上 下
228 / 269
第6章 雷鳴轟く瘴気の大地にて

Episode 25

しおりを挟む

暫く。
普段ならば既にボスエリアである神社へと辿り着いていてもおかしくは無い時間、この瘴気と霧の立ち込める森の中を彷徨っている。

「本当に手ェ出さなくていいのかーい?」
「いくら自動回復あると言っても!ここ一番って時に代償に使えるものが無くなって貰ったら困るんで!」
「あは、そう言われたら仕方ない。警戒は任せておいて」

そして彷徨っている分、戦闘数は増えていく。
森に入ってすぐに遭遇した仮称瘴気熊は含めないにしても、既にその数は十を超えていた。
疲労自体は少ない。だが、それ以外のものがとにかく消費されていく。

「こっち終わったぞ!」
「おっけ、じゃあ終わらせるッ!」

左側から聞こえてきたメウラの声を合図に、私は目の前の剣を持った人型へとラッシュをかけていく。
通常、深層から出てこない筈のミストヒューマン。
それが瘴気のような紫の霧を纏いつつ、上層である筈のここにいる理由は分からない。だが、対処の仕方自体は変わらない。

紫の霧をミストヒューマンから遠ざける様に移動させつつ、私はその胴体へと一足飛びに近付き『面狐』を撫でる様に横へと振るう。
カウンターを狙う様に剣を振るってきているものの、発動させていた【路を開く刃を】によって簡単に防ぐことができた。
瞬間、発動した追撃と共に三つの裂傷が人型へと刻まれ……程なくして光となって消えていく。戦闘終了だ。

「何体?」
「こっちは5だな」
「私の方は12、RTBNは?」
「……8。多くない?」
「あは、多いねぇ。まるで深層の群れみたいだ」

フィッシュの言う通りだ。
上層であるにも関わらず、深層のような群れが出現する。イベント的な処理で出現しているのならば良いのだが、これが今後スタンダードとなるのなら……少し考えねばならない。

「霧見通せるから楽だと思ったんだけど……もう面倒ですね。列車使いますか」
「列車?何?君近接職の次は運転手ライダーにでもなったの?」
「似た様なもんかな……よーし、皆警戒任せます」

唯一この場で、私の【霧式単機関車】を見たことのないRTBNが疑問をぶつけてくるものの。
見てもらった方が早いため、私は少し早口で詠唱を行い、そして発動させる。
今回は初めっからコンダクター込みで出現だ。

「コンダクター、ボスエリアまでって案内できる?」
『……多少無茶はありますが、可能かと。しかしながらこの霧によって方向感覚が狂わされている可能性があります』
「つまり?」
『通常よりも時間が少しばかり掛かるかと』
「問題なし。……さて、皆乗ろうか」

そう会話を行い、パーティメンバーへと振り向くと。
全員が全員、困惑している様に見えた。
……あー、なんかフィッシュさんもコンダクター見た時慌ててたなぁ。

当然の困惑か、と1人納得する。
というのも、正直言ってコンダクターのような魔導生産物など私も他に見た事がないからだ。
知性があり、会話ができる。
これだけなら沢山いる。それこそ私の持つ【血狐】がそうだろうし、知り合いの中にも似たような魔術を持つ者も居るだろう。
しかし、それはあくまで単語のみや幼稚園児相手に会話をするように拙い物が多い。

だがコンダクターはこちらの意を読み、そして考えコミュニケーションを取る。
その点が他とは決定的に違うのだ。

「……まぁ、説明は後で。今はする暇なさそうですし」

そう言って、メンバーを無理矢理に単機関車へと乗せていると。
突然、ゲーム内通話の着信音が鳴った。
とりあえず自身も乗り込んだ後に通話を飛ばしてきたプレイヤー名を確認し、少しだけ嫌な顔をしてしまう。

「誰からだ?」
「……キザイア」
「ってことは向こうの攻略も終わったのかな。これで楽になるわ」

そう言ってケラケラ笑うRTBNに対し、私を含めた他の面々は沈黙する。
今回のイベントは『駆除班』がメインの前線を張って敵性モブ達を狩るようなイベントだ。
キザイアはそのクランのトップ。当然、他のクランメンバーよりも忙しく、そしてこんな通話をかけてくるような暇はないはずなのだ。
だが、かけてきた。

「……出ます」
「あ、こちらで呪詛関係に対応する魔術は準備しておきます」
「じゃあ俺は擬似聖域の構築だな」
「メウラくん、ごめんだけど私はそれの対象外にしておいてくれる?持ってる魔術の都合で弱体化するから」
「了解っす」

パッパッと何が出てもおかしくないように準備をする面々を見てRTBNが少しばかり混乱しているものの、私は準備が整ったのを確認してから通話に出た。

『クソッ、やっと出たか!』
「口調乱れてるよ?キザイア」
『んなこと後で良いわよ!アンタ今どこ?!』
「え、『惑い霧の森』のイベント仕様に潜ってるけど……」

そういうと、通話先のキザイアは大きい溜息を吐きつつ、

『良い?よく聞いて。――こっちは失敗した・・・・
「……は?」

キザイアに言われた言葉がよく分からず、思わず聞き返してしまう。
だが、再度苛立ったキザイアが言った言葉によって状況が飲み込める。

『だからボス討伐に失敗したの・・・・・・・・・・!もしかしたらイベント仕様ダンジョン自体が罠の可能性がある!出れそうなら……ってそこ『惑い霧』か……!』

想定された中で最悪な状況が。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

元カノ

奈落
SF
TSFの短い話です 他愛もないお話です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

処理中です...