5 / 45
第一章
Episode 4
しおりを挟む
「……ん、戻ってきたかな」
3人の赤ずきんの呼び名を決め、それぞれが使える能力の詳しい話を聞いたあと。
私の意識は本を開いた場所……つまりはルプス森林の前へと戻ってきていた。
時間を確認すると、結構話し込んでいたはずなのに1時間も経っていない。
恐らく、あの空間ではVRMMOならではの時間加速でも設定されていたのだろう。
何か変わった事があるかと、周囲を見渡してみても契約の書を開く前とそう変わってはいなかった。
多少人が増えた程度だろうか。
「よし、行こう」
小さく呟いたあと、ルプス森林の中へと向かって歩いていく。
目にも留まらぬ速さのモンスターがいる、という話だが……やはり一度自分の目でも確認はしておいたほうがいい。そう考えたためだ。
<ルプス森林 浅層>
視界の隅に文字がフェードインし、消えていく。
周囲を見渡せば、木、木、木。
森林なのだから当然なのだが、やはり木が多い。
全力で、増して目に留まらないほどの速さで駆け抜けるのは難しいと感じてしまうほどに。
「【喚起:赤頭巾】。来ておくれ、スーちゃん。次いで【喚起:赤ずきん】。護衛を頼むよアーちゃん」
契約の書を開き、2人の赤ずきんを呼び出した。
1人目は『小さな赤頭巾ちゃんの生と死』の赤頭巾。
2人目は『少女と狼』の赤ずきんだ。
【喚起】。
契約の書から【契約】を行った登場人物達を呼び出す『紡手』専用のコマンドの1つ。
私がやったように対象を選択し呼び出すことも、対象を選択せずに無造作に呼び出すことも可能な状況によって使い分けが可能なものだ。
契約の書から溢れ出した光がそれぞれ人の形となり、弾け。
先程話をした時と同じ彼女らの姿となってこの場へと召喚された。
赤頭巾……スーちゃんの方はこちらへペコリと頭を下げているものの、アーちゃんの方は不機嫌な顔を隠さずに苛立ったように周りを見渡していた。
「スーちゃん、スキル発動お願いね」
『分かりました。【疑っても仕方のない事】』
「アーちゃんは……おいおいどうしたんだい、不機嫌そうじゃあないか。お姉さんに話してごらん。どうせゲームで負けたのを引きずってるだけだろうけど」
『……やっぱりその呼び名でいくわけ?』
「そりゃそうとも。みんなで決めただろう?恨みっこなしとも言ったはずさ」
『はぁぁ……』
どうやら呼び名が気に食わないらしい。
ちなみに呼び名を決めた方法はじゃんけんで、一番勝ち残った者が希望した名前に、というルールで彼女は一番最初に負けている。
ちなみに勝ったのは『赤ずきん』のサーちゃん。
彼女曰く、それぞれの役割に沿って名前をつけたらしい。
私は彼女らの実質的な主人な為、マスターと呼ばれる事にはなったが。
……幼女にご主人様って呼ばれるの、現実だったら即お縄だろうなぁ。
そんなバカみたいな事を考えながら、雑談のような会話をしつつ、足を森の奥へと向け歩いていく。
「いいじゃないか、攻撃役だからアーちゃん。分かりやすいし可愛いし」
『だからそれが私にとっては……』
すると、アーちゃんが突然言葉と足を止め、ある一方向……私の背後に当たる方へと視線を向けた。
私は斥候役のスーちゃんへと視線を向けると、首を縦に振り肯定した。
十中八九敵だろう。……もしかしたら他のプレイヤーの可能性は否めないが。
「距離は?」
『約20m程です。まだこっちが気付いているのには気付かれてないかと』
「アーちゃん狙える?」
『……やれなくはない、けど確実じゃないわね。木が邪魔よ』
「オーケー。じゃあカウンター気味に行こうか」
そう言って、私は後方へと振り向いた。
瞬間、何か背筋に氷柱を差し込まれるような悪寒を感じ。
次の瞬間、横からバンッ!という弾けた音と共に何かが私の目の前で倒れる音が聞こえた。
「Grrr……rr……」
『ふん。狼風情が私に勝てると思ってるのかしら』
見れば、いつの間に取り出したのか。
アーちゃんの手には1丁の銃が握られていた。
その銃口からは紫煙が今もなお天へと昇っていっている。
「ヒュゥ。やるねぇアーちゃん」
『……まぁ、普通の狼相手ならこんなものよ。伊達に狼を殺したって経歴背負ってないわよ。ただ、それに使ったの1番威力が低い弾だから……』
アーちゃんが倒れている何かへと近づき、何度か頭部らしき場所へと向かって銃の引き金を引いた。
〈レッサーウェアウルフを討伐しました〉
チャットログにそう表示され、それと同時にアーちゃんの足元から光の粒子が天へと昇っていく。
「おつかれ、人狼か」
