上 下
240 / 269
第6章 雷鳴轟く瘴気の大地にて

Episode 36

しおりを挟む

「おっ、ととと。ありがとう【血狐】」
『――周囲警戒』
「うん、お願い」

赤黒い波に乗せられ、辿り着いた『惑い霧の森』。
その前には数人の見知ったプレイヤーが、急に空から降ってきた私達に向けて警戒していたものの。きちんと姿を見せた後は「いつもの事か」と言わんばかりに、こちらへの関心は薄くなった。
まぁこちらとしてもそれくらいの方がやり易く、地主として敬意を必要以上に払われるよりはずっと良い。

兎も角。
そんな風に到着した私の方へと1人のプレイヤーが近寄ってきていた。
見る限り、普段からうちのダンジョンで活動している『駆除班』の1人だ。

「アリアドネさん」
「ん、お疲れ様。色々始まってるみたいだけど行かなくて良いの?」
「行きたいのは山々ですよ。……貴女のパーティメンバーの方から伝言を預かっていたので」

苦笑を浮かべながらそう言われ、こちらとしては申し訳ない気持ちとなってしまう。
彼のためにもすぐに用件を済ませた方が良さそうだ。

「伝言って?」
「フィッシュさんから『先に行って待ってる』、灰被りさんからは『目印を出し続けるのでそこで合流しましょう』との事です」
「成程……ごめんね、ありがとう」
「いえ、いつも世話になってるんで。では」

『駆除班』の彼は短くそう伝えるとその場から消えていく。
恐らくは特殊エリアへと転移したのだろう。
私も後に続くように、メニューウィンドウを操作し、先程街で出現した転移確認を再度表示させ、

「じゃ、行こうか」

転移する。
と言っても、体感的には一瞬の出来事だ。
電子的なルートを通ることも、不穏な道を歩く事もなく、視界は一瞬で切り替わる。
先程まで居た、霧が湧き出る森の入り口の近くではなく。
私は、見た事のない荒野へと転移していた。
近くには……とりあえずは敵も、味方であろうプレイヤー達の姿もない。

空は黒い雲で覆われ、今が昼か夜かも分からない。
しかしながら、少し離れた位置から爆発音が鳴り響き、雷光にも似た光が断続的にではあるがこちらにまで届いている。

「……あれだろうなぁ」

そんな中に1つだけ……というよりは。
分かりやすくあれだろうというべき目印・・が私には見えていた。
それは、

「灰の塔、かぁ。アレ魔術で作ってるんだとしたら何をどうやってるんだろう」

灰色の塔。
爆発や雷、それ以外の余波に負けずに荒野に聳え立つ1本の塔。
それは、時折周囲へと何か粉のようなものを撒き散らしているのが見えた。
恐らくはアレが灰被りの言う『目印』であって……彼女の持つ広範囲殲滅型の攻撃魔術なのだろう。
そして前線というべき現場の状況は、そんな魔術を使う程には忙しいという事だ。

私は狐面から自分の周囲へと一気に霧を引き出すと、詠唱を開始する。
見えているのならば、そして周囲に邪魔をするような障害物がないのならば……私の持つ移動魔術はその真価を発揮するのだから。

「【霧式単機関車】封印オール解除アボード。あの見える塔まで、出発進行」
『承りました、創造主様』

出現すると同時に乗り込み、コンダクターに指示を出す。
その瞬間、私の身体には息をするにも苦しい程の強烈な重力が掛かった。
文字通りの全力疾走。今までの【霧式単機関車】で出していた速度は乗り込んでいた私や、他の面々に気を使った速度だったのだろう。
しかしながら、今回に限ってはそうではない。
状況が状況、それがコンダクターにも分かっているのか……私をあくまで最速・・で目的地へと辿り着かせようとしてくれているのだ。

当然、私もただ前方から掛かる重力に耐えているわけではない。
転移の影響で切れてしまったバフのかけ直しや、これから必要になるだろう手札の確認を手早く行っていく。

「【霧狐】……あとは、魔術言語のストックかな。多分『狐群奮闘』辺りは使うだろうし……カルマ値上がるだろうな、ぁッ……!?」
『異常確認。急停止します』

インベントリを開きつつ、そう呟いた瞬間。
【霧式単機関車】の車内が大きく揺れ、コンダクターの言葉で単機関車自体が停止する。
それはあたかも走行中のこの単機関車の側面に何かがぶつかったかのような衝撃だった。
恐る恐る、『面狐』を構えつつ外に出て確認してみると……そこには1人の女性の姿があった。

「いっつつ……ん?あ、アリアドネちゃんじゃん」
「フィッシュさん……?いや、それより傷!」

恐らくは前線から吹き飛ばされてきたのだろう。
単機関車の側面にぶつかった彼女の身体は、無事な所を探した方が早いと思う程には傷付いていた。
そんな彼女を抱き起こし、ひとまずはインベントリ内に入っているHP回復系のアイテムを使用していく。

「あーありがとう。いやぁ、結構敵が強くてねぇ」
「一応聞きますけど、ボスですか?」
「ボスだねぇ。ボスが取り巻きを出現させるタイプっていった方が適切かな……兎に角、私はボスに殴られてここまで吹っ飛ばされた感じだねぇ」
「成程……ちなみに移動中だったんですけど、ここって結構もう近い感じですか?」
「ん?あぁ――」

