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第一章

Episode 22

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■赤ずきん

「――そこまでッ!勝者、語り部!」

審判をしているプレイヤーの声により、決闘の勝敗がついたことが告げられる。
瞬間、声一つ発さずに私達の決闘を見ていた野次馬達から大きな歓声が挙がり、私は一息ついた。

「お疲れ、スーちゃん」
((いえ、色々と助かりました))
「あれくらいは手伝わないとねぇ……とと、大丈夫かい?スキニットくん」

スーちゃんを労うのは程々に、片腕を失ってしまったスキニットの方へと駆け寄る。
同時に【憑依】を解いているため、私と一体化していたスーちゃんも後ろからついてくる形だ。
スキニットはと言えば、先程の一撃によって切断されてしまった左腕から決して少なくはない量の血……赤いエフェクトにしか見えない液体を流していた。
このままでは遠からず死に戻りしてしまうだろう。

「……だー、くそ。負けちまった。見えねぇ攻撃は流石に厳しいな」
「あは、これも1つの攻撃手段ってね。状態は?」
「【出血】と【腕部欠損】ってのがついてるな」
「スーちゃん」

私はスーちゃんの名前を呼ぶ。
彼女はそれだけで私の発言の意図を呼んでくれたのか、軽く頷いた後にスキニットの腕に視線を向けた。
すると、だ。

「ん……【出血】がなくなったが……何かしたか?」
「そっちのスーちゃんのスキルで一時的な止血をね。おーい、誰か治療系のスキル持ってる登場人物と【契約】してる人はいるかーい?流石にこのままじゃ危なそうだー!」

声を張り上げ、今だ騒いでいる野次馬の中に治療が出来る者がいないかと呼びかける。

「わ、私できます!」
「私もだ、とりあえず患部を見せてくれ」

2人、少女と妙齢の男性が手を挙げた。
妙齢の男性の方は素早くこちらへと駆け寄り、スーちゃんがスキルを使用して止血している傷の断面を観察している。
少女の方は衝撃で飛んでいった左腕を回収しに回っているようだ。

「すまないね、あとでお礼はするよ。語り部って呼んでね」
「問題ない、その辺りはあとにしようか。私はヒューズと言う」
「すまねぇな、ヒューズの旦那」
「アレは仕方ないだろう。それに切断面もキレイだ。これなら私の子らの力できちんと繋がる」

そう言ってすぐさま彼が呼び出したのは、1人の少年。
白髪の白衣を着ているものの、手にもった杖のようなものが医者や科学者と言うよりも魔術師という印象を与えてくる。
そんな杖には蛇が複数絡み合っているような装飾がついており……彼が何者であるか、少しばかり遅れて理解した。

「……おや、神話もありなのかこのゲーム」
『そちらのお嬢さんは中々博識のようで。ただまぁ後で自己紹介はさせていただくよ』

私の呟きに反応した彼はこちらに目もくれず、そのままスキニットの治療へと参加した。
手持ち無沙汰になってしまった私は、どうしようかと視線を周囲に彷徨わせた後。

「スキニットくん、色々終わったらこっちに来てくれ。ルプス森林の前の方で待ってるから」

そういって、止血用にスキルを使用する必要のなくなったスーちゃんを連れこの場を立ち去った。
野次馬の中には何やらこちらに聞きたそうな顔をしている者もいたが……まぁ、街などで出会った時に聞いてくるなりなんなりするだろう。



暫くして。
私は遠巻きに観察されながらもスキニットを待っていると、先程彼を治療していたヒューズというプレイヤー、少女、そしてヒューズと【契約】している少年を連れて彼が現れた。

「すまない、遅くなった」
「いや、私がやってしまったことだからね。私が文句を言うのは流石にあり得ないさ。……そっちのヒューズさんたちも治療してくれてありがとう。お礼は何がいいかな?」
「礼は要らない、と言いたいところだが……そうだな。君は、掲示板で一時期書き込まれていたルプス森林の中を攻略しているかもしれないプレイヤーだろう?」
「まぁ否定しないさ」
「ならば、森林の素材をくれないか?今のゲームの環境ではそれが最前線のものだからな」
「オーケイオーケイ」

そういって手短にヒューズへと素材……森林の中で手に入れた木材や劣等人狼などの素材を少ないものの渡し、礼の品とした。

「それで、そっちのお嬢さんは何が欲しいかな?……あ、私の事は語り部って呼んでくれて構わないよ」
「あっ、語り部さんどうもです!わ、私はエルマと言います。えっと、じゃあ、その、薬草類ってありますか?」
「……薬草か、すまない品質が低いものしかないからそれでもいいかな?」
「大丈夫です!ありがとうございます!」

少女……エルマに対しては森林内で見つけていた薬草類をとりあえず全て渡しておく。
今後のために採っておいたものではあるが、そこまで量もない。
1日採取すれば再度集められる程度の量だ。

それらを渡し終えた後、自然と視線は最後の少年へと向く。
私の予想が正しいのであれば、彼の正体は仮にも童話の世界と名を打ってあるゲームにはふさわしくないものだろう。

「それで……そちらの。医神殿は何か欲しいものはありますかね。とはいっても、貴方が満足するようなものを持っているとは思えないんですけど」
『ふふ、私は今はヒューズと【契約】している身。そんなに畏まらないでくれ。彼に渡した分で十分さ。それに、神とはいえここではただの1人の医師。アスクレピオス、診察が必要な時はまた是非に』
「……そうかい?なら良いのだけれど。ありがとう」

正直な所、出典は何なのかを聞きたいという気持ちは大きいが……今はその時ではない。
手早くヒューズとエルマにフレンド申請を行い、その後他愛無い話をした後に2人は去っていった。

「すまない、待たせたね」
「必要な事だったから仕方ねぇよ。……ただ、先に決闘の時、何をしたのかだけは教えてくれるか?」

待っていてもらったスキニットに対し声を掛け、ルプス森林の前という場所ではあるものの、少しばかり先程の決闘中に行った事について話すことになった。
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