『成長しきってないのか、劣等種なのかはわからないけれどこの森にはこんなのがうじゃうじゃいるみたいね』
「アハ、いいじゃないか。君の独壇場だろう?」
『それもそうね。……スー、次はどの方向かしら』
『次は……少し離れた位置、大体10時の方向にいますね』
一瞬で20mという距離を詰めてきた人狼が劣等という時点で、普段ならば頭が痛くなる問題ではあるものの。
今の私には優秀な攻撃役が付いていてくれるため、余裕があった。
『少女と狼』、自身を喰らおうとした狼を殺し生き残った赤ずきんの物語。
そんな物語の登場人物だからなのか、アーちゃんの持つスキルには狼に対して有利に働くようなモノが存在した。
その代表が【女子供を嘗めるな】というパッシヴ型のスキル。
効果は単純、狼系モンスターに対しての行動速度増加、ダメージの微増加という……狼を相手取る為だけのスキル。
今の襲撃に関しても、これによって一瞬で近づいて来た人狼よりも先手を撃ち、無傷のまま勝利したのだろう。
「いいね、じゃあそっちに向かおうか。アーちゃん何体まで相手出来る?」
『今のと同じレッサーなら幾らでも。普通のだったら……そうね、2体までが限度じゃないかしら』
「それはどういう意味で?」
『勿論、貴女を守りながら戦うという意味でよマスター』
なら良し、と私は彼女達と共に森林の奥へと向かって足を進めて行く。
心強い味方が出来たものだと、笑みをこぼしながら。
3人の赤ずきんの呼び名を決め、それぞれが使える能力の詳しい話を聞いたあと。
私の意識は本を開いた場所……つまりはルプス森林の前へと戻ってきていた。
時間を確認すると、結構話し込んでいたはずなのに1時間も経っていない。
恐らく、あの空間ではVRMMOならではの時間加速でも設定されていたのだろう。
何か変わった事があるかと、周囲を見渡してみても契約の書を開く前とそう変わってはいなかった。
多少人が増えた程度だろうか。
「よし、行こう」
小さく呟いたあと、ルプス森林の中へと向かって歩いていく。
目にも留まらぬ速さのモンスターがいる、という話だが……やはり一度自分の目でも確認はしておいたほうがいい。そう考えたためだ。
<ルプス森林 浅層>
視界の隅に文字がフェードインし、消えていく。
周囲を見渡せば、木、木、木。
森林なのだから当然なのだが、やはり木が多い。
全力で、増して目に留まらないほどの速さで駆け抜けるのは難しいと感じてしまうほどに。
「【喚起:赤頭巾】。来ておくれ、スーちゃん。次いで【喚起:赤ずきん】。護衛を頼むよアーちゃん」
契約の書を開き、2人の赤ずきんを呼び出した。
1人目は『小さな赤頭巾ちゃんの生と死』の赤頭巾。
2人目は『少女と狼』の赤ずきんだ。
【喚起】。
契約の書から【契約】を行った登場人物達を呼び出す『紡手』専用のコマンドの1つ。
私がやったように対象を選択し呼び出すことも、対象を選択せずに無造作に呼び出すことも可能な状況によって使い分けが可能なものだ。
契約の書から溢れ出した光がそれぞれ人の形となり、弾け。
先程話をした時と同じ彼女らの姿となってこの場へと召喚された。
赤頭巾……スーちゃんの方はこちらへペコリと頭を下げているものの、アーちゃんの方は不機嫌な顔を隠さずに苛立ったように周りを見渡していた。
「スーちゃん、スキル発動お願いね」
『分かりました。【疑っても仕方のない事】』
「アーちゃんは……おいおいどうしたんだい、不機嫌そうじゃあないか。お姉さんに話してごらん。どうせゲームで負けたのを引きずってるだけだろうけど」
『……やっぱりその呼び名でいくわけ?』
「そりゃそうとも。みんなで決めただろう?恨みっこなしとも言ったはずさ」
『はぁぁ……』
どうやら呼び名が気に食わないらしい。
ちなみに呼び名を決めた方法はじゃんけんで、一番勝ち残った者が希望した名前に、というルールで彼女は一番最初に負けている。
ちなみに勝ったのは『赤ずきん』のサーちゃん。
彼女曰く、それぞれの役割に沿って名前をつけたらしい。
私は彼女らの実質的な主人な為、マスターと呼ばれる事にはなったが。
……幼女にご主人様って呼ばれるの、現実だったら即お縄だろうなぁ。
そんなバカみたいな事を考えながら、雑談のような会話をしつつ、足を森の奥へと向け歩いていく。
「いいじゃないか、攻撃役だからアーちゃん。分かりやすいし可愛いし」
『だからそれが私にとっては……』
すると、アーちゃんが突然言葉と足を止め、ある一方向……私の背後に当たる方へと視線を向けた。
私は斥候役のスーちゃんへと視線を向けると、首を縦に振り肯定した。
