赤ずきんは童話の世界で今日も征く

柿の種

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第一章

Episode 15

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「お、おいアナ。お前……」
『良いじゃないの。どうせ私の事を呼ぶ気ではあったんでしょう?何事も速さというのは重要よ。夜以外はね。覚えておきなさい坊や』
「まだ周りに小さな子もいるんだから!発言に気を付けてくれ!マジで!」

目の前に突然現れた魔女風の姿をした女性……私の問いに是を返した彼女は、かの臼に乗り、杵をもって登場する妖婆バーバ・ヤーガだという。
その名前だけならば、人食い魔女というだけ・・で警戒するには値しないのだが……それにしたって、彼女の登場の仕方が問題である。

何せ、目の前の【契約】を結んでいるであろうスキニット本人が呼び出そうとした素振りもなく。
彼女自身の意思で、自らこちら側へと出てきたという事なのだから。
サーちゃんの件で彼女ら登場人物が、契約の書内からでも外の様子を知る術があることは知っていた。
しかしながら、勝手に出てくる事が出来るとは流石に赤ずきん3人の誰からも聞いていない。

「……もしかして、アーちゃんとか出てこれる?」

小さく、小声で。
こちらを気にすることなく口喧嘩のような問答をしているスキニット達に気付かれないよう、自身の契約の書へと語りかける。
すると、すぐにアクションがあった。

私とスキニット達の間に入るように、私の契約の書から出た光は、やがて人型を形成し。
頼れる攻撃役アーちゃんの姿が出現した。

『……あんまりこれ、サーに怒られるからやりたくないのよ。後で一言言ってもらえるかしらマスター』
「いいぜ、ありがとう。君がそうやって出てこれるって事を知れただけでも十分さ」

目の前のスキニット達から視線を外さず、こちらへと語り掛ける彼女は戦闘中のように張り付けた空気を纏っていた。

『あら、申し訳ないわ。そんなに殺意を向けないで頂戴。こちらには敵対の意思はないのよ?本当よ?』
『そんなに魔力を垂れ流しておいてよく言う。大方、うちのマスターを実験材料かそれに準ずる何かにしか見てないんでしょう?』
『……あら、わかっちゃったかしら?』
『……殺す』

昼下がり、まだ小さい子供のNPCも遊んでいる公園で、お互いに武器を取り出そうとしている2人を私とスキニットは慌てて止める。

「ほら、アーちゃん落ち着こうね。話し合いだから今日」
「アナ!馬鹿野郎!なんで関係を悪化させようとしてるんだお前!!」

正直な話、私とスキニットに交戦の意思どころか、敵対する意思も理由もない。
お互いに話をしていた所、アナと呼ばれているバーバ・ヤーガが登場し場が狂っただけなのだ。
私側のアーちゃんに至っては、こちら側の護衛として登場しただけなのだろう。すぐにバスケットに伸びていた手を止めた。

しかしながら、相手方はそうもいかないようで。

『えぇー!いいじゃないの!絶対あの子面白そうよ!?』
「そういうのはもっと後!手前自身で友好関係を築いてから交渉するもんなんだよ……!」
『嫌よ。早めに唾付けとかないと、どこの魔女や魔法使いに目を付けられるかわかったもんじゃないわ』
「そう思うのなら少し大人しくしててくれ……!話し合いの結果、お前と交友関係を深められたかもしれないだろ!?」

長くなりそうだったため、スーちゃんとサーちゃんもついでに呼んでこちらはこちらで寛ぐことにした。



「すまん待たせた……なんか増えてんな」
「あ、お疲れー。話はまとまったかい?」

数分後、目の前には疲れ切った顔をしたスキニットと、その後ろに不貞腐れたように頬を膨らませるバーバ・ヤーガの姿があった。
どうやら決着をつけた、というよりはスキニットが話を切り上げただけのようだ。

「いやまぁ……すまない。アレが俺んとこの【契約】してる登場人物だ。バーバ・ヤーガが正式名称だが、本人曰くアナと呼んでほしいそうだ」
「了解。こっちは全員赤ずきん。背の高い順から、アーちゃんスーちゃんサーちゃんね。呼び方は3人が分かればいいって」
「ちなみにその場合、君の事は?」
「あー……そうだね。スキニットくん相手だとマスターじゃダメか。OK、じゃあ語り部テラーとでも呼んでくれ」
「テラー?了解した」

なんとなく、呼ばれるのならそれが良いと思った。
彼には語り部ではなく恐怖とかそっちの意味で捉えられている可能性もあるが、そこはまぁいいだろう。
後から訂正すればいい話なのだから。

「で、話の続きといこうか。確か【憑依】システムについてだったよね?」
「あ、あぁ。そうだな。……話して、くれるのか?」
「いやまぁ、本当はどうしようか迷ってた所もあったんだけど。自律召喚?自己召喚?みたいな登場人物側の技術を見せてもらったからね。それに対する対価くらいは払うさ」
「……申し訳ない。押し売りのような事をしてしまって」
「大丈夫大丈夫。むしろ普段見れないことだろう?貴重なものが見れたよ」

実際、貴重なものだろう。
何せ、再現しようにもプレイヤー側の努力ではどうにもできず、【契約】している登場人物側に頑張ってもらうしかないのだから。
因みに実際にやって出来たアーちゃん曰く、『やれないことはないけれど、普通よりも無駄に抵抗があって出にくい感じがあった』とのこと。
ちなみに便秘?と聞いたら殴られた。
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