徐々に傷が塞がっていく彼女は、私に向かってにっこりと笑いかけつつ。

「近いというか、ほぼほぼ前線だぜ。もう」
「へっ?」

直後、強い衝撃が再度私達を襲った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あやとり

吉世大海(キッセイヒロミ)
SF
人類は世界を宇宙まで進出させた。  地球の「地上主権主義連合国」通称「地連」、中立国や、月にある国々、火星のドームを中心とする「ゼウス共和国」で世界は構成されている。  そして、その構成された世界に張り巡らされたのがドールプログラム。それは日常生活の機械の動作の活用から殺戮兵器の動作…それらを円滑に操るプログラムとそれによるネットワーク。つまり、世界を、宇宙を把握するプログラムである。  宇宙の国々は資源や力を、さらにはドールプログラムを操る力を持った者達、それらを巡って世界の争いは加速する。   ・六本の糸  月の人工ドーム「希望」は「地連」と「ゼウス共和国」の争いの間で滅ぼされ、そこで育った仲良しの少年と少女たちは「希望」の消滅によりバラバラになってしまう。  「コウヤ・ハヤセ」は地球に住む少年だ。彼はある時期より前の記憶のない少年であり、自分の親も生まれた場所も知らない。そんな彼が自分の過去を知るという「ユイ」と名乗る少女と出会う。そして自分の住むドームに「ゼウス共和国」からの襲撃を受け「地連」の争いに巻き込まれてしまう。 ~地球編~ 地球が舞台。ゼウス共和国と地連の争いの話。 ~「天」編~ 月が舞台。軍本部と主人公たちのやり取りと人との関りがメインの話。 ~研究ドーム編~ 月が舞台。仲間の救出とそれぞれの過去がメインの話。 ~「天」2編~ 月が舞台。主人公たちの束の間の休憩時間の話。 ~プログラム編~ 地球が舞台。準備とドールプログラムの話。 ~収束作戦編~ 月と宇宙が舞台。プログラム収束作戦の話。最終章。 ・泥の中 六本の糸以前の話。主役が別人物。月と宇宙が舞台。 ・糸から外れて ~無力な鍵~  リコウ・ヤクシジはドールプログラムの研究者を目指す学生だった。だが、彼の元に風変わりな青年が現われてから彼の世界は変わる。 ~流れ続ける因~  ドールプログラム開発、それよりもずっと昔の権力者たちの幼い話や因縁が絡んでくる。 ~因の子~  前章の続き。前章では権力者の過去が絡んだが、今回はその子供の因縁が絡む。 ご都合主義です。設定や階級に穴だらけでツッコミどころ満載ですが気にしないでください。 更新しながら、最初から徐々に訂正を加えていきます。 小説家になろうで投稿していた作品です。

アンドロイドちゃんねる

kurobusi
SF
 文明が滅ぶよりはるか前。  ある一人の人物によって生み出された 金属とプラスチックそして人の願望から構築された存在。  アンドロイドさんの使命はただ一つ。  【マスターに寄り添い最大の利益をもたらすこと】  そんなアンドロイドさん達が互いの通信機能を用いてマスター由来の惚気話を取り留めなく話したり  未だにマスターが見つからない機体同士で愚痴を言い合ったり  機体の不調を相談し合ったりする そんなお話です  

「メジャー・インフラトン」序章3/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 FIRE!FIRE!FIRE!No2. )

あおっち
SF
 とうとう、AXIS軍が、椎葉きよしたちの奮闘によって、対馬市へ追い詰められたのだ。  そして、戦いはクライマックスへ。  現舞台の北海道、定山渓温泉で、いよいよ始まった大宴会。昨年あった、対馬島嶼防衛戦の真実を知る人々。あっと、驚く展開。  この序章3/7は主人公の椎葉きよしと、共に闘う女子高生の物語なのです。ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。 いよいよジャンプ血清を守るシンジケート、オリジナル・ペンタゴンと、異星人の関係が少しづつ明らかになるのです。  次の第4部作へ続く大切な、ほのぼのストーリー。  疲れたあなたに贈る、SF物語です。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」  思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。 「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」  全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。  異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!  と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?  放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。  あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?  これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。 【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません      (ネタバレになるので詳細は伏せます) 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載 2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品) 2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品 2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限
ファンタジー
 俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。  人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。  そんな俺は、突如病に倒れ死亡。  次に気が付いたときそこには神様がいた。  どうやら、異世界転生ができるらしい。  よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。  ……なんて、思っていた時が、ありました。  なんで、奴隷スタートなんだよ。  最底辺過ぎる。  そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。  それは、新たな俺には名前がない。  そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。  それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。  まぁ、いろいろやってみようと思う。  これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。

ゲームで第二の人生を!~最強?チート?ユニークスキル無双で【最強の相棒】と一緒にのんびりまったりハチャメチャライフ!?~

俊郎
SF
『カスタムパートナーオンライン』。それは、唯一無二の相棒を自分好みにカスタマイズしていく、発表時点で大いに期待が寄せられた最新VRMMOだった。 が、リリース直前に運営会社は倒産。ゲームは秘密裏に、とある研究機関へ譲渡された。 現実世界に嫌気がさした松永雅夫はこのゲームを利用した実験へ誘われ、第二の人生を歩むべく参加を決めた。 しかし、雅夫の相棒は予期しないものになった。 相棒になった謎の物体にタマと名付け、第二の人生を開始した雅夫を待っていたのは、怒涛のようなユニークスキル無双。 チートとしか言えないような相乗効果を生み出すユニークスキルのお陰でステータスは異常な数値を突破して、スキルの倍率もおかしなことに。 強くなれば将来は安泰だと、困惑しながらも楽しくまったり暮らしていくお話。 この作品は小説家になろう様、ツギクル様、ノベルアップ様でも公開しています。 大体1話2000~3000字くらいでぼちぼち更新していきます。 初めてのVRMMOものなので応援よろしくお願いします。 基本コメディです。 あまり難しく考えずお読みください。 Twitterです。 更新情報等呟くと思います。良ければフォロー等宜しくお願いします。 https://twitter.com/shiroutotoshiro?s=09

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...