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第一章

Episode 19

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決闘。
元は力試しや、賭けの対象、それ以外にも色々と意味のあるものだが、どちらにせよ今回のような初対面の男女同士が行うようなイメージはない。

「……スーちゃん、なんでそんなに乗り気なんだい?」
『あら、そういう風に見えますか?』
「見えるよ。じゃないとあんな風にルールをパッパと決めないでしょう」
『そこは何というか私の性質もありますが……そうですね、乗り気というのは否定しませんよ』

決闘を行う場所は、街から出てすぐにあるノウーナ平原で行われることになった。
人払い、というより場所取りは先に顔の広いスキニットがしに行っているため、私とスーちゃんはあとからのんびり向かっているのだ。
ちなみに、アーちゃんとサーちゃんに関しては契約の書の中へと戻っている。
どちらも決闘に興味がない、というよりは……まぁ、相手が相手だからなのだろう。
特にサーちゃんはいつもはコロコロと変わる表情を隠し真顔だったのが印象的だった。

『あの人がどう思って私の事を指定したのかは知りません。ただ……単純にムカついてるだけで』
「お、それこそ珍しいね。ムカつくかぁ」
『えぇ、ムカつきます。特にあの無責任な感じは』

狩人のジョン・ドゥ。
彼自身の話を全て信じるのならば、彼はこちらと馴染み深い『赤ずきん』の狩人だ。
そして彼が今のような存在になる時に、自身の役割ロール以外の事を全て忘れてしまっている、らしい。
弓の腕などはそのままらしいため、所謂エピソード記憶というものが消えてしまっているのだろう。

「あは、確かにねぇ。でも今回【憑依】でやるってことは、私が身体を動かすんだよね?勝率はどれくらいで見てる?」
『そうですね……えぇ、3割行けばいい方じゃないですか?まともに戦えば』
「うわぁお、流石に低いねぇ。……で?まともじゃない戦い方って?」

そう聞いた私に、スーちゃんは悪戯っぽく……しかし、それでいて目が笑っていない顔でこういった。

『身体の制御を私に任せてくれればいいんです』
「……え、割と凄いこと言ってるけど、それ誰でも出来るの?」
『まぁ、一応は。と言っても私は他のと違って浮遊霊時代が長いんで、色々と他を操る術に長けてるってのはあります』

実際にやってみましょう、と言いながら。
現在いる大通りから少しだけ逸れ、裏道のような所へと入った。
流石にここならば人の目は少ないだろう。

「じゃ、【憑依】」

スーちゃんの手を取りながら宣言する。
瞬間、光が弾け私の装備品がスーちゃん由来のモノと思われる装備へと変わっていく。
サーちゃんの時とは少しだけ暗めの色に変わっているものの、その大部分は変わらない。

変わるとしたら、他の2人の赤ずきんが持っているようなバスケットは無く。
太腿辺りに短剣が3本、腰に短刀らしきものが1本、それらを隠すように赤銅色の外套が出現した。
一応言っておくが、狼耳もしっぽも存在していないため、やはりあれはサーちゃん特有のものだったのだろうと、少しだけ安心した。

<【憑依】が完了しました>
<【憑依】中、『赤頭巾』の所持スキルが使用可能となります>
<【森の中の歩き方】、【そのキープ・脅威はアップ・這い寄るようにデンジャー】、【浮遊霊アモラ・の恋慕アニマ】が一時スキルに追加されました>

「うん、アサシンっぽいねぇ」
((私の性質には合わないので、結構持て余すんですけどね……))
「まぁ、それは仕方ないね。……よし、とりあえず動かしてもらってもいいかい?」
((では、始めます))

何やら気になるスキルがあるものの、今はそちらよりも体の制御がきちんと行われるのかどうかを確かめねばならない。
頭の中で彼女の声が響くと同時、私は何処か身体が浮いていくような感覚へと陥った。
まるで突然水の中へと放り込まれたような感覚。

そして目を動かし、自身の身体を見てみれば腕が少しずつ自分の意思とは関係なく動き出しているのが分かった。

「お、動いてるねぇ」
((もうちょっとで感覚が掴めるので少し待ってくださいね……よし、接続完了))

瞬間、私の身体がスムーズに動き出すのを感じた。
何か見えない手が私の身体を引っ張るように、しかしながら無理矢理には動かさずに、出来る限り優しく動かされているのを感じた。

「スーちゃんの思い通りに動かせる?」
((そうですね。これなら十分何とかなると思います。一番初めの制御だったので時間が少しだけ掛かりましたけど、次からはあまりラグなしに接続できるかと))
「オーケイ。じゃあ問題ないね。スキルは?」
((問題なく。今回の決闘は、マスターさんにとって身体の動かし方の勉強になるかもしれないですね))

頭の中で楽しそうに笑う彼女の声は何処か嗜虐的なものが込められているような気がした。
そんな彼女に頼もしいと思いつつ、何かあったら私自身も動かないといけないだろうなと、密かに心を決め、私達は再び平原へと足を向けた。
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