赤ずきんは童話の世界で今日も征く

柿の種

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第一章

Episode 28

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薙ぎ払うように振るわれた爪を、身体能力と【浮遊霊の恋慕】によって大きく避ける。
目の前を暴風というべき勢いの風が通り過ぎていくのを感じながら、私は更に大きく飛び退いた。

……近接戦闘は私の趣味じゃないんだけどなぁ!
心の中で愚痴を吐くが、それを吐いた所で何も変わらない。
周りのアーちゃんやサーちゃん、スキニット達に関しても、どうにかこうにか私から目を外させるために攻撃をしてくれているものの。
コートードの特性か、それともボスだからなのか分からないが、彼らの攻撃を意にも介していないのだ。
アーちゃんは特攻スキルを持っているのにも関わらず、だ。

「どう思うよスーちゃん」
((私としては、コートード自身の特性スキルの可能性が高いかなぁと))
「その心は?」
((第一、メタ的な発言として。これはゲームです。なのに周りの攻撃が効かない、一定時間ヘイトをとれないなんて共通項をボスに実装するかと言われると否でしょう?))
「成程ねぇ……じゃあこの状況も必然というか、その特性の影響の可能性がある、と」
((そうなります))

こちらに向かって樹木を投げてくるのを、不可視の刃によって軌道を逸らし防御する。
ある程度の攻撃パターンは逃げ回っていることで分かったが、この後が続かない。
攻撃しようと思えば攻撃出来るのだが……それでも攻撃していいものか悩んでしまう。

もし私達の考えが間違っていて、単純にダメージ量が足りず私からヘイトが移らないのであれば、結局私が今と同じようにコートードの攻撃を流し続けなければいけなくなる。
しかし、スキルの影響によってこの状況が作り出されているのであれば、それをどうにかしなければならない。

「……よし、決めた。攻撃しよう」
((良いんですか?スキニットさん達には確認を?))
「今からとる、というかこっちのメンツは多分大丈夫だろうから、スキニットくん側の説得にはなると思うけど……おーい!スキニットくん!もう私も攻撃しちゃうぜ=!?」
「はぁ!?いや良いが理由は!?」
「勘!」
「……了解ッ!援護に回る!」
「……ね?」
((凄いですよ、あっち側の登場人物の視線。あとで絶対何か言われますって))

スーちゃんの言葉を半ば笑い飛ばし、私は再度迫ってきていたコートードの爪を横に転がることによって避ける。
コートードの目では私を追っているものの。次に繰り出されたのは私が居た位置への鋭い蹴りだ。
先程までと同様に後ろに下がって対処していれば、その蹴りにぶつかっていたことだろう。

「よっしゃ、行こうぜスーちゃん。まともに戦うのはここまでだ!」
((と、いうと?))
「私は体を動かすから、スーちゃんは攻撃を任せるよ。ほら、スキニットくんとの決闘で制限したアレ使おうぜ?」
((成程、分かりました……避けられますか?))

少しばかり心配そうなスーちゃんの声を聞きつつも、飛んできた樹木、その陰に隠れるようにして迫ってきていたコートードの拳と蹴りを余裕をもって避けていく。
現実よりも、強化されている視覚のおかげか。それともコートードの動きに私の目が慣れてきたのか。
コートードの身体の動きによって、次の行動を予測し避けていく。

もう覚えた・・・・・から大丈夫」
((……成程。要らない心配でしたね。ではやりましょう))

見るに徹していたからか、それともまた別の理由か。
私の身体は何とも器用な事に、コートードの攻撃パターンともいえるものを土壇場で覚えてくれたらしく、そのまま思う様に反射的に動いてくれる。
……まさか、取ったスキルの影響って事は……ないとは言い切れないなぁ。

【器用強化】と【視力強化】。
確かに私がこの世界に降り立つ時に手に入れたスキルだ。
今まで意識して使う事はなかったものの、ここにきてその効果を実感できた。

アーちゃんたちの方へ視線を向ければ、こちらの援護に入るべく取り回しの良い武器や盾など、いざとなれば間に入ることが出来るような装備を整えてくれている。

「よし、じゃあ次こっちにツッコんできたときに合わせて攻撃開始で」
((了解です。『回』で良いんですね?))
「良いというか、それくらいしかまともに喰らわなそうじゃない?」
((それもそうですね。準備します))

スーちゃんの言葉と共に、空中に3枚の不可視の刃が浮かび上がる。
それらは互いがくっつきあうようにして存在しており、今まで通り普通に相手を切る、刺すなどの動きをさせようとするには些か不便な状態となっていた。

((――回れ))

スーちゃんがいつになく、低い声でそういうと。
その3枚の刃がそれぞれが縦に、高速に回転し始める。
まるで丸のこのように円形になったそれらによって、周囲に少しだけ風が吹き始めるものの。
どうせ私とスーちゃん以外にはコレが見えていないのだから問題はない。

コートードも一瞬、どこからか風が吹き始めたのを不審に思ったのか周囲を見渡したものの。
すぐに私の方を向き、距離を詰め再度腕を振るおうとした。
私はそれをただただ身体の素直な動きに従って避けようとする。

『GARA!?』
「ビーンゴッ!」

瞬間、刃が動いた。
ギャリギャリギャリギャリ、という音と共にコートードの腕と接触した【その脅威は這い寄るように】の刃は、毛と肉を巻き込むように、切断するようにして回転していき。
コートードが無理矢理その場から腕を引きはがすまで、その身を傷つけ続けた。

……HPが目に見えて減った。攻撃力の高さ的にはアーちゃんとかのが高いはずだけど、これが違いかな?
コートードのHPを確認した私は口をにやけさせる。
今まで1本目の5分の1ほどまでしか削れていなかったHPが、今では5分の2ほど削れている。
ちまちま削っていた時の総ダメージ量を一度で上回るはずもない。
これはコートードの持つそういう特性なのだと考えた方がまだやりやすい。
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