赤ずきんは童話の世界で今日も征く

柿の種

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第一章

Episode 29

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「スキニットくん!こいつ多分、タイマンに特化したスキル持ってる!」
「は?……チッ、そういうことか!全員!語り部の援護に切り替えろ!」

スーちゃんと相談し、推測した内容全てを伝えられるわけではないが。
それでも伝えたい事を簡潔に伝え、スキニット達の動きを変えてもらう。

恐らく、コートードが持っているスキルは私が言った通りタイマン……1対1に特化した性能のものだろう。
それも、対象を選択しそれ以外の相手からのダメージを減少させるおまけ付き。
この分だと、対象に選択している相手に対してのダメージ増加辺りもついていそうな雰囲気がある。

「厄介だなぁ……こういうのはもっとゲームが進んでから登場するタイプのボスだろう」

救いとしては、私と【憑依】しているからか、スーちゃんが発動し操作しているスキルが、私の攻撃として判定されていることだろう。
ありがたい、そう思いつつ私は攻撃を避けることに徹する。
こうして指示を出したり、ぼやいている間にもコートードは止まっていないのだから。

爪による薙ぎ払い、噛みつき、回し蹴りに蹴り上げ。
それらを全て余裕をもって避けていく。
一部、変に伸びた・・・攻撃があったため【浮遊霊の恋慕】を使い、強制的に自分の体を移動させた場面もあったが、想定内。
相手も仮想のモノとはいえ生物だ。未知のモノ、攻撃範囲のブレはある程度許容しなければ始まらないだろう。

「スーちゃん」
((分かってます。攻撃後拘束、もしくは拘束するための攻撃ですよね))
「話が早いね、ありがたい」
((こうやって一体化してるんですから。ある程度は考えを読めますよ))

そう言って、スーちゃんは現状彼女と私にしか見えない刃を操っていく。
よくよく見てみれば、刃に新たに反しのようなものが足されており。
突き刺せば簡単には外れないだろう。

「はい、薙ぎ払い、蹴り蹴り、殴り、掴みーの、今!」
((はいッ!))

避け、避け、避け。
所謂避けタンクのような立ち回りをしつつ、コートードが私に対して噛みついてこようとした時、掛け声をかけた。

『ッ!?』

瞬間、口、両肩、両の太腿に不可視の刃が突き刺さった。
叫び声をあげようにも、上から顎にかけて串刺しになっているためかそもそも口を開けることすらままならないようで、声にならない唸り声のようなものを出してこちらを睨みつけてきた。
……うわぁ、面倒。

HPは相応に減っている。
それこそ、今の同時5点攻撃によって1本目のHPゲージは残り2割ほどとなった。
しかし、一度にそこまで減ったにも関わらず発狂モード……所謂、行動パターンの変化や激怒状態など、特殊行動の類の仕草すら見せていないのが気がかりだった。
視線を少しだけスキニットの方へと移せば、彼も同じことを思っているのか困惑気味の表情を浮かべていた。

「……大人しいねぇ」
((知性もそれなりにある、と考えた方がいいですか?))
「それなりってレベルじゃないと思うけどね、アレ」

痛みによって我に返ったのかなんなのか。
今までのコートードのようにこちらへと苛烈に攻撃を加えてくる素振りを見せず、冷静に見えていない肩や太腿に刺さっている刃を握り潰していた。
ガラスの割れるような音が響いているものの、今現状は好機でもある……が。
誰も動こうとはしなかった。

否、動こうとしなかったのではなく。
動きたくてもコートードの出している異様な雰囲気に、足が動かなかったのだ。
人狼は今も自身に刺さっている刃を砕き。
力任せに砕いているからか、そのままHPバーがじりじりと削れていっている。
このまま下手に攻撃せずとも1本目はじきに底を尽くだろう。

……攻撃、するべきか?いや……ゲージがもう……。
治療とも、自傷ともとれる行動の末、私達が静かに見守る中コートードのHPゲージ1本目が底を尽き、2本目へと突入した。
瞬間、変化が訪れる。

『―――ッ!!!』

声にならない音を上げ、コートードは天に吠えた。
それと同時、人狼の身体の色が変わる……否、毛皮の色が変わっていく。
今までは白銀に見えていたその毛皮は、まるでメッキが落ちたかのように……もしくは錆びてしまったかのように、その毛色を赤毛へと変えていく。

それと同時、今まで人狼という名の通り、人のように2足歩行していたはずの身体が変化していく。
腕は通常の狼のように四足歩行へ。
そして、大きさは更に大きく……通常の狼の4、5倍ほどの大きさへと変化した。

その変化に伴い、先程突き刺し傷を付けたはずの肩や太腿に当たる部位の傷は塞がっている。
傷があったと思われる部分には毛がなく、禿げているように見えるものの。
これ以上血が流れないため、HPを継続的に削ることは願わないだろう。

『GRAッGAAAAAAA!!!!』
「クッソ、姿が変わってもこっちに来るのかよ君は!?」

そうして傷を一時的にでも治したコートードの咆哮と共に、ボス戦の第二ステージと言うべき状況が開始した。
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