赤ずきんは童話の世界で今日も征く

柿の種

文字の大きさ
上 下
17 / 45
第一章

Episode 15

しおりを挟む

「お、おいアナ。お前……」
『良いじゃないの。どうせ私の事を呼ぶ気ではあったんでしょう?何事も速さというのは重要よ。夜以外はね。覚えておきなさい坊や』
「まだ周りに小さな子もいるんだから!発言に気を付けてくれ!マジで!」

目の前に突然現れた魔女風の姿をした女性……私の問いに是を返した彼女は、かの臼に乗り、杵をもって登場する妖婆バーバ・ヤーガだという。
その名前だけならば、人食い魔女というだけ・・で警戒するには値しないのだが……それにしたって、彼女の登場の仕方が問題である。

何せ、目の前の【契約】を結んでいるであろうスキニット本人が呼び出そうとした素振りもなく。
彼女自身の意思で、自らこちら側へと出てきたという事なのだから。
サーちゃんの件で彼女ら登場人物が、契約の書内からでも外の様子を知る術があることは知っていた。
しかしながら、勝手に出てくる事が出来るとは流石に赤ずきん3人の誰からも聞いていない。

「……もしかして、アーちゃんとか出てこれる?」

小さく、小声で。
こちらを気にすることなく口喧嘩のような問答をしているスキニット達に気付かれないよう、自身の契約の書へと語りかける。
すると、すぐにアクションがあった。

私とスキニット達の間に入るように、私の契約の書から出た光は、やがて人型を形成し。
頼れる攻撃役アーちゃんの姿が出現した。

『……あんまりこれ、サーに怒られるからやりたくないのよ。後で一言言ってもらえるかしらマスター』
「いいぜ、ありがとう。君がそうやって出てこれるって事を知れただけでも十分さ」

目の前のスキニット達から視線を外さず、こちらへと語り掛ける彼女は戦闘中のように張り付けた空気を纏っていた。

『あら、申し訳ないわ。そんなに殺意を向けないで頂戴。こちらには敵対の意思はないのよ?本当よ?』
『そんなに魔力を垂れ流しておいてよく言う。大方、うちのマスターを実験材料かそれに準ずる何かにしか見てないんでしょう?』
『……あら、わかっちゃったかしら?』
『……殺す』

昼下がり、まだ小さい子供のNPCも遊んでいる公園で、お互いに武器を取り出そうとしている2人を私とスキニットは慌てて止める。

「ほら、アーちゃん落ち着こうね。話し合いだから今日」
「アナ!馬鹿野郎!なんで関係を悪化させようとしてるんだお前!!」

正直な話、私とスキニットに交戦の意思どころか、敵対する意思も理由もない。
お互いに話をしていた所、アナと呼ばれているバーバ・ヤーガが登場し場が狂っただけなのだ。
私側のアーちゃんに至っては、こちら側の護衛として登場しただけなのだろう。すぐにバスケットに伸びていた手を止めた。

しかしながら、相手方はそうもいかないようで。

『えぇー!いいじゃないの!絶対あの子面白そうよ!?』
「そういうのはもっと後!手前自身で友好関係を築いてから交渉するもんなんだよ……!」
『嫌よ。早めに唾付けとかないと、どこの魔女や魔法使いに目を付けられるかわかったもんじゃないわ』
「そう思うのなら少し大人しくしててくれ……!話し合いの結果、お前と交友関係を深められたかもしれないだろ!?」

長くなりそうだったため、スーちゃんとサーちゃんもついでに呼んでこちらはこちらで寛ぐことにした。



「すまん待たせた……なんか増えてんな」
「あ、お疲れー。話はまとまったかい?」

数分後、目の前には疲れ切った顔をしたスキニットと、その後ろに不貞腐れたように頬を膨らませるバーバ・ヤーガの姿があった。
どうやら決着をつけた、というよりはスキニットが話を切り上げただけのようだ。

「いやまぁ……すまない。アレが俺んとこの【契約】してる登場人物だ。バーバ・ヤーガが正式名称だが、本人曰くアナと呼んでほしいそうだ」
「了解。こっちは全員赤ずきん。背の高い順から、アーちゃんスーちゃんサーちゃんね。呼び方は3人が分かればいいって」
「ちなみにその場合、君の事は?」
「あー……そうだね。スキニットくん相手だとマスターじゃダメか。OK、じゃあ語り部テラーとでも呼んでくれ」
「テラー?了解した」

なんとなく、呼ばれるのならそれが良いと思った。
彼には語り部ではなく恐怖とかそっちの意味で捉えられている可能性もあるが、そこはまぁいいだろう。
後から訂正すればいい話なのだから。

「で、話の続きといこうか。確か【憑依】システムについてだったよね?」
「あ、あぁ。そうだな。……話して、くれるのか?」
「いやまぁ、本当はどうしようか迷ってた所もあったんだけど。自律召喚?自己召喚?みたいな登場人物側の技術を見せてもらったからね。それに対する対価くらいは払うさ」
「……申し訳ない。押し売りのような事をしてしまって」
「大丈夫大丈夫。むしろ普段見れないことだろう?貴重なものが見れたよ」

実際、貴重なものだろう。
何せ、再現しようにもプレイヤー側の努力ではどうにもできず、【契約】している登場人物側に頑張ってもらうしかないのだから。
因みに実際にやって出来たアーちゃん曰く、『やれないことはないけれど、普通よりも無駄に抵抗があって出にくい感じがあった』とのこと。
ちなみに便秘?と聞いたら殴られた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀

さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。 畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。 日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。 しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。 鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。 温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。 彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。 一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。 アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。 ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。 やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。 両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は? これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。 完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。

マスターブルー~完全版~

しんたろう
SF
この作品はエースコンバットシリーズをベースに作った作品です。 お試し小説投稿で人気のあった作品のリメイク版です。 ウスティオ内戦を時代背景に弟はジャーナリストと教育者として、 兄は軍人として、政府軍で父を墜とした黄色の13を追う兄。そしてウスティオ の内戦を機にウスティオの独立とベルカ侵攻軍とジャーナリストとして、 反政府軍として戦う事を誓う弟。内戦により国境を分けた兄弟の生き方と 空の戦闘機乗り達の人間模様を描く。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

処理中です...