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第一章
Episode 23
しおりを挟む「やったことって言っても、割と単純なことだぜ?」
「その単純がこっちにゃ分からんかったんだよ」
「まぁ見えないしねぇ……オーケイ。スーちゃん、一度【憑依】しようか」
未だ契約の書には戻らず、近くで待機してくれていたスーちゃんに声を掛け【憑依】する。
どこまで手の内を晒すべきなのかを考え、自分だけでは情報を出すには判断材料が足りないなと考えたためだ。
この状態ならば、声に出さずとも相談が出来る。
「まず前提として、使ってたのはスーちゃんのスキル。私達『紡手』のスキルではないって事は覚えておいてね」
「了解」
「で、矢を弾いたものからかな……」
頭の中でスーちゃんに語りかけ、その使用法を教えてもらう。
……うん、これはスーちゃんが自分で身体を動かすっていうわけだ。制御というよりは思った通りに展開できない。
「矢を弾いたのは、【その脅威は這い寄るように】ってスキル。具体的な事は言えないけれど……まぁ簡単に言えば、見えない刃を周囲に展開できるスキルかな。もちろん攻撃用だぜ?」
「……途中で止まって攻撃してたのもこれか?」
「そうだね。刃は操れるから、色々な動きを付けて試してた」
【その脅威は這い寄るように】。
スキニットに対していったことは全てではないが、大体そのままなスキルだ。
目には見えない刃を生み出し、それを展開、自由に操作することが可能な攻撃用のスキル。
大きさ、幅なども思ったように作り出せるため、決闘中スーちゃんは大剣のようなものやナイフのような大きさのものを作って攻撃行動を行っていた。
しかし、これの動きの制御はかなり難しい。
不自然に慣性が働いているのか、少し動かしたつもりでも思った以上に移動してしまう。
ちなみに、一応ではあるがスキル使用者……この場合【憑依】を行っている私とスーちゃんには【その脅威は這い寄るように】の刃は全て見えている。
空中に群青色の半透明な刃が浮いているように見えるのだ。
これのおかげで、自分の刃に当たるというヘマは犯さなくてすむ。
((これ、慣れている私でも何回か外す程度には難しいですからね。制御))
(納得納得。こりゃ実戦で突然使うのは無理だ)
私の説明にうんうんと頷き納得しているスキニットを見ながら、私は声に出さずスーちゃんと会話する。
再度スキルについて教えてもらうためだ。
「次に煙幕や矢を再発進させたスキルだねぇ」
「アレか……」
スキニットにとっては伏せていた札の2つを強制的に捲られたスキル。
かなり強力なものだと思っているのだろう。
事実、間違いではないが正解でもない。
「まぁ名前も言ってたから分かるとは思うけれど……【浮遊霊の恋慕】。簡単に言えば念動力さ。勝手に物が動いたり……とかね?」
「サイコキネシスとか言われる奴か。……成程?操れる範囲がかなり広いな?」
「風から相手の弓から放たれた矢まで、目に見える範囲で動かせそうなものなら一応問題ないね。例えば……ほぉ?!」
「……なに自分でやって驚いてんだ」
試しに私の身体を対象に、【浮遊霊の恋慕】を使用する。
すると、強烈な下への重力を感じつつも少しずつ身体が浮かび上がるのを感じた。
見ればしっかり頭1個分ほど浮いているのが見え、こちらを見て飽きれたような顔をしているスキニットの顔も見えた。
「いや、思ったよりも内蔵にくるダメージが……と、まぁ。こんな風に自分までも対象にすることが出来るスキルなんだよ」
「継戦不可能になっても戦える、というわけか……いや、待て?」
「あ、気付いた?」
「……お前、そのスキルいつから使ってやがった?」
スキニットがこちらに対して睨むような……否、探るような目を向ける。
しかし今行っている会話は推理パートではなく、その後の種明かし、ネタバレパートなのだ。
私はその視線に対し、ワザと嫌味な表情を浮かべこういった。
「そりゃ、最初からスーちゃんが使ってた」
「ってことは……」
「そう、君たちと決闘していたのはスーちゃんであって私じゃないのさ。身体は使ってもらってたけど」
『君、決闘を愚r――「おいおい、愚弄とか言うのかい?違うだろう?特にジョン。君が言うのは絶対に違うだろう」――何?』
一息。
「あは、確かに私はスーちゃんに身体を明け渡し、決闘中は口や視線を動かすだけだった。それは変わらない事実さ。……しかしながら」
「『……』」
「しかしながら、ジョン。君が決闘を最初に申し込んだのは私ではないだろう?スーちゃん……あの赤頭巾の女の子に対してだろう。それなのに、その彼女と間接的にでも戦う事が出来たというのに、これは決闘を愚弄しているとでもいうつもりかい?」
正直な事を言えば、私は今適当を言っている。
しかしながら、顔だけは真剣に。
こっちがまともに戦っていなかったのは事実なのだ。それこそ、相手を嘗めているといわれても仕方ないほどに。
その主張をどう正論っぽい理由をつけて相手に付きつけるのか。
そして相手に正論として勘違いさせるのか。これは単純に、捲し立てるだけだ。
それっぽいことをそれらしいように、真剣に。それこそ相手にやましいところがあるのなら、そこを突きながら。
『……確かに、決闘を挑んだのは君ではなく、あの少女に対してだ』
「だろう。それに言ってしまえば……君にもスキニットの身体の制御を奪うことくらいは出来るだろう?スーちゃんとはまた違った方法で」
『……』
「ここで沈黙するのは認めてるのと同じだぜ?」
【憑依】システム。
現状分かっていることをまとめるとするならば、合体や同一化などの名前でも良いはずのシステム。
それなのに、名前には【憑依】とついている。
最初私はこれについて、単純に【憑依】中でも登場人物の自我が存在するからだろうか、みたいな曖昧な考えを持っていた。
しかしながら、スーちゃんから身体の制御云々の話を聞いた時に、その考えを改めた。
登場人物たちがどう考えているにせよ。
【憑依】システムというこのシステムは、登場人物たちが私達『紡手』の身体を使い戦うためのシステムなのではないか?と。
所謂妄想の類ではあるものの……正解からそう遠くはないだろうという謎の核心もありながら。
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