力が帝国を襲い、私と戸部典子は真田信繁と伊達政宗を助けて西欧艦隊の攻撃を退け、ローマ教皇の領土的野心を砕く。平和が訪れたのもつかの間、十七世紀の帝国の北方では再び戦乱が巻き起ころうとしていた。歴史を思考実験するポリティカル歴史改変コメディー。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

ダンジョンの隠し部屋に閉じ込められた下級冒険者はゾンビになって生き返る⁉︎

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 Bランクダンジョンがある町に住む主人公のカナンは、茶色い髪の二十歳の男冒険者だ。地属性の魔法を使い、剣でモンスターと戦う。冒険者になって二年の月日が過ぎたが、階級はA〜Fまである階級の中で、下から二番目のEランクだ。  カナンにはAランク冒険者の姉がいて、姉から貰った剣と冒険者手帳の知識を他の冒険者達に自慢していた。当然、姉の七光りで口だけのカナンは、冒険者達に徐々に嫌われるようになった。そして、一年半をかけて完全孤立状態を完成させた。  それから約半年後のある日、別の町にいる姉から孤児の少女を引き取って欲しいと手紙が送られてきた。その時のカナンはダンジョンにも入らずに、自宅に引きこもっていた。当然、やって来た少女を家から追い出すと決めた。  けれども、やって来た少女に冒険者の才能を見つけると、カナンはダンジョンに行く事を決意した。少女に短剣を持たせると、地下一階から再スタートを始めた。

VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~

オイシイオコメ
SF
 75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。  この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。  前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。  (小説中のダッシュ表記につきまして)  作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。

処理中です...