赤ずきんは童話の世界で今日も征く

柿の種

文字の大きさ
上 下
19 / 45
第一章

Episode 17

しおりを挟む

意識がない状態、とでもいえばいいのだろうか。
私の目の前で直立不動のまま何処か空中に視線を彷徨わせているスキニットの姿は、少し……いや、かなり不気味とも思えた。

「……私もこうなってたのかねぇ。割と不気味だ」
『仕方ないんじゃないかしら。そもそも得体のしれない人型の何かを使役出来る時点でかなり不気味よ?』
「自分でそんなことを言うのは中々じゃないかい?アーちゃん」

背後からかけられたそんな言葉に、苦笑しつつ振り返る。
話に参加してこないと思えば、後から呼んだ2人と共に床にシートのような何かを敷き、その上で簡易的なお茶会をしていたようだ。
童話でお茶会、といえばある帽子屋が頭に過るものの……平和そうで何より、というべきだろうか。

「君ら3人でお茶会か。アレかな、私が狂った帽子屋の役でもすればいいかい?」
『それならば、私は時計ウサギにでもなりましょうか。……と、そういえば時計ウサギは運営側のAIに居たんでしたっけ』
『アリスシリーズの登場人物の名前を騙ってるだけで、アレらは本人ではないから大丈夫よ。……このメンバーだと、私はチェシャ猫かしら』
『じゃあ私がアリス?』

そんな冗談を言い合いながら、私もその小さなお茶会へと混ざることにした。
スキニットがどんな登場人物達と【契約】しているのかはわからないものの、少なくとも話し合いには時間がかかるだろう。
そのまま適当に、サーちゃんに教えてもらいながら【木工】でもやっていこうかと考えながら。


「……んん、君たちは少し目を離すとすぐに色々な事をやっているな」
「おや、帰ってきたのかい?お帰り」
「あぁ、只今……と。その様子だとあの空間についても知っているのか?」
「まぁそんなものだよ。特にうちは割と特殊だろう?」

スキニットの意識が戻ったのか、私へと話しかけてくるのを聞きながら。
木を削るために動かしていた手を止めた。

「確かにな。見ればわかるがそのままだろう?」
「あぁ。そのままだぜ?端から見ればわかりやすいぜ?」
「キャラクター性的には、だろう。……さて、本題に入ろう」

サーちゃんが何処からか取り出した椅子に腰かけると、彼は真面目な顔で話し始めた。

「まず、結果から言えば、俺達は君の攻略を手伝うこととなった」
「おや、それは良い報告だね。ただそうやって言うってことは、色々と条件とかそういうのがあるんだろう?」
「話が早くて助かる。うちのは中々曲者、というよりは我が強い奴らばかりだからな……」

そう言いつつもどこか諦めたように話し始める姿は、普段から中々に苦労しているのだろう。
少しは労った方がいいのだろうか、そんなことを考え自分のキャラではないと即座にそんな考えを切り捨てた。

「まず1つ。これはさっきも居たアナからなんだが……単純に1回だけでいいからあいつの実験に付き合ってやってくれ。……そっちの嬢ちゃん、そんなに睨まないでくれ。君もその場に立ち会ってくれていいし、俺も実際にいるから大丈夫っちゃ大丈夫だから」
「まぁ私としては別に問題はないぜ?で、他にもあるんだろう?」
「あぁ。残ってんのは1つというか、こっちとしては俺も分からねぇわけでもねぇんだが……」

そう言って、彼が言った言葉は現状の私にとっては理解の難しいものだった。

「そっちの嬢ちゃん、あんたに会わせてほしいって言ってる奴がいるんだよ。それが手伝う条件だとよ」
『私、ですか?』

指を指され、困惑した表情を浮かべるスーちゃんに、私は彼女が選ばれた理由も分からず……いや、ある程度予想できてしまったために。
顔をしかめて聞いてしまう。

「スーちゃんを、って事は相手はもしかして?」
「まぁそういうことだ。アレがどういう繋がりを持ってるかは知らねぇが、それでも悲痛そうな顔しながら頼まれたんでね。申し訳ないが、アイツはアイツで俺の中じゃ貴重な遠距離戦力だ。我が強いって言っても、他の奴ら並みではないからな」

遠距離戦力。
この時点でスーちゃんを含めたうちのメンバーも気が付いたのか、困惑したような表情を浮かべた。

「スーちゃんよ、どうする?会ってみるかい?」
『……正直に言えば、私にはどうするべきかはわからないです。十中八九、私の知っている彼ではありませんし』
「だろうねぇ。……スキニットくん、君演劇とかそういうの好きかな?」
「ん?いや、あんまりだな。興味もない」
「……うん、間違いなく違うね。それでもいいって言うなら喚んでもらうけど」

本人同士の事、というには相手が違いすぎるのではないか。
そう考えながらも一応スーちゃんに対して聞いてみたが、彼女も彼女でやはり疑問が頭の中を占めているのだろう。
しかしながら、相手がどういった話をするかどうかくらいの予想はついているらしく、

『まぁ、いいですよ。喚んでください。……人違い、というほど違うわけでもないですが、本人ではない人から伝えられるっていうのもおかしな話なんですけどね』

困惑を隠すことなく、スキニットに対してそう言った。

「……なんか、すまん」
「君が謝ることじゃあないぜ?一応聞くけど、他に条件はないんだね?」
「あぁ、ない。もう1人はそもそも起きてすらなかったからな」
「成程。じゃあ早速1つ条件を達成するとしようか」

私はそう言って、彼に件のスーちゃんに会いたいと言っていた人物を……十中八九『赤ずきんの狩人』であろう人物を喚んでもらうことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです 魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。 「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」 「ええっ!?」 いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。 「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」 攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――

処理中です...