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第6章 雷鳴轟く瘴気の大地にて

Episode 51

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『ふ、フフッ……あぁいつぶりだろうか……我がここまで血を流したのは……』

フールフールは立ち上がる。
切り飛ばされた足が再生したわけではない。
足の代わりに瘴気を集め義足のようにしているのだ。

『ふむ、貴様らも既に満身創痍。……次の一撃で最後にしよう』

瘴気の騎士を再度出現させた牡鹿は、瘴気と雷を全身に纏う。
言葉通り次の一撃で最後にするのだろう。
しかしながらその言葉には違和感がある。
……今までも十分灰被りさんは疲れてた。それでも止めなかったのに、今更……?

「本当に一撃で最後にするので?」
『あぁ。……我のこの身体もそう永くない』
「あ、分体とか言ってましたねぇ?……成程、外の方で何かありましたか」

私の言葉にフールフールは何も反応を返さない。
だが無言は時にどんな言葉よりも明確な答えを返してくれる。
この場合は、本当に外で……荒野の方で戦っているプレイヤー達とフールフールの本体との戦闘が始まったとかその辺りが理由だろう。
兎も角、私達に割いているリソースすらも惜しくなってきたのだ。

それと共に最大のチャンスがやってきたのを理解した。

「じゃあ行きます」
「えぇ行ってください……『我の眷属は友の剣を支えよう』。『我は友の為に剣を振るう』、『我の剣を阻む障害を切り裂こう』」

灰被りの声を待たず、右手に『面狐』を持ち直し。私は足を踏み鳴らして距離を詰めるべく走りだした。
私の周囲に圧縮し留めていた霧が、動作行使によって発動させた【衝撃伝達】が喰らうようにして衝撃波へと変えていく。
牡鹿との距離が一瞬でゼロとなり、灰被りが宣言した首を通り過ぎ背後へと辿り着く。
しかしそれでは幾ら灰被りの援護があろうとも首を切りつけることは出来ない。
だからこそ私は。この塔の戦いの中ですっかり構築に慣れてしまった『脱兎之勢』を使い、無理やりに身体の向きを反転させた。

そこで私の方へと2種類の色が迫ってきているのが分かった。
灰被りの灰、瘴気の紫の2色だ。
灰は二手に分かれ、一方は私の持つ『面狐』へ。もう一方は牡鹿に首輪のように移動していく。

「くッ……」

そして瘴気は、その形を巨大な龍へと変え私へとその大きな口を広げ襲い掛かってきた。
普段ならば簡単に避ける事が出来る一撃。
しかしながら、今私は身体を反転させた勢いによって細かい移動が出来るような状態ではない。
集中しているからか、異様に長く感じる一瞬の中で。
私は1つの選択をした。

「腕さえ振るえるなら、それでいいッ!」

細かい移動が出来ないならしなければいい。避ける事が出来ないならば避けなければいい。
瘴気の龍の右横をそのまま通り過ぎた。
瞬間、私の左腕は瘴気の龍の巨大な口に持っていかれてしまう。
それに伴いHPは大きく減るものの、出血することはない。【血狐】がすぐに自身の身体をもって止血したからだ。
……死に安ッ!

そして牡鹿の首の真横へと辿り着き、

「【魔力付与】ォ!」
『オォオオオッ!』

右手に持った『面狐』を、灰と私自身の魔力の膜によって再び大剣へと変わったそれを振るう。
だがフールフールもそれを素直に喰らう程に馬鹿ではない。
いつの間にか牡鹿の背に出現していた瘴気の騎士が、先ほどと同じように槍を持ち。
その槍に雷を纏わせて私へと突き出してきたのが見えた。
だが、見えただけで対応はしない。する必要がないのではなく、先ほどの瘴気の龍と同じように、対応をするつもりがないのだ。

『面狐』を振るう。
それと共に私の身体は貫かれ。その瞬間に身体の中で瘴気の槍が纏った雷と共に爆発した。
私の身体の内側がズタズタに破壊される。
ただ破壊されるだけではない。破壊された端から雷によって肉すらも焼いていく。
だが振るえた。『面狐』を振るうことが出来た。

『……ふ、ふふ。致命的な部分までは焼き切れんかったか』

ボトリと牡鹿の首が床へと落ちる。
灰被りの魔術によって外皮が足のように剥がれ、強化された私の『面狐』によって断たれたそれは、未だ口を動かし喋り続ける。

『分体ではここまで。……良き、戦いであった――』

私のHPはその言葉を聞いた所で尽きてしまい、その後は聞くことが出来ない。
しかしながら、私は1つ分かっている事がある。
灰の塔、そこに居た牡鹿の悪魔を殺す事が出来たのだ、と。
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