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第6章 雷鳴轟く瘴気の大地にて

Episode 27

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「……行く、かぁ」

周囲を警戒しながら私は石畳の上を歩いていく。
何かに呼ばれているかのように。
この先に何が待っているかは知っている。確実に待っている確信がある。
だから、進まないという選択肢は私の中には存在していなかった。

進んでいくにつれ、灯篭と石畳だけだった通路にも変化が訪れる。
紫混じりの白い霧の中でも、はっきり分かるほどに何度も見た赤。
連続して設置されている赤の鳥居の端を歩くようにしながら、私は黙って進んでいく。

そして辿り着いたのは、いつも通りの光景の……私が仲間と共に修繕した森の中の神社。
だがそこでいつも通りに作業や雑談をすることはできない。
身体の制御が奪われ、私の視界は一瞬ブラックアウトする。
いつものお約束・・・という奴だ。

――――――――――――――――――――

『……』

巨大な狐はそこにただ佇んでいる。
初めて会った時とは違い、ただただその場に突然現れ、そしてこちらをじっと見る。

白く巨大な狐には、角が生え、その美しい毛並みを持っていた尾は燃えている。
だがその綺麗な顔をこちらへと向け。
その理性の残った視線を私へと向けながら、ただ佇んでいる。

試練の時だ。

――――――――――――――――――――

【イベントダンジョンボスを発見しました】
【ボス:『瘴侵の森狐』】
【ボス遭遇戦を開始します:参加人数1人】

そして私の身体の制御は戻り、動くことが出来るようになる。
だが、すぐには動かない。

「……ねぇ、馬鹿狐」
『……』
「アンタ、絶対今話せるでしょ」
『……はぁ。すぐに戦闘に入れば良いものを。狐の女子は何故……』

以前も似た状況はあった。
そして今回はご丁寧に自分には理性があると、ムービー処理中に訴えかけてくるようにこちらを見ていたのも決め手だ。
この状況が特殊である事は否定しないが、ある種私と狐にとってはいつも通りとも言える。

「で、これが前に言ってた試練で良いわけ?」
『本当は少しばかり違うのだが……まぁ良いだろう』

狐は一度言葉を切る。

『――これは試練である、挑戦である、闘争である。汝の位階を上げる為に必要な道程である。我を一度砕きし創魔の術師よ。これは乗り越えていくべき障害である』
「……ッ」

その身からいつも感じる……否、初めて戦闘した時にだって感じたことのないプレッシャーと、濃いを発しながら。
狐は、『瘴侵の森狐』とシステムに呼ばれた者は言葉を紡ぐ。

『この試練は汝でなければ乗り越えることはできぬ。さぁ、我と同じ起源を持つ獣人よ。我を乗り越え、次の位階に相応しい姿を見せよ』

言いたい事を言ったのか、狐は黙る。
こちらが何かを言うのを待っているのだろうか、それともただただ感傷か何かだろうか。
その姿に私は少しだけ笑いながら、嘆息する。

「……え、終わり?」
『あぁ。ではここからが戦闘開始だ……泣くなよ?』
「はぁ……じゃあ1つだけ言うけれど」
『……なんだ?』
「お前学習しねぇな?【ラクエウス】」
『……』

私の使う魔術を読んでいたのか、『瘴侵の森狐』はその場から余裕をもって退避する。
退避する先は後ろではない。寧ろ前。
私に向かってその巨体を突進という形で突っ込ませてきた。
だが、それくらいは私も予想出来ている。否、知っている・・・・・

足を踏み鳴らし発動させた【衝撃伝達】を使い、その場から左へと離脱しつつ。
私は少し前。ボスエリアに入る前にフィッシュや灰被りから言われた事を思い出していた。


――――――


「よし、決めた。ここのボスエリアはアリアドネちゃんだけに挑んでもらおっか」
「えっ」
『「「は?」」』

フィッシュが突然言い始めたことが理解できず、変な声が出てしまう。
だが、彼女の目を見るとそれが冗談で言っている事ではないのが分かってしまった。

「というよりも……恐らく【回帰】や【貫徹】などの文字が刻まれているとしたら、私達が居る事で攻略が不可能になる可能性があるのですよ」
「……灰被りさんは何か知ってるので?」
「まぁそれなりに……というよりは第5フィールドのダンジョンを何個か攻略していれば知っていてもおかしくはない情報ですね。寧ろキザイアさんが何故知らないのか、という所なんですが」
『私達はまず、ある程度全方向のフィールドのダンジョン攻略をメインに進めるから。実を言えば、私自身はまだ第5フィールドには辿り着いてないわよ』
「成程」

何やらフィッシュに加え、灰被りも事情が分かっているかのように話しているが、説明が足りていない。
私が何故、1人でボス戦に挑まないといけないのか。

「あぁ、そんな目をしないでくれよアリアドネちゃん。本当にコレしかないんだって」
「そうですね。説明すると【回帰】や【貫徹】……それらに近い言葉が刻まれたボスやモブというのは、1度目は簡単に倒す事が出来ます。それこそ、他に存在しているモブ達と同じように。しかし、2度目以降はそうそう簡単にいきません」
「……2度目以降は強化されるんですか?」
「いや、強化はされないね。ただ1度目に殺した方法・・・・・・・・・以外で死ななくなる・・・・・・・・・
「……それで私1人、ですか」

とんでもないギミックがあったもんだ、とは頭に過ぎったものの。
そういうギミックが存在しているのならば、確かにフィッシュが言っている意味は理解できる。

「でもそれなら1人じゃなくても良いですよね?攻撃は私が担当するにしても、支援とか」
「あー……いやね、アリアドネちゃん。さっきも灰被りちゃんが言った通り、このギミックって第5フィールドのダンジョンから出始めるんだけどさ……」
「言ってましたね」
「単純に、検証の数が足りてないんですよ。分かっているのは1度目と同じ方法で殺す必要がある。でもそこに1度目に居なかったメンバーが居ても良いのか、というのがはっきりしてないんです」
「あは、私も灰被りちゃんもお互いに情報交換はしてるし、たまに組んで一緒に攻略もしたりしてるんだけど、どうやら第5以降の特殊なギミックについては、辿り着いてないプレイヤーには掲示板で調べても出てこなかったりするみたいでね。情報をこうやって渡そうにもこんな特殊な状況じゃないと、認識できないのか声が聴こえなかったり、書いたメモが読めなかったりするんだよ」

恐らくはネタバレ防止用の措置ではあるのだろう。
ならばゲーム外で共有すればいいのだろうが、それもそれで問題がありそうだ。
ここの運営なら、思考ログからゲーム外で情報を得たことくらいは看破してきそうだし、何ならそれにかこつけて『貴方は現状知り得ぬ情報を知ってしまった!』とか言いながらペナルティをかけてきそうな気もする。
魔術にはそういった類の危険物が大量にあるとされているのだから尚更だ。

「……だから、出来るだけ1度目と同じ状況を再現すると」
「そういうことだね。一応私が持ってる自己蘇生系のアイテムとか魔道具とか貸すよ。……多分これがギリギリできる支援かな」
「そうなりますね。下手にステータスが上がるバフなどを掛けるとギミックが発動する可能性がありますし」
「……了解です。やります。やってやりますよ。キザイア、これで私がクリアできたらもう一回そっちも攻略頼める?」
『了解。良い報告を待ってるわ』

通話は切れ、単機関車内に沈黙が訪れる。
RTBNとメウラの2人は少しばかり気まずそうに。
フィッシュと灰被りは私に渡す用のアイテムをそれぞれ選んでいるのか、虚空と睨めっこしている。

『創造主様も大変ですね』
「そう思ってるなら手を貸してほしいんだけど、コンダクター?」
『申し訳ございませんが、話を聞く限りでは私も手を貸す訳にはいかないのでは?』
「そう、なんだよねぇ……はは……頑張ろう」


――――――


そして時間は今へと戻る。
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