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第6章 雷鳴轟く瘴気の大地にて
Episode 10
しおりを挟む中に入ると、他の街の図書館と同じように受付のNPCがこちらへ簡単な説明をしてくれる。
図書館自体の雰囲気も他と別段変わるような所はなかった。
……気のせい……かなぁ。気のせいなら良いんだけど。
だが警戒は解かない。この『いつも通りの雰囲気』自体が罠の可能性もあるのだ。
何が罠を張っているのか、こちらを誘い込もうとしているのか分からないのだから。
「……なぁ、アリアドネ。どうした?」
「ん?何が?」
「お前、何か警戒してんだろ」
出来る限り外から見ても分からないように周囲を警戒していたのだが……流石に長い事一緒にゲームをプレイしていないのか、メウラには気が付かれてしまった。
彼も彼で私が警戒状態……いつでも戦闘が出来るように身構えているのが分かったからか、彼なりの戦闘準備を周りに気が付かれないように行っていくのが目にとれた。
「いや、ちょっとね。気になる事があって。……多分、これ私だけだと思うよ」
「そうか?……成程、そういうタイプのイベントか?特定条件下じゃないと認識すら出来ないタイプ」
「多分そうかな。だからメウラはいつも通りで良いかも。もしかしたら強制転移系かもしれないし」
「了解した。だが一応パーティ招待はしておくぞ。ワンチャン強制転移でもパーティメンバーなら一緒に飛ぶ可能性あるからな」
「ありがとう」
出来る限り小声で。
尚且つ、出来る限り迅速に。
私達は図書館内の目的地である魔術書が存在するエリアへと足を進める。
だが、それと共に私の感じた雰囲気が濃くなっていくのを感じた。
……うん、これ『禁書棚』かカルマ値系のイベントかな。
そしてそれが一番濃くなったのは、魔術書の収められた本棚の目の前に立った時だった。
私は目線をメウラに向けると、彼は困ったように頬を掻く。
彼自身も私から話を聞いた上で、もしかしたらと考えていたらしい。
「じゃ、取ってみる」
「おう、周りは任せろ」
そう言って、私は本棚から魔術書を……今回習得する付加魔術について書かれているであろう『付加の魔術書~必ずしも全は個の為ならず~』を引き抜いた。
瞬間、
【特殊イベントの発生条件を満たしました】
【特殊エリアへと転送します。対象プレイヤー:アリアドネ】
【特殊イベントのクリア条件を設定……対象のプレイログを確認。設定完了】
【特殊イベント『技術を用い、生き残れ』を開始します】
【特殊条件下により、一部習得魔術が発動不可になりました】
私の視界は知らない場所へと飛ばされた。
広く、しかしながら体育館ほどの大きさしかないそこは、白のみで構成されている空間だった。
身体に変な場所はないかをパパッと確かめた後に、私は身体を浅く落としいつ何が来てもいいように身構えた。
……予想通り、と言えば予想通りだけど。まさか本当に転移させられるとはねぇ。
最近、というかどっかの馬鹿狐が乗っ取られて以降、どこかに飛ばされる事が多いように思える。
関係はないのだろうが、少しだけ関連性を疑ってしまうのは仕方ない事だろう。
『START』
「うげ」
短く、電子音声のようなノイズ混じりの声が聞こえたと同時。
私の目の前に白い甲冑を着た騎士のような何かが1体出現した。
その騎士はこちらを見るやいなや、腰の剣を鞘から引き抜き横に薙ぐように振るう。
だがいくら突然現れたからと言って、私がそんな攻撃を至近距離でも喰らうはずもない。
騎士が剣の柄に手を掛けた瞬間にはバックステップを開始し、姿勢を深く下げそのまま更に相手から距離をとるように後転も行う。
……うーん、早いなぁ。
騎士の動作が、というわけではない。
戦闘に入るまでの、私を見つけてから攻撃という判断を下すまでの思考速度が早いのだ。
人型だからこそ、一瞬だけでも考えてから行動に移しているとは思うのだが……それでも頭と腕が直結しているのかと思うレベルで早い。
敵なのだからAIで思考速度が高速化されていると考えれば納得は行くが、それはそれでこのゲームらしくはない。
「ま、良いか。確か魔術が発動不可になってるんだっけ……ってほぼ全部だめになってんじゃん」
ちらと自身の習得魔術一覧を開き、使える魔術を確認してみれば。
ほぼほぼ全て……使えるのは【魔力付与】と【霧の羽を】のみ。
普段使っている【衝撃伝達】や、【血液強化】が使えないとなると高速移動を行って攪乱するという戦闘方法が使えない。
……霧は……うん、出せる。装備自体は制限無しか。
狐面に触れ、一気に自身の周囲を濃霧で覆う。
思考速度が早く、ほぼほぼ即断してくるであろう騎士相手に目くらましとなってくれるかは置いておいて、自身の有利な状況にもって行くのは良いことだろう。
「『技術を用い、生き残れ』……まぁ状況的にそういう事なんだろうけど、試すのも大事ってことで。ちょっと肉弾戦やってみようか!」
私は足に力を入れ、霧を操りながら騎士へと向かい走り出す。
と言っても、素直に真正面から行けば真っ二つに斬られるだけだろう。
だからこそ、霧を使う。
霧を使い、普段は狐の形にしている所を私そっくりに作り出し、それを騎士の目の前へ向けて走らせる。
即席のデコイだ。勿論中には触れた者を凍り付かせる魔術言語を仕込んだ罠付きだが。
その間に私は横を抜け、ようとした所で。
「あっぶなぁ!?」
騎士の顔が霧のデコイではなく、私の方を向いているのに気が付き咄嗟に横へと……騎士から再度距離をとるように跳んだ。
私が跳んだ一瞬後、私が通り抜けようとしていた場所に向けて剣を振り下ろす騎士の姿が見えた。
そのままデコイを過信して進んでいれば剣の餌食になっていたことだろう。
……デコイは……あー、今ので気が緩んだから消えちゃったか。
高鳴る胸を押さえつつ。私は騎士の方を改めて見据える。
長い戦いに、イベントになりそうだ。
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