赤ずきんは童話の世界で今日も征く

柿の種

文字の大きさ
上 下
18 / 45
第一章

Episode 16

しおりを挟む

「成程、ヘルプの曖昧な書き方はそういうことだったのか」
「私としては、このヘルプの書き方はずるいというかなんというか……確かに、って感じではあるんだけどねぇ」

口喧嘩から帰ってきたスキニットに対し、ある程度かいつまんで【憑依】システムについて私の知っていることを伝えた。
といっても、サーちゃんのスキルについては教えていないし、ルプス森林に生息しているモンスターやボスの事に関しては何も話していない。

その情報に関しては、もう少し後……この話し合いが終わった後に一緒にルプス森林へと挑むことになったらだろう。
現状で話す意味は薄いし、私以外にもルプス森林を攻略しようと動いている者もいるだろう。
スキニットならば得た情報は掲示板に流すだろうし、今話している【憑依】システムについてもリアルタイムで書き込んでいるようだ。

そんな相手に対し、出せる情報は……まぁ少ない。
不用意に情報を渡したら不特定多数に流される可能性がある相手だ。そういう対応をすれば、私が出す情報も減る、ということはスキニット自身もわかってはいるのだろうが……今は情報の拡散を優先したようだった。

それもまた仕方ないだろう。
【憑依】システムは、これまでの……それこそ他のゲームでいえばテイマーのような戦い方をしていたプレイヤー達に対して、大きな衝撃を与えることになる。

「俺なんかは他のゲームじゃ前衛だからな……これで前で戦えるなら、パーティプレイも役割が組みやすいか……」
「だろうねぇ。私なんかもこれを前提に、少し【契約】する人を探してみようかなって思ってる次第だし」
「成程な。……もしかして、これを使って森林に潜ってるのか?」
「あは、開放されたタイミングは知ってるだろう?あそこまでは自力だよ」
「それはそれで色々無視はできないんだが……」

ある程度書き込みが落ち着いたのか、スキニットがそんなことを言ってくるが私としては首を傾げざるを得ない。
何せ、彼の連れている童話の登場人物であるアナ……バーバ・ヤーガは、伝承上の魔女の代表とも言える存在だ。
やろうと思えば、彼も私と同じように【憑依】せずともある程度までは進むことが出来るだろう。
そんな私の視線に気が付いたのか、彼は苦笑を溢す。

「ここまでで分かってもらってるとは思うが、アナは気分屋でな。他に【契約】してるのは支援よりだから戦闘にゃ向かないんだよ」
「……ふむ、だから自分の準備、というか新しく戦闘用の【契約】が結べるまでは、何も知らない初心者が危ない森に入らないようにNPCの真似事みたいな事をしてたのかい?」
「おいおい、結構容赦ねぇな!まぁその通りなんだが……おーいアナ」
『何』
「すまんかったって。とりあえず【憑依】、試させてくれるか?」
『……ん』

アナはそっぽ向きながら、スキニットへ向けて手を差し出した。
彼はそれを優しく掴み、一言小さく「【憑依】」とだけ呟き、光が弾けた。

次の瞬間、私の前に現れたのは黒いローブを身に纏い、杖を持ったスキニットだった。
アナが被っていた三角帽は無く、私が密かに懸念していた「もしかしたら女装のような姿になるのでは?」という心配も現実のものとはならずに済んでいる。

「これが【憑依】か、成程確かに身体の動かしやすさも変わったな……。あぁ、おう。聞こえてるよアナ」
「あ、アナさんの声はこっちに聞こえてないから、そこで何言ってようがバレないから安心してね。ちなみに私がやったのは支援系の子とだけど、1体くらいなら森林のモンスターを自力で倒せたぜ。アナさんなら……どうだろうなぁ」

私も攻撃役と【憑依】すれば、また変わるのだろうが。
しかしそれをするにはやはり現状では手が足りない。
具体的には、私とアーちゃんが【憑依】システムを使って戦っている間、スーちゃんやサーちゃんを守る者がいないのだ。……あぁ、いや、サーちゃんは守る必要があるのかはさておき。
スーちゃんを守る護衛がいなくなってしまう。

サーちゃんに全て任せておけばいいのでは?とも思ったが、本人曰く『生前ならまだしも、今は存在が支援系に固定されている』という答えを頂いているため、私と【憑依】した状態で索敵などをこなすスーちゃんを守るのが今の鉄板だろうなぁと考えている。

「うん、これはかなり使いやすいな」
「そうかい?伝えた情報が役に立ったみたいで何よりだ。……で、なんだけど。1つお願いをしてもいいかな?」
「お願い?……嫌な予感がするのだが」
「あは、大丈夫さ。君にとっても美味しいお話だよ。……一緒にルプス森林を攻略しないかい?」

本来ならば、私1人で攻略したいと考えていた場所ではあるものの。
現状、足りていないピースが多すぎるのだ。
そしてそれの中のいくつかの代わりとなるのが目の前にいるこの男、スキニットでもある。

「断られたら1人でアタックするだけだからね。今までとそう大差ない」
「……少しだけ待ってくれ、他の奴とも相談する」
「おーけぃおーけぃ。じっくり話してきてくれ」

私の目を避けるためか否か。
スキニットが腰の契約の書に触れた瞬間、一瞬目が眩むほどの光を放ち。
彼自身は意識が飛ばされたのか、その場で固まってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

マスターブルー~完全版~

しんたろう
SF
この作品はエースコンバットシリーズをベースに作った作品です。 お試し小説投稿で人気のあった作品のリメイク版です。 ウスティオ内戦を時代背景に弟はジャーナリストと教育者として、 兄は軍人として、政府軍で父を墜とした黄色の13を追う兄。そしてウスティオ の内戦を機にウスティオの独立とベルカ侵攻軍とジャーナリストとして、 反政府軍として戦う事を誓う弟。内戦により国境を分けた兄弟の生き方と 空の戦闘機乗り達の人間模様を描く。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...