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第一章
Episode 13
しおりを挟む<ルプス森林 中層>
「おっ、表記変わったね。中層だって」
『あらそうなのね。じゃあここからはきちんとした相手が出てきそうかしら』
中層。
今までが浅層だったことを考えれば、ここからは敵の実力も、森の密度も全てが相応に上がっていくはずだろう。
とはいっても、今の私に出来ることは少ない。
一応サーちゃんと【憑依】したままではあるものの、結局戦闘では戦力にはなれないのだ。
感情などを抜きに考えるならば、単純に敵の攻撃から身を守ることが出来る防護服を身に着けているため、普通に歩くよりかは安全なのだろうが……それでも歯がゆいものがあった。
「うーん。一度撤退するか否か……少し迷うね」
『私は進んでもいいわよ?』
『私も問題ないです』
((私も……というか私は運んでもらってるようなものなんだけどね))
3人の赤ずきんはこう返してくれるものの、私が考えている今後の問題は彼女らの事ではない。
「いや、ね。やっぱりここから先に進むってなると、私も自衛はもちろん、攻撃に参加できた方がいいだろう?そこらへんでねぇ……」
『『あー』』
私と2人の赤ずきんの目線が、右手へと注がれる。
そこには赤黒い染みのついたモーニングスターが存在した。
破壊力は抜群であるし、私が軽く振るっただけで劣等人狼の頭が弾けた程度には良い武器だ。
確かにこれを使えば自衛ならば出来るだろう。しかし、それでは別の問題が存在する。
「モーニングスターって武器自体、使い慣れてないからフレンドリーファイアが……」
『成程……私を【憑依】させるとまた別の……武器のリーチ的な問題が、アーちゃんだとそもそものメインのアタッカーがいなくなるという問題が発生するわけですね』
「そういうこと。出来ればスーちゃんかサーちゃんの物語の狩人さん辺りがいればいいのだけど……」
そこまで言って、気付く。
サーちゃんはともかく、スーちゃんは狩人……自分の窮地に間に合わなかった狩人に対し、何か思う事があるのではないかと。
『?どうしました?』
「……あー、いや。なんでもないよ」
『……?そうですか』
顔を見る限り、いつも通りで特に気にしているようには見えない。
杞憂だったか、と一安心しながらも、これからは少し発言内容には気を付けようと思った。
流石に雑談で仲間からの好感度を下げたくはないからだ。
『でもこの辺りに狩人みたいのがいるって話は聞いたことないわよ?』
「そうなのかい?んー、まぁ街に戻って掲示板でも見ながら探してみるのも手かなぁ……街にもいるんだよね?登場人物」
『居ますね。それこそ普段からは想像できない場所にいたり、場合によっては店を営んでいる場合もあります』
「店を……?」
幽霊のようなものが店を営む。
色んな意味で大丈夫だろうか。いや、大丈夫なのだろう。
そうでなければ店の経営など赦されるはずもない。
良くも悪くも、彼らキャラクター達の存在がこの世界に根付いているのだなと感じた。
「じゃあ行けるところまで行ったら、狩人さん探してみようか。出来るならサーちゃんの方の狩人さんと出会いたいな」
『それはまた何故?』
「ほら、サーちゃんがこんなだから、話くらいは素直に聞いてくれそうじゃない?」
『『成程……』』
((ちょっと!どういう意味かなマスターさん!?))
頭の中に響いてくるサーちゃんの声は無視しつつ。
私と赤ずきんたちは進んでいく。
暫く中層を雑談しながら歩いていく。
森の、というよりはそこに生えている植物の密度が上がった中層でも【森の中の歩き方】による視界、歩行サポート能力は有効なのか、慣れていない私でも何かに躓いて転ぶことなく進むことが出来ていた。
問題があるとすればそれは、
「……なんか、敵でなくない?」
そう、中層に入ってから一度も敵に遭遇していないのだ。
浅層では定期的に、劣等人狼を筆頭に襲い掛かってきていたものの雑談しつつ歩いているだけの私達が襲われない理由が特に見つからない。
アーちゃんやスーちゃんがここまでの道中、何も敵に関しての話をしていないことから、恐らく索敵にすら引っ掛かっていない。
『出ない方が良いっちゃ良いけれど……これはまた別の意味で不安になるわね。一度撤退しましょうか』
「そうだね、それがいいかも。アーちゃんスーちゃんの索敵範囲に引っかからないように囲まれてたら終わりだもんねぇ……」
ソロの辛いところだろう。
自分1人の範囲で行える部分でしか行動する事ができない。
別に私はソロ専門、というわけでもないが……知り合いもほぼいないという状態でもある。
唯一知り合いといってもいいかもしれないのは、初日に話しかけたスキニットという男性くらいだろう。
……彼を誘ってみるのも手かな。今日とは少し違うものにはなるだろうし。
撤退する、ということで意見がまとまった後。
私達はUターンして帰ろうとした。
思えば、ここで振り返ったのは運が良かったのかもしれない。
自分の知らないうちに死なずに済んだのだから。
私達の背後、気配も殺気もなく、ただただ自身から発せられる情報を極端に絞り、周囲に溶け込むように私達を観察していた存在。
大きな、人狼が1体そこにいた。
「ッ!【憑依】解除!」
私は咄嗟に【憑依】を解除し、後ろへと転がるように距離をとった。
解除した理由は簡単だ。目の前に存在する大きな人狼に勝てないと一瞬で悟ったのだ。
そもそもとして、アーちゃんとスーちゃんの索敵を掻い潜り私達のすぐ背後まで接近できる存在が弱いはずもない。
そのまま戦おうとするアーちゃん、スーちゃんを思考操作によって契約の書へと戻すと同時。
私の身体は人狼から放たれた何かによって切り裂かれた。
動きすら見えない攻撃に、HPが0になり光の粒子へと変わりながらも笑ってしまう。
<【人狼王】コート―ドに倒されました。数秒後、セーフゾーンにて復活します>
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