十中八九敵だろう。……もしかしたら他のプレイヤーの可能性は否めないが。
「距離は?」
『約20m程です。まだこっちが気付いているのには気付かれてないかと』
「アーちゃん狙える?」
『……やれなくはない、けど確実じゃないわね。木が邪魔よ』
「オーケー。じゃあカウンター気味に行こうか」
そう言って、私は後方へと振り向いた。
瞬間、何か背筋に氷柱を差し込まれるような悪寒を感じ。
次の瞬間、横からバンッ!という弾けた音と共に何かが私の目の前で倒れる音が聞こえた。
「Grrr……rr……」
『ふん。狼風情が私に勝てると思ってるのかしら』
見れば、いつの間に取り出したのか。
アーちゃんの手には1丁の銃が握られていた。
その銃口からは紫煙が今もなお天へと昇っていっている。
「ヒュゥ。やるねぇアーちゃん」
『……まぁ、普通の狼相手ならこんなものよ。伊達に狼を殺したって経歴背負ってないわよ。ただ、それに使ったの1番威力が低い弾だから……』
アーちゃんが倒れている何かへと近づき、何度か頭部らしき場所へと向かって銃の引き金を引いた。
〈レッサーウェアウルフを討伐しました〉
チャットログにそう表示され、それと同時にアーちゃんの足元から光の粒子が天へと昇っていく。
「おつかれ、人狼か」
『成長しきってないのか、劣等種なのかはわからないけれどこの森にはこんなのがうじゃうじゃいるみたいね』
「アハ、いいじゃないか。君の独壇場だろう?」
『それもそうね。……スー、次はどの方向かしら』
『次は……少し離れた位置、大体10時の方向にいますね』
一瞬で20mという距離を詰めてきた人狼が劣等という時点で、普段ならば頭が痛くなる問題ではあるものの。
今の私には優秀な攻撃役が付いていてくれるため、余裕があった。
『少女と狼』、自身を喰らおうとした狼を殺し生き残った赤ずきんの物語。
そんな物語の登場人物だからなのか、アーちゃんの持つスキルには狼に対して有利に働くようなモノが存在した。
その代表が【女子供を嘗めるな】というパッシヴ型のスキル。
効果は単純、狼系モンスターに対しての行動速度増加、ダメージの微増加という……狼を相手取る為だけのスキル。
今の襲撃に関しても、これによって一瞬で近づいて来た人狼よりも先手を撃ち、無傷のまま勝利したのだろう。
「いいね、じゃあそっちに向かおうか。アーちゃん何体まで相手出来る?」
『今のと同じレッサーなら幾らでも。普通のだったら……そうね、2体までが限度じゃないかしら』
「それはどういう意味で?」
『勿論、貴女を守りながら戦うという意味でよマスター』
なら良し、と私は彼女達と共に森林の奥へと向かって足を進めて行く。
心強い味方が出来たものだと、笑みをこぼしながら。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~
オイシイオコメ
SF
75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。
この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。
前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。
(小説中のダッシュ表記につきまして)
作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。
何なりとご命令ください
ブレイブ
SF
アンドロイドのフォルトに自我はなく、ただ一人、主人の命令を果たすためにただ一人、歩いていたが、カラダが限界を迎え、倒れたが、フォルトは主人に似た少年に救われたが、不具合があり、ほとんどの記憶を失ってしまった
この作品は赤ん坊を拾ったのは戦闘型のアンドロイドでしたのスピンオフです
Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~
霧氷こあ
SF
フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。
それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?
見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。
「ここは現実であって、現実ではないの」
自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる