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第一章

Episode 20

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■スキニット <ノウーナ平原>

人払い、もといある程度の範囲にいる顔馴染みのプレイヤー達に事情を話し、戦闘を行っても問題ない程度に場所を開けてもらった。
掲示板にもある程度情報を流した為か、野次馬の数は多いものの……まぁ、問題はないだろう。

「スキニット兄貴、面白いものが見られるって話だが……」
「間違いなく面白いもんが見れるだろうさ。何せ相手はあの森でソロ活動してたプレイヤーだ」
「……成る程な。そりゃ面白そうだ」

彼女達……今回、俺が迷惑をかけてしまっている相手が来るのを待つ間、知り合いのプレイヤーと雑談しながら、こちらの状況を謝罪込みでメッセージで送っている。

……しかし、なんでまたあの戦闘系っぽい子じゃないんだか。
一番俺に、というよりは俺の連れに対して殺気を向けていたのはアーちゃんと呼ばれていた女の子だ。
そちらに対して喧嘩を売るならばまだわかる。共闘するとなってから背中を撃たれたのでは色々と不味いものがあるからだ。

しかし、今回選ばれたのはそこまで強そうには見えない言葉使いの丁寧な女の子だった。
何処か諦めているような目を向けられた時は少しだけ背筋が震えたものの。
ただ、歩き方を見る限り戦闘系の子ではないことくらいは分かった。

「来たな」

俺を中心に一定の範囲を囲むように見守っていた野次馬達の一部が、サーッと左右に分かれ誰かの為に道を開ける。
そこに立っていたのは、赤黒い髪をした女性と赤い頭巾を被った少女だった。

「やぁ、待たせたね」
「そこまで待ってないから大丈夫だ。……メッセージでも伝えたがすまないな」
「?……あぁ、この状況の事?大丈夫大丈夫。今回・・はそこまで私には影響しないからね」
「それなら良かったが……いや、良い。早速始めようか」

俺の言葉を受けた彼女……本人からは語り部と呼べと言われたが……ここでは敢えて、赤ずきんと言おう。
赤ずきんは一瞬、獣を連想させるような獰猛な笑みを浮かべた、ように見えた。

「これだけ観客がいるんだ、折角だから私が先に【憑依】を披露しようか」

そう言って、彼女は近くに立つ女の子の手を握り【憑依】と呟いた。
瞬間光が弾け、彼女の姿が変わり。纏う雰囲気も変化する。
周囲の野次馬達が騒ぎ始めるのが分かる。確かにそうだろう。

近頃の掲示板では、そもそも【憑依】が出来るプレイヤーの方が少ないという話になってきているのだから。
親交値がどうの、時間がどうの、その他理由や条件を付けられて【憑依】自体がまだ使えない人も多い。
俺の所のアナや、今回限りかもしれないが【憑依】してくれるジョンがおかしいのだ。

「ジョン」
『あぁ……やるぞ』

短く、【憑依】と呟き。俺の近くに控えていたジョンが光へと変わる。
その光は俺の身体の要所要所へと纏わりつき、その姿を変えていく。

何も被っていなかった頭には、つばの長い帽子が。
服は何処か村人を連想させるような服へと変わり、その上から暗い緑色の外套が被せられる。
手には巨大な、所謂大弓と言われるサイズの弓が出現した。
外套の所為で見えないが、この分ならば靴なんかも変わっているのだろう。

<【憑依】が完了しました>
<【憑依】中、『狩人』の所持スキルが使用可能となります>
<【森の中の歩き方】、【名無ネームレス】、【頭上はアイム・狙えずともウィリアム】が一時スキルに追加されました>

「おぉ、カッコいいねぇ。流石は狩人の【憑依】」
「ははッ、そっちは赤ずきんとは思えねぇ姿してんなぁ」

【憑依】をしたからと言って、すぐには戦闘を始めるわけではない。
再度ルールを確認した後に、一定距離離れてからスタートだ。

「ルールを確認するぞ。まず、勝敗の決め方は単純に『1撃でも当てられたらその時点で当てられた側の負け』……これでいいか?」
「オーケイ。ちなみに聞くけど、その大弓は扱えるのかい?」
「一応は、と答えておこう」
「あは、こりゃ失敬。あとは決闘中に確かめよう」

そういって、俺と赤ずきんはある程度の距離を……剣や槍を持っていたとしても絶対に当たらないくらい……10メートルほど離し、向き合う。
審判は先ほど話していた知り合いのプレイヤーがやってくれるみたいだ。

「よし、両者いいか?1撃当たったら負け、それ以外は何でもありの決闘だ。――始めッ!」

声が掛けられた瞬間、語り部は距離を詰めるべく。
俺は距離が詰められないように走り出した。
未だ彼女が使う武器が何なのか分かっていないものの、自身が手に持っている武器から考えるに、接近戦を行うのは愚策だろう。

息を吐き、語り部を正面に見据え、弓を引き。
そこで、彼女の目を見た瞬間に矢を射ることなく再度距離をとる事を選択した。

「おいおい……ありゃなんだ?」
((彼女のスキル、と思いたいな))

目を見た、というのは正しい表現ではない。
正しく言うのであれば、目の辺りを見た。
彼女はこちらを見ていない。それどころから目を瞑って、尚こちらへと正確に迫ってきている。
その得体の知れなさに少しだけ恐怖し、しかし頭を振ってそれを振り払う。

再度弓を構え、今度はしっかりと、肩辺りに当たるように狙いを付け射った。
――しかしそれは突然空中でカキンと小気味いい音を立てながら弾かれる。

「……おいおいマジかよ……」

どうやら俺は、思っていた以上に大物と戦闘しているのかもしれない。
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