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第6章 雷鳴轟く瘴気の大地にて
Episode 30
しおりを挟む『……今度、狐の女子とは我の腹の扱いについて話をした方が良いようだな』
「ふぅ……腹をぶち抜いてもそんな風に喋れるアンタに遠慮は要らないと思うけど?」
『そういう事ではない……』
腹から転がり出た私は、そのまま【血狐】にアシストされる形で体勢を整え、こちらへと声を掛けてきた『瘴侵の森狐』へと向き直る、のだが。
ここで馬鹿狐に大きな変化が起きていた。
瘴気に侵されていた影響だと思われる、角や燃えていた尾などが消え、普段の『白霧の森狐』の姿そのままになっていたのだ。
当然、私が出てきた辺りの腹からは今も血やそれ以外の体液が漏れ出ているが、それだけだ。
「……第二ラウンドって感じ?」
『そういう事だ。寧ろここからが本番と言えよう。……聞くが、女子達が参加している饗宴に関係する部分はここまでで終了したとも言える。だが……まだ、やるか?』
言うや否や、狐の身体からは先程よりも強いプレッシャーのようなものを感じ始める……が、しかし。
私は腹の中で浮かべた笑みそのままに、
「やらないとでも?」
『そう言うと思ったぞ』
そこからは言葉は要らない。
お互いに無言で、しかしながら私は自己強化を含めた、自身の扱うことの出来る魔術を複数発動させつつ、【血狐】を足代わりに移動を開始する。
対して『白霧の森狐』はと言えば……動かない。
否、既に動けないのだろう。
見れば、相手のHPバーはほぼ空となっており、1割強残っているそれも、腹からの出血のせいか急速に減っていっているのが見えた。
つまりは、次の一撃がお互いにとって最後の一撃。
ならば、小細工は要らない。
私は【血狐】にこの後どうするかの指示をした後、改めて『面狐』を構え直し狐面へと触れる。
瞬間、私の身体は『白霧の森狐』へと向かって加速した。
【血狐】がその身体を波へと変え、さながら海で波に人が攫われるように私の身体を前方へと向かって加速させている。
対して、狐は……それを見るや否や、周囲に漂う濃い霧を集め、纏い、自身の身体を半ば霧と一体化させつつこちらへと向かって走り出す。
一見、ただの突進にしか見えないものの……今まで繰り返してきた突進とは明らかに違うのだけは感覚的に分かった。
だが、それだけだ。
私は狐面から、『白霧の森狐』が纏っている霧に近い濃度の霧を引き出しながら。
それを剣状に『面狐』に纏わせ、
「【魔力付与】ッ!」
『――ァ!!』
お互いの影が交差した。
一瞬だけの攻防、『面狐』を振り終わった私の身体は……ほぼほぼ半身が噛み千切られ、死体といっても差し支えない程に損壊している。
だがしかし、
「げほっ……この勝負、私の勝ちで良いわよね」
『白霧の森狐』は、顔面に縦一本の切り傷があり。
そこから血を噴き出しながら境内へと倒れ伏した。
当然、このままだと私は死ぬだろう。
私が普段使っている回復アイテムは精々良くて骨折を治す程度の効果しか持ち合わせていないものが多い。
だが、そうはならない。
私の身体が一瞬光に包まれたかと思うと、次の瞬間には噛み千切られた部位が全て復活し、HPの減少自体も1を残して停止する。
フィッシュがこの場に私を送り出す前に渡してくれた、一種の自動蘇生アイテムの効果だった。
『……また、来るがいい。その時に諸々の話はしよう』
「了解、しっかり休んどきなさいな」
【ボス遭遇戦をクリアしました】
【以後、通常フィールド上に『惑い霧の森』の敵性モブが出現しなくなります】
ログが流れ、境内に僅かに残っていた瘴気が何処かへと消えていくのを確認しながら、私は一息ついた。
結果だけ見ればかなり限界に近い……といえばそうだろうが、戦闘自体はかなり余裕を持って進めることは出来ていた……筈だ。
一応、ボスエリアの手前で待機しているフィッシュ達にメッセージで連絡をした後、【血狐】をクッション代わりに休憩する事にする。
と言ってもそれも少しの間だけだ。
HPが回復し次第、ダンジョンから出てイベントを進めた方がいいだろう。
未だイベントの最中なのだから。
――――――――――
「お、アリアドネちゃんの方終わったみたいだね」
「そうみたいですね。瘴気も薄れていきますし」
近くまで来ていた瘴気を纏ったミストベアーの半身を消し飛ばしつつ。
私は送られてきたメッセージに目を通す。
先程、恐らく戦闘中に変な気配が……私が知っている様で違う気配がしていたが、何もないと良いのだが。
ボスエリア前で簡易的な拠点を築き、アリアドネが帰ってくるのを待っている間。
残された私達は適当に狩りを行いながら掲示板にてイベントの情報収集を行なっていた。
「しかし、大ボスの情報っぽいのはまだ見当たらないねぇ」
「それらしいのは見つかってますけどね。図書館とかから」
「あー……まぁ仕方ないんじゃないっすか?この手の類って討伐数か条件満たさないとそもそも出て来なそうだし」
「そうそう。このダンジョン内を偵察させてる私のホムンクルス達もそれらしいの見つけてないし……まぁ順当に考えて瘴気系のモブを討伐、瘴気系ダンジョンの攻略辺りがキーかも?」
結局の所、私達の元に新しい情報はほぼ入ってきていない。
というか、目新しい情報が無さすぎるのだ。
これではどこを目指せば良いのかが分からない。
まぁArseareの運営ならば、少し待てば全員に分かる形で何かしらの情報程度は出してくれるだろうから、あんまり焦ってもいないのだが。
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