253 / 269
第6章 雷鳴轟く瘴気の大地にて
Episode 49
しおりを挟む当然、フールフールも殴られ続けているだけではない。
灰被りは兎も角として、私に対して雷撃は効果が薄いとみたのか。
瘴気を剣や槍、時にはただただ細長い触手のように成形しこちらを攻撃してくる……のだが。
幾ら魔術寄りとは言え、実体を持つ攻撃では【血狐】の鎧にその威力の大幅な部分を打ち消されてしまう。
こちらを拘束しようとしてくる瘴気の触手なんて、そもそも私の身体に辿り着く前に血の中で圧縮されてしまい、形を保てずに崩壊していく。
だがそんな状況は長く続かない。
突然フールフールが低く唸り始めたかと思えば、周囲の瘴気が牡鹿の身体へと急速に集まり。そして爆発する。
物理攻撃、一撃の重いダメージなどに対して私は何とか出来る。
しかしながらその時、フールフールから発せられたものはそのどちらでもなかった。
衝撃波。
自身の【衝撃伝達】でそれを喰らうのには慣れているとはいえ、それでも。
その衝撃波は大きく私と灰被りをその場から弾き飛ばした。
「くっ……」
「大丈夫ッ!」
ダメージ自体は問題ない。
そもそも衝撃波にダメージがあった所で【血狐】によって身体に影響する形では徹らない。
だが【魔力付与】によるダメージ無効化と同じように、私は運動エネルギーによる移動は防ぐことが出来ない。
灰被りはそういうものにも対策はあるのだろうが……しかしながら。
現状として、彼女は私と同じように弾き飛ばされている。
「大丈夫って……効いてないじゃないですか、貴女の攻撃!」
「……?」
何とか空中で体勢を整えながら受け身を取る。
【血狐】も手伝ってくれている為、そのまま私は立ち上がりフールフールに取らされた距離を再度詰めるべく走り出す。
距離は5メートル程だ。そこまでの距離ではなく、数秒も掛からず辿り着ける事だろう。
しかしながら戦闘中の数秒は長すぎる。
特に避けられるとはいえ、相手は光よりも速い雷を扱う悪魔なのだ。
距離は出来る限り短く。手が触れられる距離程度の方が良いのだから。
「いえ、そもそもとして。私の攻撃はここからですので」
「は……?」
その声に、私は一瞬だけ振り返ろうとしてしまう。
しかしながら既にフールフールとの距離はほぼゼロに近く、ここで振り返ってしまえば敵に対して背を向けてしまう事になる。
灰被りの言葉の意味は分からない。だが彼女の声は力強く、虚勢で出しているものではないように聞こえた。
なら私はそれを信じるしかない。何せ、私の攻撃手段である【衝撃伝達】は内部にダメージを確実に与えているはずなのだが……フールフールがそれに堪えているいるようには見えないのだから。
……【魔力付与】でもう一回。さっきみたいに避けられないと良いけど……。
それならば攻撃方法を切り替える。
近場に寄ってきた私に対して、フールフールは油断なく。
再度、先ほどと同じように瘴気を使った攻撃を繰り出してくるものの、それ自体はほぼ問題はない。
面倒ではあるがダメージ自体は回復が追いつくレベルなのだから、意識は最低限向ける程度だ。
私は『面狐』を振り上げ、動作行使によって【魔力付与】を纏わせる。
形状は先ほどの盾と違い、まるで短剣を直剣のように扱うために刃渡りを伸ばす形に。
「『我は友の為に剣を振るう』」
瞬間、私の周囲に灰が寄ってきた。
否、寄ってきたのではない。元々そこに在った所へと私が突っ込んだのだ。
灰は空気中に漂いながら集まり形を変える。
最初は長方形に、そして徐々に剣の形へと変わっていった。
「『我の剣を阻む障害を切り裂こう』」
声が響く。
詠唱や奏上のようにその声には魔力が宿っているものの、言霊のように無秩序な込め方ではない。
方向性が決められている。目的に沿って行使されている。
それの行き先は、フールフールの叫び声によって示された。
『き、貴様……ッ!我の外皮を剥ごうと言うのか!?』
水音が聞こえだす。
私の居る方向ではなく、先ほどまで灰被りが居た方向からだ。
そちらへと視線を向けてみれば、そこには紫色の液体がフールフールの足元に水たまりを作り出していた。
それを見た瞬間、深く考えずに私は『脱兎之勢』によって移動する。
傷が出来ているならば、そこに攻撃した方がより深いダメージを与えられるのだから。
「『我の眷属は友の剣を支えよう』」
再度声が聞こえた。
声に込められた魔力は灰を伝い、そして私の持つ『面狐』に、【魔力付与】による膜に纏わりついていく。
半透明だった膜が灰によって色づいて、直剣というよりは大剣と言うべき程に刃幅が広くなっていった。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
アンドロイドちゃんねる
kurobusi
SF
文明が滅ぶよりはるか前。
ある一人の人物によって生み出された 金属とプラスチックそして人の願望から構築された存在。
アンドロイドさんの使命はただ一つ。
【マスターに寄り添い最大の利益をもたらすこと】
そんなアンドロイドさん達が互いの通信機能を用いてマスター由来の惚気話を取り留めなく話したり
未だにマスターが見つからない機体同士で愚痴を言い合ったり
機体の不調を相談し合ったりする そんなお話です
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」
思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。
「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」
全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。
異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!
と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?
放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。
あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?
これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。
【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません
(ネタバレになるので詳細は伏せます)
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載
2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品)
2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品
2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位
グラッジブレイカー! ~ポンコツアンドロイド、時々かたゆでたまご~
尾野 灯
SF
人類がアインシュタインをペテンにかける方法を知ってから数世紀、地球から一番近い恒星への進出により、新しい時代が幕を開ける……はずだった。
だが、無謀な計画が生み出したのは、数千万の棄民と植民星系の独立戦争だった。
ケンタウリ星系の独立戦争が敗北に終ってから十三年、荒廃したコロニーケンタウルスⅢを根城に、それでもしぶとく生き残った人間たち。
そんな彼らの一人、かつてのエースパイロットケント・マツオカは、ひょんなことから手に入れた、高性能だがポンコツな相棒AIノエルと共に、今日も借金返済のためにコツコツと働いていた。
そんな彼らのもとに、かつての上官から旧ケンタウリ星系軍の秘密兵器の奪還を依頼される。高額な報酬に釣られ、仕事を受けたケントだったが……。
懐かしくて一周回って新しいかもしれない、スペースオペラ第一弾!
「メジャー・インフラトン」序章3/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 FIRE!FIRE!FIRE!No2. )
あおっち
SF
とうとう、AXIS軍が、椎葉きよしたちの奮闘によって、対馬市へ追い詰められたのだ。
そして、戦いはクライマックスへ。
現舞台の北海道、定山渓温泉で、いよいよ始まった大宴会。昨年あった、対馬島嶼防衛戦の真実を知る人々。あっと、驚く展開。
この序章3/7は主人公の椎葉きよしと、共に闘う女子高生の物語なのです。ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。
いよいよジャンプ血清を守るシンジケート、オリジナル・ペンタゴンと、異星人の関係が少しづつ明らかになるのです。
次の第4部作へ続く大切な、ほのぼのストーリー。
疲れたあなたに贈る、SF物語です。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる