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第6章 雷鳴轟く瘴気の大地にて

【螟ァ鄂ェ縺ォ、蜥惹ココ縺ク縺ィ】

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この世の中には、仮想空間含め都合の良い力なんてものは存在していない。
多大な富を産み出すには、多大な犠牲を必要とする。
過剰な力を求めるならば、過剰とも言える試練を乗り越えねばならない。

代償があるから結果が存在し、代償無き結果は普遍的以下の物にしかなり得ない。
だからこそ、ならばこそ。
代償を司るモノは今、深淵から笑みを浮かべ手を伸ばす。


――――――


目の前に広がるは肉の壁……ではなく。
何処かの図書館のような様相をした謎の空間だった。
否、実際にそこは図書館なのだろう。
天まで届く程に背の高い書架が立ち並び、そこにはぎっしりと本が納められている。
この場に着いた時点で一度戦闘状態が解けたのか、発動していた魔術や取り出していた『面狐』が仕舞われているのが感覚で分かった。

「……このタイミングで、かぁ」

そして私はここが何処なのか、薄っすらと理解だけしていた。
というのも、書架に納められている本が何処かで見たことのある紫色のオーラを纏っていたからだ。
それも一冊、二冊というレベルではなく。納められている本全て・・がそうなのだから性質が悪い。
脳裏に過ぎるのは、イベントが始まる前に体験した特殊イベント。
あの時は白い空間に白い甲冑騎士が出現していたのだが……今回はまだそういった分かりやすい敵が出てきてはいない。

……早く帰らないといけないのはそうだけど、こっちもこっちで強化イベントっぽいんだよねぇ。
あの時私が得た報酬の名称を考えるに、ここは恐らく禁書庫と言うべき場所なのだろう。
そして神の力を転移魔術という『場所を移動する』という点においてこれ以上ない術に乗せたからだろうか。
インベントリ内に放置していた『禁書庫へと至る鍵』が変な化学反応……この場合は魔術反応と言った方がいいか……兎に角。
何かしらの反応を起こした結果、私はこんな場所へと飛ばされてしまったのだろう。
では、ここから出るには?
当然、入れたからには出る術も存在しているはずだ。……多分。

「探すしかないよね。……というか、見覚えがあるなぁとは思ってたけど、この本全部魔導書か……」

悪性変異を放っておいた結果、もしくは悪性変異を気にせずにカルマ値を上げすぎた末路なのか。
どれも現状の私が触れるには恐ろしい程の魔力を放っているように思える。
あれらを読んでみたいという好奇心が湧いてくるのを感じるものの、それは真っ当に出口を探した上で見つからなかった時にするべきだろう。

とりあえず、という体で私はどこまでも続いていそうな図書館の中を恐る恐る進んでいく。
本当ならば【霧狐】などの索敵系魔術を使った方がいいのだろうが、こうも周りが悪性変異した魔導書ばかりであると何が起こるか分からない為に二の足を踏んでしまう。

だが、その必要はなかったようで。
ある程度書架の間を進んでいくと、大きなホールのように開けた場所へと出ることができた。

「あー……成る程?」

そしてその中央。
ぽつんと置かれた木製の小さなテーブルの上に、一冊の古めかしい本が置かれているのが見えた。
警戒しつつも近付き、何が起きても良いように片手に『面狐』を持ちながらその本を手に取ってみる。
そこには、

「……『The jealousy first tale』……」

読みにくい筆記体で書かれていた。
直訳すれば『嫉妬の第一話』とかそんな辺りだろうか。
読みたくはない。こんな怪しい場所に、如何にもという風に置かれている本を読むなんて事はしたくない。
罠にしか思えないからだ。

だが、読まないという選択肢は現状の私には存在していない。
何せ、この謎図書館空間からの脱出の糸口になるかもしれないのだから。

「ええい、南無三!」

息を吸い、気合を入れ本を開く。
するとそこには、

「白紙?いや、これは……ッ!」

何も書かれていなかった。
否、恐らく書かれてはいたのだろう。しかしながら私が本を開くと同時に何かインクのようなものが本のページから空中へと飛び出し、私の身体に纏わりついてくる。
やはり罠かと、霧を引き出し足を踏み鳴らし【衝撃伝達】によってその場から離れようとするも、何故か発動せずに魔力が霧散してしまった。どうやら逃してはくれないらしい。

