22 / 45
第一章
Episode 20
しおりを挟む■スキニット <ノウーナ平原>
人払い、もといある程度の範囲にいる顔馴染みのプレイヤー達に事情を話し、戦闘を行っても問題ない程度に場所を開けてもらった。
掲示板にもある程度情報を流した為か、野次馬の数は多いものの……まぁ、問題はないだろう。
「スキニット兄貴、面白いものが見られるって話だが……」
「間違いなく面白いもんが見れるだろうさ。何せ相手はあの森でソロ活動してたプレイヤーだ」
「……成る程な。そりゃ面白そうだ」
彼女達……今回、俺が迷惑をかけてしまっている相手が来るのを待つ間、知り合いのプレイヤーと雑談しながら、こちらの状況を謝罪込みでメッセージで送っている。
……しかし、なんでまたあの戦闘系っぽい子じゃないんだか。
一番俺に、というよりは俺の連れに対して殺気を向けていたのはアーちゃんと呼ばれていた女の子だ。
そちらに対して喧嘩を売るならばまだわかる。共闘するとなってから背中を撃たれたのでは色々と不味いものがあるからだ。
しかし、今回選ばれたのはそこまで強そうには見えない言葉使いの丁寧な女の子だった。
何処か諦めているような目を向けられた時は少しだけ背筋が震えたものの。
ただ、歩き方を見る限り戦闘系の子ではないことくらいは分かった。
「来たな」
俺を中心に一定の範囲を囲むように見守っていた野次馬達の一部が、サーッと左右に分かれ誰かの為に道を開ける。
そこに立っていたのは、赤黒い髪をした女性と赤い頭巾を被った少女だった。
「やぁ、待たせたね」
「そこまで待ってないから大丈夫だ。……メッセージでも伝えたがすまないな」
「?……あぁ、この状況の事?大丈夫大丈夫。今回はそこまで私には影響しないからね」
「それなら良かったが……いや、良い。早速始めようか」
俺の言葉を受けた彼女……本人からは語り部と呼べと言われたが……ここでは敢えて、赤ずきんと言おう。
赤ずきんは一瞬、獣を連想させるような獰猛な笑みを浮かべた、ように見えた。
「これだけ観客がいるんだ、折角だから私が先に【憑依】を披露しようか」
そう言って、彼女は近くに立つ女の子の手を握り【憑依】と呟いた。
瞬間光が弾け、彼女の姿が変わり。纏う雰囲気も変化する。
周囲の野次馬達が騒ぎ始めるのが分かる。確かにそうだろう。
近頃の掲示板では、そもそも【憑依】が出来るプレイヤーの方が少ないという話になってきているのだから。
親交値がどうの、時間がどうの、その他理由や条件を付けられて【憑依】自体がまだ使えない人も多い。
俺の所のアナや、今回限りかもしれないが【憑依】してくれるジョンがおかしいのだ。
「ジョン」
『あぁ……やるぞ』
短く、【憑依】と呟き。俺の近くに控えていたジョンが光へと変わる。
その光は俺の身体の要所要所へと纏わりつき、その姿を変えていく。
何も被っていなかった頭には、つばの長い帽子が。
服は何処か村人を連想させるような服へと変わり、その上から暗い緑色の外套が被せられる。
手には巨大な、所謂大弓と言われるサイズの弓が出現した。
外套の所為で見えないが、この分ならば靴なんかも変わっているのだろう。
<【憑依】が完了しました>
<【憑依】中、『狩人』の所持スキルが使用可能となります>
<【森の中の歩き方】、【名無】、【頭上は狙えずとも】が一時スキルに追加されました>
「おぉ、カッコいいねぇ。流石は狩人の【憑依】」
「ははッ、そっちは赤ずきんとは思えねぇ姿してんなぁ」
【憑依】をしたからと言って、すぐには戦闘を始めるわけではない。
再度ルールを確認した後に、一定距離離れてからスタートだ。
「ルールを確認するぞ。まず、勝敗の決め方は単純に『1撃でも当てられたらその時点で当てられた側の負け』……これでいいか?」
「オーケイ。ちなみに聞くけど、その大弓は扱えるのかい?」
「一応は、と答えておこう」
「あは、こりゃ失敬。あとは決闘中に確かめよう」
そういって、俺と赤ずきんはある程度の距離を……剣や槍を持っていたとしても絶対に当たらないくらい……10メートルほど離し、向き合う。
審判は先ほど話していた知り合いのプレイヤーがやってくれるみたいだ。
「よし、両者いいか?1撃当たったら負け、それ以外は何でもありの決闘だ。――始めッ!」
声が掛けられた瞬間、語り部は距離を詰めるべく。
俺は距離が詰められないように走り出した。
未だ彼女が使う武器が何なのか分かっていないものの、自身が手に持っている武器から考えるに、接近戦を行うのは愚策だろう。
息を吐き、語り部を正面に見据え、弓を引き。
そこで、彼女の目を見た瞬間に矢を射ることなく再度距離をとる事を選択した。
「おいおい……ありゃなんだ?」
((彼女のスキル、と思いたいな))
目を見た、というのは正しい表現ではない。
正しく言うのであれば、目の辺りを見た。
彼女はこちらを見ていない。それどころから目を瞑って、尚こちらへと正確に迫ってきている。
その得体の知れなさに少しだけ恐怖し、しかし頭を振ってそれを振り払う。
再度弓を構え、今度はしっかりと、肩辺りに当たるように狙いを付け射った。
――しかしそれは突然空中でカキンと小気味いい音を立てながら弾かれる。
「……おいおいマジかよ……」
どうやら俺は、思っていた以上に大物と戦闘しているのかもしれない。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~
オイシイオコメ
SF
75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。
この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。
前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。
(小説中のダッシュ表記につきまして)
作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。
Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~
霧氷こあ
SF
フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。
それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?
見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。
「ここは現実であって、現実ではないの」
自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~
滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。
島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる