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第6章 雷鳴轟く瘴気の大地にて

Episode 47

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……単純に考えるなら、クールタイムがあるタイプ。まぁでも、それが妥当だとは思うけど。
叫び声をあげながら雷を周囲へと放ち始めたフールフールに対し、私は余裕をもってそれを避け続ける。
やっている事はここに来るまでにやった事の焼き増しのようなものだ。
直撃する一瞬前に察知し、そして高速で移動してそれを避ける。
これを繰り返し続けるだけの、言うは易く行うは難しを地で行く行為。
しかしながら、それを行えるだけの自力も環境も整っているのだからやるしかないだろう。

「うぅん。時間掛けたらまた抜けられるよねぇ……」

既に私がこの戦闘に参加してから3分以上が経とうとしている。
回転率が良い能力ならば既に使ってきていてもおかしくはない時間だ。
しかしながら、それはないと自分の中で否定する。
メタ的に、ゲーム的に考えて……条件はあるのかもしれないが、攻撃や拘束などを完全に回避する事が可能な能力をそんな短時間で再使用可能にするとは思えない。
短時間で再使用できるようにするにしても、HPを削るなどのハイリスクな能力でない限りはあり得ないだろう。

私が分からない形でコストを支払っていた場合は分からないが、恐らくはあと少し……最低でも更に3分程は拘束したままに出来るとは思う。

「灰被りさんっ!」
「……すいません、回復終わりました。待たせました」

だが、それだけ時間があるならばこちらは切り札や鬼札を切る事が出来る。
確かに私は堅い外皮など関係なく、体内へと攻撃する術を持っている。
今はフールフールの拘束に力を割いている【血狐】を筆頭に、相手の体内へ【路を開く刃を】による霧の刃や、柔らかいであろう眼球などに向かって【ラクエウス】の霧の槍などを。
そして私自身による格闘に【衝撃伝達】の衝撃波を乗せれば、外側は難しくとも内側は破壊することが出来るだろう。
しかしながら、そのどれもがフールフールという私の二回り以上大きな身体を持つ相手に対して使うにはハイリスクなのだ。

拘束が出来る【血狐】を攻撃へと回せば、その分だけ術者である私が狙われる。
【路を開く刃を】や【ラクエウス】は、そもそも敵を捉えられねば意味がない。
格闘による【衝撃伝達】などもってのほかだ。巨大な相手に近づくだけでも潰されるリスクがあるというのに、そんな相手に通用するような格闘技を私は習得していないのだから。
だからこそ、今回私はそのどれもを選ばない。
否、【路を開く刃を】と【ラクエウス】自体は今も発動させてちまちまと攻撃に使ってはいるものの、これを本命にはしない。

では一体何をこの戦闘の本命にするのか?
その答えは私の背後から聴こえてくる。

「『祖は常闇に伏せ』、『師は霧へと消えてしまう』」

歌うような声。
しかしながら、以前霧が満ちる境内で聴いた時よりも力強く、まるで世界に宣言するかのような意志が言葉の節々から感じる事が出来る。

「『ならば我は』、『我はこの身を捧げ灰となろう』」

濃い白の霧が満ちる灰色の部屋の中。
空気中に、部屋の色が混ざり始める。

「『これは我が罪』『我が背負うべき業の具現也』」

宣言は魔力に、魔力は魔術へと変化していく。
だが以前聞いた時とは違い、灰被りの言葉はここで止まらない。

「『しかし我は』、『我はこの罪を友の為に世界あなたへ見せつけよう』」
『ぐ、ぅ……ッ!させるかッ!!』
「しまっ……!」

私の知る【灰の女王】の詠唱ではない。
それに気を取られ、一瞬フールフールへの注意を緩めた瞬間。
悪魔の将軍は濃い紫色の瘴気を大量に発生させ、灰被りの方へと迫らせる。
私は瞬間的に『脱兎之勢』を構築し、灰被りの盾になるべく後方へと一足飛びに移動しようとして……目を見開いた。

「――大丈夫。もう十分ですから」

直接触れたらどんな効果があるか分からない瘴気。
しかしながら、それは盾になりに行こうとした私はおろか、標的になったはずの灰被りにも触れる事はなく灰へと変わる・・・・・・

「【灰の女王】派生、【灰の姫騎士】」

瘴気と霧、その2つが浸食されていくかのように灰へと変わる。
そうして見えてくるのはいつもの赤い頭巾を被った軽装ではない。

長い灰色の髪が、空気中の灰と共に舞う。
灰で出来ていると思われるフェイスヴェールを付け。
その上半身には時折ノイズが走るかのように輪郭がブレる灰色のプレートアーマーが。
下半身には同じく灰色のスカートを穿いていた。
しかしながら、私の目を惹いたのは彼女の右手に握られている灰の直剣だった。
灰被りには悪いが、『姫騎士』というよりは『女騎士』と言った方がしっくりくる凛々しい立ち姿だ。

『……瘴気を灰に変えた程度で調子に乗るではないか』
「違いますよ。この魔術を発動出来たから調子に乗っているのです」
「あ、調子には乗ってるんですね……」

何をするにしても、彼女の近くに立った方がやりやすいだろう。
そう考え、私は前へと踏み出そうとして止めていた足を動かし灰被りの前ではなく横へと。
並び立つように移動する。

「合わせてもらっても?」
「大丈夫ですよ、灰被りさんの好きなように動いてください。勝手に良い所で攻撃入れてみるんで」
「ありがとう」

そこまで言った所で、フールフールの姿が空気中へと溶けていく。
クールタイムが明けたのかどうかは分からないが、それでも【血狐】の拘束を抜けられたのは確かだ。
対象が居なくなった【血狐】はその形を崩しつつ、私達の方へと寄ってくる。
その姿に少しだけ頬を緩ませながら、そのまま私の身体に纏わせるように誘導し……私の姿も、赤黒いながらも騎士のように変化する。
2人の騎士、そして対峙するは瘴気の悪魔。

「今までは長い長い前哨戦……始めましょう」

再び瘴気が牡鹿を象り始める。
その隙を逃さないように灰被りが走っていくのを、ワンテンポ遅れる形で私が続く。
これまでの共闘経験から、彼女が瞬間的に移動するタイプの魔術を習得していない、もしくは戦闘中に使わない事は分かっている。
だからこそ、速度をある程度自由に変化させられる私が後ろから行った方が攻撃を合わせやすいのだ。
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