赤ずきんは童話の世界で今日も征く

柿の種

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第一章

Episode 2

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■赤ずきん

周囲を見渡し、自分と似たような姿をした人らが続々と増えていくのを見つつ、私は少し離れた位置にあったベンチのある公園へと移動していた。
公園、といってもそれっぽく見えるだけの遊具などのないただの広場なのだが。

「まぁ、何をするにもまずはステータスの確認だよね」

冒険するにも、他のコンテンツに手を出すにも、取りあえず自分のステータスというのを確認しておいた方が良いだろう。
視界右上、そこに意識すると出現する歯車をタッチし、プレイヤーメニューを出現させる。
各項目……オプションやログアウト、オンラインヘルプ、ゲーム内掲示板に繋がるそれらをさらっと見つつ、目的であるプレイヤーステータスを出現させた。

――――――――――――――――――――
PN:赤ずきん Lv:1
HP:100 MP:100

【契約】
『赤ずきん:赤ずきん』、【少女と狼:赤ずきん】、『小さな赤頭巾ちゃんの生と死:赤頭巾』

【汎用スキル】
【鑑定Lv1】、【索敵Lv1】、【木工Lv1】、【器用強化Lv1】、【視力強化Lv1】

【所持品】
布の服、布のハーフパンツ、契約の書

【称号】

――――――――――――――――――――

「ふむ?」

他のゲームに存在するような細かいステータス……STR腕力DEX敏捷などがどこにも見当たらない。
HPやMP自体は一応視界に映りこむように緑色と水色のゲージが表示されていたため、存在する事が分かっていたが……それ以外の項目が表示されていないのには何か理由が存在するのだろうか。

そう思い、先程メニュー内に存在したオンラインヘルプを呼び出し関係していそうなステータスに関するヘルプを出現させた。

「……なるほどなるほど?プレイヤー……『紡手リーダー』は前線切って戦う者たちではなく、【契約】によって童話の登場人物を呼び出して戦わせる……言わば司令官のような立ち位置と」

そこには、きちんと他のステータスが存在していない理由も説明されていた。

『紡手』は所謂、他のゲームでいう召喚士サモナー……自分が戦うのではなく、戦う者達を呼び指示する役割を持つ者達。
だからこそ、『紡手』達のステータスにはSTRやDEXのようなものは存在せず、全ての『紡手』達の身体的なスペックは変わらない、らしい。
変わらないからこそ表記自体はしていないものの、オプションから表示させることは出来るとのこと。

「んー。まぁ、表示させなくていいか。変わらないなら表示させててもしてなくても変わらないだろうし」

ちなみにレベルアップで変わるのは、HPとMPの総量と【契約サフス】、スキル数上限とステータスで表示されている部分らしい。
出来ることを増やすならばレベルアップをして汎用スキルや【契約】した童話の登場人物の数を増やすしかない。
経験値が戦闘以外で稼げるかはわからないものの、とりあえずは戦闘メインで進めた方が将来的には楽しめそうだ。

「よし、ある程度把握も出来たし街から出てみましょうか……一回、この子らとも会っておきたいし」

本に手を触れる。
ステータス欄から確認した名前的に、この本が【契約】に関係するアイテムなのだろうというのは分かる。
私が【契約】を結んだ3人の赤ずきん達がこちらの事をどう考えているのかも分からないため、早めに確認しておいた方がいいと考えたのだ。
時計ウサギのように話せるかどうかも分からないが……それも確認すべき項目であるのは確かだろう。

そんなわけで私はすぐに行動を開始すべく、座っていたベンチから立ち上がり街の外の方へと歩き出した。


<ノウーナ平原>

多少街の中で迷いつつも、大半のプレイヤーらしき人達が向かっていく方向へついていくこと暫く。
街門の外に出ることが出来た。
広がっていたのは自然豊かな平原で、所々で戦闘らしき音や爆発が生じている。

街門の近くだからか人はそこまで集まっていないものの、少し離れた位置には私と同じように【契約】した童話の登場人物たちを確かめようと本を開いている人たちも多く見られた。

「んんー、流石にここらへんで確かめるのは人の目が気になるなー……と。良いところに森があるじゃないか」

昔長いことやっていたゲームの時からの癖なのか、自分の選んだ【契約】をあまり人前で披露したくないと考えた私は、どこか人目を遮れるものはないかと目を凝らし周囲を見渡したところ、少し離れた位置に森の入り口が存在しているのを見つけることができた。

そちらに向かうプレイヤーは0というわけではないものの、それでもこの平原に比べればかなり少ない。
……ん、【視覚強化】の影響かな。かなり遠くまで見れる。

街の中では分からなかったが、意識して見ると全然違う。
見たいと思った物が、まるでカメラのズーム機能の様に段々と拡大されて見やすくハッキリ見えてくる。

「ま、スキルの方の検証とかは後回しでいいかな」

私は1人そうやって呟いた後に森に向かって歩き出した。
モンスターの類に遭遇し戦闘になるかと思ったが、平原のプレイヤー数が多いからか私が森の入り口に辿り着くまでにそういったモノらに遭遇することはなかった。

しかし、妙なことが1つある。
それは森の入り口の周囲にプレイヤーらしき者らが集まっているものの、誰もが中に入ろうとはしないのだ。

「ちょっといいかい?」
「……ん?あぁ同じプレイヤーか?」
「そうそう。赤ずきんってネームだよ、よろしく。……で、質問いいかな?」
「童話メインのゲーム、しかもこの森の近くでそのネームか……スキニットだ、よろしく。質問か?答えられることなら答えるが……」

取り敢えず近くにいたスキンヘッドの男性プレイヤー……スキニットというらしい彼へと話しかけた。

「あー大丈夫。君の【契約】とかについて聞くつもりはないんだ。なんで皆、森の中に入らないのかなって思ってね?」
「成る程。単純な話でな、この森にゃ目で追えないくらいの速さで襲ってくるモンスターがいるんだよ。詳しくは掲示板の方に載ってるはずだから、そっち確認してみな」
「ふむ、ありがとう。何かの縁だしフレンド登録しておこうか」
「オーケー。これからよろしくな」

こちらこそと笑顔で返した後スキニットから少し離れ、言われた通りに掲示板を確認する。
掲示板は雑談目的や攻略目的、ゲーム内コンテンツ別にスレッドが分けられており、今回は注意喚起が載っていそうなベータテスト関係のスレッドを読んでみることにした。
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