そんな事をしている間にも纏わりついてくるインクの文字に、仕方なく目を向けてみるとそこには。

「……魔術言語」

意味のある言語の羅列でない。
どれも単体では効果を発揮しない、もしくは効果を発揮するとしても人体に影響を与えないレベルの稚拙な魔術言語の単語達。
しかしながら、私は知っている。
魔術言語の単語を組み合わせて別物へと昇華させる術を知っている。

……儀式魔術、それも私が知ってる以上に複雑だ。
私の知る範疇に無いモノに捉えられてしまっている以上、私はその場で動かずに思考を早回しし始める。
そんな私を放置して本から今も飛び出してくる魔術言語は、ある形を形成していく。

文字で身体が作られ、そして意思を持っているかのように私に巻きつき、口を開く。
その姿は、蛇のようだった。

『――問おう。汝、力を求めるか?』
「いや、一昔前の魔王か何か?」

変に無機質な機械音声につい真顔で返してしまったが、状況は良くは無い。
何せ魔術言語で出来た蛇は徐々に私の身体を伝い、首へと巻きつこうとしているのだから。

「力、力ねぇ……うん、欲しいよ。すごく欲しい」

偽りの無い本心だ。
力があれば……フィッシュのような力があれば、灰被りのような力があれば、メウラのような力があれば私はなんだって出来るだろう。
このArseareという世界を自由気ままに旅する事が出来るだろう。

『ならば――』
「でもさぁ、他人から勝手に授けられるもんほどつまらないものはないよね」

ボス達から貰ったものを否定するつもりはない。
あれらは正当な報酬だ。しっかりとした戦闘を行い、彼らに認められたからこそ得た戦利品だ。
しかしながら、恐らくこの魔術言語の蛇が与えようとしているのはそういった類のものではない。

「だから――授けるなら試練を。無償で手に入れる力には興味無し。……あぁいや、もし何もくれないならくれないで、元の場所に戻してくれる?こっちもこっちで取り込み中なんだよね?」
『――呵々ッ。失礼、狐の女子よ。まずは謝罪を。貴殿の志を蔑ろにするような問をして申し訳ない』

雰囲気が変化した、というよりは中身が変わったと言うべきだろう。
先ほどまでの無機質な機械的な声ではなく、何処か少女のような声に変わった。
だが、警戒自体は解かない。
というか身体に巻きつかれたままなのだ。警戒を解いた瞬間に首を絞められたら目も当てられないだろう。

「……で、ここから出してくれるの?それとも試練か何かやるわけ?」
『先ずはここから元の場所……あぁいや、少しばかり座標・・がズレておるようだし、女子が跳ぼうとしていた場所へと送ろう。その後……そうだな、今外で行われている祭宴が終わり次第、またここに呼び試練を行おうではないか』
「……私が言うのも何だけど、結構こっちに都合が良い事言うね。何か良いことでもあった?」
『女子を気に入ったまでの事よ。さて……では送ろうではないか』

そう言って、魔術言語の蛇は私の身体から離れ宙へと浮かぶ。
恐らく実体と呼ぶべき者はないのだろう。
正体が何かは分からないものの、これと戦う場合は……現状の私には手の打ちようがほぼ無いに等しい為、ここで見逃してくれるのは素直にありがたい。

『あぁ、そういえば名を聞いていなかったな。女子、名は?』
「名前を聞くなら先に言うのが礼儀じゃない?」
『呵々、これはまた失礼した。我は【嫉妬の蛇】。名と呼べる固有名は無いから好きに呼ぶと良い』
「私はアリアドネ、よろしくね蛇さん」

私がそう言うと、【嫉妬の蛇】は楽しそうにひとしきり笑った後にゆっくりと私に向かって口を開いた。

『また会おう、アリアドネ』
「出来れば穏便に済む案件でお願いしたいけどね」
『善処しよう』

次の瞬間、私は突然宙へと投げ出されたかのような無重力感に襲われ……そして。
何処か見覚えのある薄暗い肉壁が周囲を覆う場所へと転移させられた。
私はその光景を見て気持ちと思考を切り替える。
先ほどまでの出来事は今は頭の奥に仕舞い込み、目の前の……馬鹿狐の腹の中から穴を開けて外へと出る事を優先しなければならない。
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