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第7章

Episode 10

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『惑い霧の森』に戻ってきた私がまずした事は、全力でその場から離れる事だった。
というのも、図書館から戻ってきた場所は『惑い霧の森』でも深層と言われる場所で。
手に入れたものを確認するにも、ゆっくりするにも向かない場所であったからだ。
それに、時刻的には図書館に飛ばされてからさほど時間が経っていなかったためか、周囲の敵性モブ達も活性化しており……つまるところ、私の事を認識している複数の群れが向かってきていたのも理由だろう。

『で、私の所に来たと』
「そうなります」

ふよふよと浮かぶ『白霧の狐憑巫女』に返事をしながら、私は『禁書棚』を出現させるかを考える。
まず問題なく出現させることは出来るだろう。
だが、深層のボスエリアという場所の問題も存在している。
……単純に空気中の魔力が多いんだよなぁ。

『The envy first tale』……構築された魔術言語内に安全装置というべきものが付いていないそれらは、もしかしたら空気中の魔力にも反応してしまう可能性がある。
だが一番の問題はそこではなく……私にも理解できていない魔術言語が多数存在している事だろう。
別に私は魔術言語の専門家ではない。学者でもないし、別段知らないモノが存在しているのは問題ではない。
空気中の魔力に反応し、よく分からない現象が引き起こってしまう可能性がある、というのが問題なのだ。

「なのでこれから所謂、爆弾解体作業をしようかと思いまして」
『……本当にここでやるんですか?』
「あは、ここなら変なのが出てきても巫女さんが居ますし」
『あの、私の事便利な近所のお姉さんだと思ってたりしませんか……?』

思っている。それも荒事に強いタイプのお姉さんだと思っている。
だがそれを口にはせずに、私は『禁書棚』を呼び出した。
正直魔術言語関係に関しては、『白霧の森狐』に知られても良い情報だ。
というのも、私が構築している魔術言語は基本的に『言語の魔術書』教科書に載っていた単語を独自に組み合わせているため、もしもこの状況が視られていたとしても実際に戦闘中に構築するものは別のモノになる可能性が高い。
というか確実に別のモノとなるだろう。

周囲の霧を操り、出来る限り出現した『禁書庫』の近くから遠ざける。
別段ここでは狐面を使ってはいないものの、ダンジョンの影響か魔力を含む霧が立ち込めているからだ。

「では、南無三ッ!」
『縁起でもない……』

手に取った『The envy first tale』の表紙を開く。
1ページ目には何も書かれていないただの羊皮紙だ。
だが、その次のページからは違う。魔術言語がページ毎にびっしりと書かれているため、読むには向かないそれを、何とか頭から読んでいこうとすると、

「げっ」
『アリアドネさん!?』

早速ページが光り出し、何かしらの魔術言語が起動してしまったようだった。
だが、不思議と私に危機感はなかった。
否、正しく言うならば焦ったのは一瞬で、その後は起動した魔術言語の効果が把握出来たために逆に安心出来た、というべきだろう。

光り出したページからは、魔術言語が浮かび上がり。
そしてある形を象っていく。最初は長方形のように集まったそれらは、徐々にディティールが足されていき、最終的に見覚えのある形へと落ち着いていく。

「あー、大丈夫ですよ巫女さん」
『いや、でも……』
「大丈夫大丈夫、ある種専門家というか使い魔というか……まぁそういうのですから」

私の身体に巻き付くように。
記憶にある姿からは2回りほど大きくなったそれに溜息を吐きつつも、頬を緩ませる。

「でしょう?蛇さん」
『――呵々、アリアドネは話が早くて助かる』

蛇の口が開き、少女の声が深層の境内へと響く。
忘れるわけがないその声は、つい最近聞いたものだ。

『えぇっと……?』
「紹介します。こちら【嫉妬の蛇】……魔術言語な蛇さんです」
『固有名は無い故、自由に呼ぶと良い!』
『えぇ……?』

【嫉妬の蛇】、私が試練で出会ったあの蛇が『The envy first tale』のページを介して通常の世界へと出現したのだった。
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